
前編では、地方から変えていくというビジョンを掲げる那須塩原市の渡辺市長。そして、森の循環に繋がる創業70年になる伝統産業についてご紹介。後編は、ネイチャーポジティブを如何に自分ごととして捉えていけるか。未来を見据えたビジネスのヒントについて深掘りしていく。
自然再興で経済も回る!那須塩原市発ネイチャーポジティブ課から始まる未来
ネイチャーポジティブとは、日本語訳で【自然再興】といい、【自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる】ことを指す。注目が集まる新しいキーワー...
市民と共に進める自然との共生
自然との共生を実現するため、渡辺市長は「自分の庭や近所の自然環境に目を向けることが重要」と述べ、市民が自らの環境を理解し、自然との関係を築くことを促す。教育や啓発活動を通じて、地域の自然環境が持つ価値を市民に伝え、市民による自主的な活動を引き出している。
環境問題を如何に自分ごととして捉えるかが重要と熱く語る渡辺市長
渡辺市長「ネイチャーポジティブ課が、脱炭素の取り組みと大きく異なる点は、“よりローカルな課題”である点です。脱炭素は地球の空気の話ですので、いわばどこでもやることは変わらず、世界中の皆さんと同じように行動をすることで達成に向けて歩むことが出来ます。一方で、自然環境はその土地の地形・地質、そのうえに動植物の生息・生育がなりたつ微妙なバランスの上になりたっています」
田熊「ネイチャーポジティブ課では、那須塩原にいる動植物と人間との関係性についてアプローチしているんですね」
渡辺市長「ネイチャーポジティブにおける施策は、世界中どこでも同じことをやれば良いということがありません。まずは市民の皆さんと共に当市で何をするべきなのか、という点をしっかりと認識することが重要だと考えています。自分の家の庭が、裏山が、近所が、どんな自然環境なのか、ということに目を向けて頂く作業、これが重要です」
縄文時代の思想を現代に活かす
那須塩原市が掲げる「生き延びられるまち 那須塩原」というスローガンは、那須地域の川沿いに栄えた縄文文化における生き方が現代にも通じるという考えも感じられる。縄文時代、人々は自然との調和を重視していた。渡辺市長の座右の銘でもある「温故知新」然り、この知恵は、現代の環境問題の解決や持続可能な社会の構築において非常に示唆に富むものであり、那須塩原市の「2050 Sustainable Vision那須塩原」にも反映されている。
田熊「環境省が2030 年にネイチャーポジティブ目標を掲げていますが、今後の那須塩原市の発展に向けて、特に注力したい分野や目標は何ですか?」
渡辺市長「具体的には、生物多様性に関する施策は多岐に渡り取り組んでいます。例えば希少種を守ること、ニホンジカの食害を防ぐ取り組み、外来生物からの被害を削減する取り組みなどです。これらを通じて、2030年その先の2050 年を見据えて“自然と共生した世界”を目指します」
未来を見据えた取り組み
渡辺市長は、市内外の一人でも多くの方に、共に那須塩原らしさを体験し、ネイチャーポジティブ活動に参加して欲しいと語る。例えば、市民以外の方であればふるさと納税、また市外企業からは企業版ふるさと納税という形を通じて、支援する関係性も構築を進めている。これらの取り組みは、地域の経済を活性化するだけでなく、ネイチャーポジティブな未来を共に創り上げ、より豊かな生活を送られるようにするための有効な手段になりそうだ。
渡辺市長「ネイチャーポジティブは、農林水産業や教育、福祉に至るまで様々ある施策の根本を整えるため必要だと考えています。そのうえに初めて生活が成り立ち、経済活動が成り立っています。当市は塩原温泉郷や板室温泉をはじめとした有数の温泉地であり、また、冷涼な気候の中で楽しめる観光地として首都圏からのお客様に多く来て頂いています。私自身、出身が東京なのですが移住者だからこそわかる素晴らしさも、皆さんに伝えていきたいです」
塩原渓谷と、湯ったりの宿 「松楓楼 松屋」 https://www.siobara.or.jp/
田熊「那須塩原市の素晴らしさを伝えていくのに、名産品が届くふるさと納税はいいきっかけになりますよね。初めて聞いたのですが、企業版ふるさと納税は、どんなものがあるんですか?」
