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なぜAppleは全OSのデザインを統一したのか?「Liquid Glass」が示す、次世代の直感的なユーザー体験

2025.06.12

 アップルは、6月9日(現地時間)に開発者向けイベントWWDCをスタートさせた。例年通り、初日の基調講演ではアプリの基盤とも言えるOSの新バージョンを発表。同社製品に搭載されるiOS、iPadOS、watchOS、macOS、tvOS、visionOSのアップデートが秋に行われることが明かされた。

WWDCの基調講演では、アップルの各製品に搭載されるOSの次期バージョンが発表された。一般の利用者が試せるパブリックベータ版は7月に公開される

 これまでは、それぞれのOSが1から順にアップデートしていたが、登場時期が異なることもあり、ナンバリングがバラバラになってしまっていた。iOSは現行バージョンが18なのに対し、watchOSは11といった具合だ。ここに、製品のナンバリングが加わると、どの製品にどのOSが使われているのかが分かりづらくなる。

OSのバージョンが年度表記になり、統一感が上がった

 そこで、アップルは次期バージョンから番号を年号に合わせて統一する。翌年まで使われることから、次期バージョンでは「26」を冠する。OSの数が多く、内容は多岐に渡るが、WWDCやそこで発表されたそれぞれのOSで注目すべきポイントはどこになるのか。普段、スマホや通信分野を取材している筆者の視点で見た、WWDCの注目トピックを取り上げていきたい。

新UIのLiquid UI、背景にある製品連携やパフォーマンスの向上

 OS全体に渡るもっとも大きなアップデートは、共通のデザインを採用することだ。これまでも、iOSとiPadOSは中身が近かったり、macOSとiPadOSで同一の機能を載せたりといった類似性はあったが、アップルは、次期バージョンで一歩踏み込んですべてのOSを新しいデザインランゲージで統一する。それが、「Liquid Glass」だ。

 液体ガラスを意味するLiquid Glassだが、その名の通り、半透明でガラスのようなユーザーインターフェイス(UI)が採用される。ボタンなどを表示した際に背景に隠れてしまうコンテンツそのものを完全にさえぎらず、ユーザーの没入感を損なわないデザインになっていると言えるだろう。UIがより控え目になるというわけだ。

本物のガラスのような質感を再現したLiquid Glass。コンテンツをさえぎらないのは、大きなメリットだ

 ただし、通常のガラスだと硬く、サイズの変更ができない。Liquidと呼ばれているのはそのためで、このUIは表示しているコンテンツに合わせて、サイズが可変する。アプリのメニューなどでは当然、ロック画面の時計も、壁紙の空きスペースや通知に合わせてその縦横比率を変えていく。こうしたUIが、すべてのOSに貫かれているのが次期バージョンの特徴と言えるだろう。

 ナンバリングをまとめて「26」にした背景には、こうしたデザインランゲージの統一もある。分かりやすさや覚えやすさと同時に、すべてのOSがつながっていることを示していると言えるだろう。WWDCではそれぞれのOSや製品を連携させる機能が増えた結果、デザインの統一化を図ったと説明していた。

すべてのデバイスに、統一したUIを採用する。バージョンナンバーをそろえた理由の1つだ

 例えば、MacにiPhoneの画面を映す「iPhoneミラーリング」などはその1つだ。新バージョンのmacOS Tahoe 26では、iPhoneと同じ「ライブアクティビティ」という機能に対応する。Uber Eatsなどの配達状況を常時示すものだ。Mac上でここをクリックすると、iPhoneミラーリングが自動的に立ち上がり、詳細がMacの画面上に表示されるようになる。

macOSがライブアクティビティに対応。さらにそれをクリックすると、そのままiPhoneミラーリングが起動する

 ここまで連携が進むと、やはりUIのデザインは統一していた方が分かりやすい。単純に意匠として磨きをかけただけでなく、直感性も増しているというわけだ。もちろん、半透明の処理や、動きに合わせて変わるUIは、デバイスの処理能力を要求される。特に消費電力を抑える必要があるiPhoneやApple Watchなどのデバイスで、十分なパフォーマンスを発揮できるようになったことも背景にある。まさに今が導入すべきタイミングだったと言えるだろう。

処理能力の向上により、計算量が膨大になるLiquid GlassのようなUIが実現した

サプライズだったiPadOSの刷新、よりPCに近づくiPad

 機能面で、もっとも目を引いたのは、基調講演のトリを飾ったiPadOS 26ではないだろうか。目玉になったのが、マルチタスク機能とマルチウィンドウ機能の強化だ。これまでのiPadOSにも、「ステージマネージャ」があり、複数のアプリをPCのウィンドウのように開けたが、数やサイズには制限があった。また、ステージマネージャを利用できる端末は、M1以降のApple Siliconを搭載したiPad ProやiPad Airに制限されている。

自由に配置できるマルチウィンドウが、iPadの全ラインナップに広がる

 iPad miniは、最新のモデルでもチップセットはiPhoneと同じ「A17 Pro」なので、この機能には非対応。同じく、Aシリーズのチップを搭載したiPadも、ステージマネージャは利用できない。画面分割などはできるものの、ある程度自由にアプリを配置するような使い方はできない。これに対し、iPadOS 26では、iPadシリーズ4機種がマルチウィンドウに対応する。

