
0-3歳の子を持つ親の子育ての悩み第1位は「子どもの睡眠」。乳幼児の睡眠に悩む家庭は多いにもかかわらず、日本ではその知識や支援が十分に普及しているとは言い難い現状がある。
こうした課題解決に取り組んでいるのが、「乳幼児睡眠の専門家」として活動する三橋かなさん。地方局のアナウンサーとして活躍した後、退職。現在、彼女は日本では430名ほどしか保有者がいない米国IPHI公認資格(国際認定資格)「妊婦と乳幼児睡眠コンサルタント」という資格を取得し、専門家の道を歩んでいる。
「妊婦と乳幼児睡眠コンサルタント」は0〜5歳の子どもの睡眠を科学的にアプローチ
三橋さんがこの資格に出会ったのは今から6年前、自身の育児中のことだった。
彼女自身、子どもの夜泣きに悩まされ産後うつになる中、SNSで見かけた広告だったという。
「息子がなかなか寝てくれなくて、毎晩ヘトヘトでした。どうして眠らないのか、どう接すればいいのかも分からず、毎日とても不安を抱えていました。私自身、誰に相談をしていいか分からずに悩んでいたのですが、そんな時に出会った『妊婦と乳幼児睡眠コンサルタント』という言葉は非常に惹かれました。誰に相談したらいいか分からないなら、自分で知識をつけようと思い資格取得を決めました」
資格取得には14週間のオンライン講義の受講と14週間のケーススタディ(実戦)が必要(2025年6月現在)。1年ほど時間をかかったが彼女は2020年に資格を取得する。
「学ぶこと、知識をつけることで私自身、精神的にも肉体的にもかなり楽になりました。同時に、私と同じように苦しむ世の中のお母さんたちの助けになりたいと思い専門家として活動を始めました。
私たち『妊婦と乳幼児睡眠コンサルタント』は妊婦さんと0〜5歳のお子様が抱える睡眠の悩みを科学的根拠を基に改善し、一人ひとりにあった睡眠改善を支援する専門家です。乳幼児の睡眠改善に絶対の正解はありません。ご家庭ごとの正解があります。各家庭の状況をしっかりと受けとめながら、無理なトレーニングや負担を強いることもなく、そのご家庭にぴったりの方法を提案していくことが私たちの仕事です」
子どもがすぐ起きてしまう理由も科学的にわかっている
例えば、多くの親が「なぜ、うちの子どもはすぐに起きてしまうのか」との悩みを抱えている。
「実は、大人と乳幼児では『睡眠サイクル』が全然違うからなんです」と三橋さんは解説をする。
「大人は90分の睡眠サイクル (このサイクルは一晩のうちでも大きく揺らぐため、個人差があります)ですが、新生児は40〜50分サイクルと非常に早いんです。これは最近の睡眠研究でも明らかになっています。
深い眠りにつくまで10〜20分ほど時間がかかり、40分を過ぎたあたりから徐々に浅い眠りへと移行します。そのタイミングで、赤ちゃんが眠った状況と同じ状況にしてあげることで 赤ちゃんは安心して寝続けてくれる可能性が高いんです。こうした基本的なメカニズムを理解しているだけでも、保護者の精神的な負担は大きく軽減されます」
三橋さんは、科学的根拠に基づいたアプローチを用いて、家庭ごとの事情に寄り添いながら、寝かしつけの具体的な改善策を提案しているという。
夢は「乳幼児睡眠の専門家」という職業がなくなること
現在、三橋さんは「ねんねブーケ」という事業を展開。
乳幼児のママ・パパを対象にしたコンサルティングサロンの運営や、SNS等を通じた情報発信を行なっている。
2021年からの4年間で2500名以上のママパパからの相談を受け改善に導くなど専門家として精力的に活動をしている。
一方で、日本においては「乳幼児の睡眠改善」に対する社会的な認知はまだ十分とは言えない。
「夜泣きや寝かしつけは苦労をして当たり前、という考えがまだまだ社会全体に根付いています。
そして、そうした苦労は自分で解決しないといけないものだと親自身が思い込んでしまっています。
こうした背景から、子どもの睡眠は科学知識によって改善できるということ自体、知らない人が多い。まずは私たちが積極的に発信することで少しずつ認知を広げていかないといけないんです」(三橋さん)
今後は、行政や医療機関とも連携し、乳幼児睡眠に関する正しい知識を必要とする家庭へ届ける取り組みをさらに強化していく予定だと言う。
「将来的には『乳幼児睡眠の専門家』が必要とされなくなる社会を目指したい」と三橋さんは語ってくれた。
すべての家庭に正しい知識と安心が行き渡り、親子ともに健やかな睡眠が確保される社会の実現に向けて、三橋さんの活動は続く。
三橋かなさん
IPHI乳幼児睡眠コンサルタント、ねんねブーケ代表
自身が夜泣きに悩んだ経験から乳幼児睡眠の国際資格を取得。小・中・高校教員免許保持。保育士養成系大学での講師活動や、企業と連携し睡眠講座も開講。Instagramを中心に発信を続け、総フォロワー1・6万人。月150組相談、のべ2500人以上の睡眠相談実績を持つ。自身が運営する「るるるん。ねんねサロン」では、毎日夜泣きや離乳食、子育て相談ができる。元アナウンサー。
取材・文/峯亮佑