渡辺市長「企業版ふるさと納税は、その自治体に本社機能がない企業様が、自治体の取り組みなどに共感をされ、地域貢献地域貢献を行うための制度で、寄付金が地域の振興や環境保全に活用される仕組みです。企業は税の控除を受けるとともに、ネイチャーポジティブな未来に通じる地域資源の活用に寄与します」
田熊「寄与するというと具体的には?」
渡辺市長「具体的な事例として、先ほど申したネイチャーポジティブ事業では、単に御寄付を頂くにとどまらず、御寄付を頂いた企業のスタッフの皆様と一緒にニホンジカの食害を防止する防鹿柵設置なども行いました」
田熊「単なる税金対策ではないということですね」
渡辺市長「はい。今後、様々な企業様とこのような連携をさらに深めていきたい、企業様にとっては職員の研修の場などにも活用をして頂ければと考えています」
田熊「全国の地方自治体がこういった明確な意志と目的意識を持つことが大事ですね。まずは、那須塩原市が模範となって事例を作っていけば、地方から全国に広がり、日本が変わりそうです」
渡辺市長「企業版ふるさと納税は、地域と企業のWin-Winな関係を築く重要な手段であり、地域の活性化に寄与する取り組みです。ちなみに、田熊さんが今日着ているTシャツも、企業版ふるさと納税に繋がった取り組みの1つでもあります」
裁断くずを100%使用したサーキュラー素材那須塩原TEE
那須塩原市役所では当該Tシャツでの勤務が可能となっており、夏季にはTシャツ姿の職員が目立つ
田熊「アメリカ発祥のパークスプロジェクトが日本に上陸して、那須塩原市の環境施策に共感して、市役所とともに作成したと聞いています。このTシャツ、那須野が原がイメージされていて、素敵なデザインですね!」
渡辺市長「気に入ってくださり、嬉しいです。当市は、3つの環境施策、ネイチャーポジティブ・カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーの相乗効果を生む取り組みを”2050 Sustainable Vision 那須塩原~環境戦略実行宣言~”として公表しており、その取り組みに対して、国が提唱するオフィス服装改革の一貫として、作成してもらいました。さらに、売上の一部が国立公園の自然環境保全に充てられています」
田熊「那須塩原市には日光国立公園もありますし、相乗効果が期待できますね」
未来型コミュニティの創造とビジネス
未来型コミュニティの創造へ向けて、世界では様々な取り組みが行われている。それらに共通するのは、小規模な実践モデルを構築しようという動きである。今回取材した那須塩原市のような地方自治体においても、そうした斬新な取り組みがまさに始まっている。
世界の動向を見ても、これからの時代のビジネスに重要なのは「生態系を豊かにし、自然と調和した経済活動を推進する理念」つまり、ネイチャーポジティブな発想だ。
一人ひとりが地域の自然を守り、持続可能な地球を共に創り上げていくことで、未来型コミュニティが形成され、未来を見据えたビジネスが生まれていくだろう。
那須塩原市市長
渡辺 美知太郎
慶應義塾大学文学部 美学美術史学専攻卒業。衆議院議員秘書を経て、平成25年7月に参議院議員当選、平成30年10月~平成31年4月に財務大臣政務官を務める。平成31年4月21日~那須塩原市、市長に就任し、現在2期目。
タイトルアート 「MOTHER EARTH」
TSUBASA NAKAI https://www.vaguevanvreeze.com/art
自然界や宇宙の意識とつながり受け取ったエネルギーやメッセージをアートとして映し出すチャネリングアーティスト。
Instagram@vvv_tsubasa
田熊ゆい
メディア界を経て20代半ばに起業し、美容・ファッションの企画、施設のプロデュースの傍ら、ビューティジャーナリストとして多方面で活躍。20年以上、企業のブランディング、アドバイスサービスを提供している。また、女性ならではの健康的で美しい生き方を、自然美のエキスパートとして湘南から発信。彼女自身が、ウェルネスを体現するモデルリーダーでもある。ネイチャーポジティブ活動家
Instagram@takumayui
取材・文/田熊ゆい