 UIのデザインがLiquid Glassになり、さらにはフォアグラウンドにあるアプリごとに切り替わるメニューバーも採用されたことで、その見た目はまるでMacのよう。これらを外部ディスプレイに出力して、マルチディスプレイ環境で利用することも可能だ。これまでも、PCのようなマルチタスク、マルチウィンドウを実装してきたiPadOSだが、よりその融合が進んだと言えるだろう。

これまで以上にマルチウィンドウの自由度が上がり、見た目もPCに近づく

 マルチウィンドウだけでなく、「ファイル」アプリもよりPC的になった。ファイルの種類とアプリを関連付ける機能も、その1つだ。これまでのiPadOSは、iOSから派生していたこともあり、アプリを起点にして、そこからファイルを開く形だった。異なる種類のファイルをまとめておき、そこから複数のアプリを開くPCとは、作業フローが真逆だったと言えるだろう。

ファイルアプリが刷新され、ファイルとアプリの関連付けも行えるようになった

 iPadOS 26では、ファイルと起動するアプリの関連付けを行えるようになったことで、よりPC的な使い方が可能になる。細かなところでは、トラックパッドやマウスを使ったときのポインターがより小さくなり、クリックする場所を正確に指定できるようになる。タブレット的だったiPadOSが、一気にPCライクになった格好だ。これまでのiPadOSとは、別物に見える。

 もっとも、ウィンドウやファイルだけでは、PCの使い勝手は再現できない。例えば、iPadOS 26でもファイルやフォルダを置いておけるデスクトップはなく、作業するファイルをまとめて広げておいて、処理を行うアプリを開くといった使い方には向かない。バックグラウンドで映像の処理などをする機能も追加されたが、やはりPCと比べると制約はある。

 あくまでタブレットとしての機能が中心で、マルチウィンドウは必要なときに呼び出すというのがiPadOS 26のコンセプトに見えた。それでも、ここまでマルチウィンドウやファイルの機能が拡張されれば、iPadだけで仕事をこなすことも以前よりは容易になりそうだ。タブレットの用途を大きく広げるアップデートして、注目に値する。

電話やメッセージをAIで強化、API開放でアプリへの広がりにも期待が持てる

 スマホとの統合が進むAIも、WWDCで大きな関心を寄せていたトピックの1つだ。アップルは、24年にApple Intelligenceのサービスを開始しており、25年4月には日本語にも対応した。iOS 26やiPadOS 26では、その機能を拡張するとともに、適用するアプリを拡大する。知らない電話番号からかかってきた際に、AIが代わりに電話を受ける「電話スクリーニング」は、そのような機能の代表例と言える。最初にAIが電話を取り、相手が名乗った際に着信音などが鳴る仕組みだ。

電話スクリーニングや、保留を検知する機能に対応する。その判断は、Apple Intelligenceが行う

 また、電話の保留が終わったことを知らせる機能にも対応する。電話やFaceTimeには、ライブ翻訳も搭載。テキストベースのメッセージには、ライブ翻訳のほか、文脈を判断して位置情報の共有や投票機能などの利用を促す機能が内蔵される。いずれも、Apple Intelligenceを活用したもので、処理はオンデバイスで行われる。電話やメッセージは個人情報を扱うことが多いアプリなだけに、プライバシーにもしっかり配慮した格好だ。

電話やFaceTimeはライブ翻訳に対応。外国語を母国語に、逆に母国語を外国語に翻訳できるようになる

 とは言え、電話スクリーニングや保留の代行といった機能は、競合であるグーグルのPixelにも搭載されている。Androidの標準機能ではないため、他メーカーの端末には広がっていないが、iOSだけの独自の魅力ではない。通話の翻訳も、サムスン電子の「Galaxy AI」が先行していた。“AI開発に遅れを取っている”と言われるアップルが、ようやくキャッチアップしたという方が、フェアな見方かもしれない。

 一方で、Apple Intelligenceの機能をAPIとして開発者に開放するのは、おもしろい取り組みだ。これによって、開発者は、オンデバイスAIのチャットボットや、プライベートクラウドを使ったイラストの生成機能などを、アプリに組み込むことが可能になる。基調講演では、教育用のクイズ作成アプリ「Kahoot!」で手書きのメモを取り込んでクイズを作成する様子や、トレイル用アプリ「AllTrails」で圏外のときにチャットでお勧めのハイキングコースをたずねたりといったデモが披露された。

APIが公開され、サードパーティのアプリからApple IntelligenceのAIモデルを呼び出せるようになる

 さらに、リアルタイム翻訳もAPIとして公開され、電話やFaceTime以外のビデオ会議アプリなどに実装できるようになる。APIの発表によって、アップル自身では開発できなかった様々なアプリに、Apple Intelligenceの機能を組み込みやすくなる。自社の端末に閉じたAIにするのではなく、開発者も巻き込んでいく方針を明確に示すことができたと言えるだろう。

 アップル自身が開発する機能以上に、広がりを感じられたのはこの部分だ。AIの進化に期待していた向きには物足りなかったかもしれないが、WWDCは開発者向け会議。本来の趣旨は、OSの新機能をお披露目するというより、開発者がアプリをどう開発していくかを示す場だ。その意味では、Apple Intelligenceを発表した昨年以上に、王道を行くイベントのように見えた。

文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

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