
2025年1月のトランプ政権発足以来、定期的にニュースとなるトランプ関税について、なぜかけるのか?関税が高いとどうなるのか?といった基礎知識と日本への影響をまとめた。
目次
テレビやインターネットで「トランプ関税」の文字を目にしたことがないビジネスパーソンはいないだろう。アメリカの関税政策のニュースが流れるたびに株価のアップダウンや諸外国との国際関係なども同時に話題となる。
しかし、アメリカの関税率が引き上げられると具体的に何が起きるのか、なんのために関税率を操作するのか、それによって日本にはどのような影響があるのかなど、「関税のしくみがよくわからない」と感じる人も多いはず。
そこで本記事では、トランプ関税および関税一般の基本的な知識と、関税率の引き上げによって日本や世界が受ける影響を解説する。
そもそもトランプ関税とは?誰が払うの?アメリカが関税を引き上げる理由は
トランプ関税について知るにはアメリカの関税制度や国家間で関税をかける意味をわかっていないと理解しづらい。まずはトランプ関税や関税の基礎知識をチェックしよう。
■トランプ関税とは、第二次トランプ政権が発動した関税政策のこと
トランプ関税とは、第二次トランプ政権において発動されている大幅な関税の引き上げを指す。
2025年1月に大統領に再就任したドナルド・トランプ大統領は、同年2月以降、カナダやメキシコ、中国をはじめとした各国の輸入品(国別、品目別、)に課す関税率を引き上げた。
それぞれの国の関税発動状況や関税率は同年2月から二転三転しており、そのつど世界経済に大きな影響を及ぼしている。
■なぜ関税をかけるの?トランプ政権の目的
関税とは、外国からの輸入品に対して国が課す税金を指す。関税をかける目的は大きく分けて以下の二つだ。
・国(政府)の収入を増やす
・国内の産業を守る
外国から輸入されるものに税金をかけることで、それを政府の歳入にあて、国内経済を発展させる資金として役立てることができる。
また、関税があることにより海外からの輸入品は販売コストや購入コストが高くなるが、国内で製造した物品は税がかからない分、コストが削減され、結果として国内産業を守ることにつながる。
トランプ政権では、関税が持つこれらの特徴を活かして税収を増やし、貿易赤字を圧縮することを目的としている。
また、高い関税をかけることを各国との交渉材料に利用する狙いもあり、アメリカ側の要求を通しやすくするためのカードとして関税の引き上げ(引き下げ、導入見送り)を利用している。
■トランプ関税は誰が払うの?
トランプ関税の高い税率を見て、「これは誰が支払うのか?」と疑問に思う人は多いだろう。
アメリカの場合、関税は国内の空港や港に輸入品が到着した時点でアメリカ側の企業や人が支払う。
そのため、輸入企業は仕入れコストの増加分を商品価格に転化(値上げ)し、消費者は値上がりした商品を購入するかたちで関税アップの影響を受けることとなる。
国内経済の発展や国内企業の保護を目的とする関税だが、上記のような理由から、輸入企業にとっては業績悪化、国民にとっては物品の値上がり(インフレ)の影響が懸念されている。
トランプ関税が国や産業にもたらす影響
トランプ関税は、アメリカ国内はもちろん、世界各国に大きな影響を及ぼしている。気になる日本経済への影響や、アメリカとの関税対立が顕著な中国への影響などを見てみよう。
■トランプ関税の影響:日本の経済
トランプ関税により、2025年4月9日、日本の輸入品に24%の関税が課せられることが発表された。ただし、同月10日に関税の発動を90日間停止する発表を出した。
その後の8月7日、アメリカは大統領令に基づき、世界各国や地域への新たな関税率を適用。各国において、これまでの一律10%から引き上げられ、日本は15%となっている。
■トランプ関税の影響:中国の経済
中国は今回のトランプ関税の中でも特に高い税率を課された国となっている。
EUと共にアメリカの最大の貿易相手国である中国だが、貿易不均衡問題や知的財産の侵害問題、違法薬物(フェンタニル)の流入問題などから対立も激しいと言える。
トランプ関税は、2025年2月から5月のあいだに中国に対し145%の大幅な関税を課し、中国側も報復関税としてアメリカ側に125%の税率を課した。
2025年5月14日に行なわれた二国間協議でそれぞれアメリカ側が145%→30%、中国側が125%→10%と引き下げたものの、関税を巡る同意には至っておらず、交渉は継続中となっている。
トランプ関税が発動することで日本と同様に中国経済も大きな減速が予測される。
■トランプ関税の影響:自動車産業
トランプ関税は、国別のほかに品目別の追加関税を課す点が特徴だ。
4月3日より輸入自動車本体および自動車部品には25%の追加関税が課された。その後、これを半分の12.5%に引き下げ、既存の2.5%と合わせた15%とすることで合意している。
自動車は日本のアメリカへの主要な輸出品目であり、トヨタをはじめとした自動車産業のGDPへの貢献度は高い。
国別関税とは異なり、自動車産業への関税はすでに発動ずみであり、すでに自動車メーカーの減益・工場閉鎖といった影響が見られる。
■トランプ関税の影響:株価
トランプ政権の関税政策とその関連情報が発表されるたび市場は大幅に動揺し、株価が乱高下している。
トランプ政権が4月に発表した、すべての輸入品への一律10%の関税および各貿易相手国からの商品に対する追加関税により、アメリカ市場では2008年のリーマンショックや2019年以降のパンデミックの時のように株価の下落が発生した。価格の乱高下は商品先物取引や暗号資産、債権にも波及している。
その後、関税の90日間の発動停止や中国側の報復関税など報道があるたびに株価は大きく動いている。
トランプ関税はこれからどうなる?
世界経済にも個人の生活にも大きな影響を与えるトランプ関税だが、今後の展開はどうなるのだろうか。
■トランプ関税の直近のトピックスは?
2025年8月7日、トランプ政権は「相互関税」として、鉄鋼・アルミ製品を含む一部品目に最大50%の関税を課す新たな措置を発動した。日本に対しては15%の関税が適用されており、これは日米間の事前交渉に基づくものとされているが、アメリカ側の官報には特例措置が反映されておらず、齟齬が生じている。
また、メキシコや中国など一部の国に対しては、関税引き上げの90日間延期措置が取られており、中国に対する関税停止は2025年11月10日まで延長された。
この延長は、米中間の協議継続とトランプ大統領の10月訪中を視野に入れた外交的配慮とみられている。
■各国への通告と反応は?
トランプ政権は、6月中に各国へ関税率を記した書簡を一斉送付し、交渉の余地を残しつつも一方的な通告を行った。これに対し、EUや中国、日本から強い反発が起きている。特に中国は、最大125%の報復関税を課す姿勢を見せている。
日本政府は「一律関税は極めて遺憾」との立場を示しつつ、報復措置は取らず対話を優先する姿勢だ。
トランプ関税は、単なる貿易政策にとどまらず、地政学・金融・外交が複雑に絡み合う「多層的なゲーム」となっている。各国の対応と米国の内政・外交戦略が交錯する重要な局面となるだろう。
※参考:
トランプ氏、主要国以外「関税交渉せず」 一方的に税率通知へ 人員整わず一括処理か – 日本経済新聞
トランプ減税恒久化法案に逆風:90日間一時停止後の相互関税率を各国に一方的に通知 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部