
日本酒に極めて近い製法で醸された「クラフトサケ」が注目を集めている。
米を主原料としながらも醸造の段階でフルーツなど副素材を添加し、芳醇な香りと味わいをもたらす新感覚のお酒だ。
国内には現在9軒のクラフトサケの蔵があり、そのうち1軒は、なんと団地(!)で製造しているという。本邦初の“メイド・イン・団地”のクラフトサケを体験すべく、筆者は現地を訪れた。
わずか8坪! 団地の1階に誕生した日本最小の酒蔵
京都市と大阪市との中間に位置し、二大都市のベッドタウンとして人気が高い大阪の高槻市。「酒蔵がある」と聴いてやってきたのが、のどかな雰囲気の牧田町にあるUR富田団地だ。
誰もが団地と聴いてイメージするであろう、ごくごく一般的な風景が広がり、「ここでお酒をつくっているってほんま?」と疑ってしまう。
1階には、確かに米粒がデザインされた施設があった。ここが2023年10月にオープンした、酒造メーカー足立農醸が営む「ADACHI NOUJO Craft Sake Brewery」。日本で初めて団地の空き部屋を酒蔵にした、クラフトサケの醸造所だ。
米粒をデザインした壁が目印の酒蔵Bar「ADACHI NOUJO Craft Sake Brewery」
なかに入って「え!」っと声が出た。
「酒蔵としてはおそらく日本最小」という、わずか8坪の製造所。これに10坪の立ち飲みBarスペースが加わる。ガラス張りの向こうでは米を蒸したり、麹を仕込んだり、酒づくりの工程が丸見えなのだ。お客さんは醸造する様子を眺めながらお酒を楽しむことができる。
「日本酒って非公開の酒蔵が多いじゃないですか。そのため蔵人も神格化されています。僕はもっとフレンドリーにお酒に接してほしいし、気軽に声をかけてほしいんです」
そう答えるのは、酒づくりとBarのマスターをワンオペでこなす、34歳の酒造家・足立洋二さん。
新しい日本の酒「クラフトサケ」がブームの兆し
──そもそも「クラフトサケ」とは、なんだろう。
「クラフトサケとは、日本酒(清酒)の製造技術をベースに、お米を原料としながらもフルーツやハーブなどの副原料を加えてつくるお酒のことです。酒税法における“その他の醸造酒”にあたります」
──お米を原料とし、日本酒の製造技術をベースとしている……のならば、それはもう日本酒なのではないだろうか。
「日本酒とは微妙に違うんです。日本酒の酒造免許の取得は難しいんですよ。年間6万リットル製造することが条件の一つで、新規免許の取得は戦後ほとんど例がありません。半面、副原料を添加したお酒なら6千リットルでいけます。だから若い酒造家はクラフトサケで新しい酒文化を拓こうとしているんです」
「自由を、醸そう」を旗印に2022年6月、クラフトサケ協会が設立された。現在9軒が加盟し、そのうち大阪で唯一の醸造所が、この団地なのだ。
「クラフトサケの酒造家を志す若者が全国から毎日のように見学に来ます。来年には醸造所が倍になるんじゃないかな」
クラフトサケがいま、そんなにアツいシーンになっていたとは!
日本酒とワインのおいしさを兼ね備えた味わい
では、さっそくいただくこととしよう。
数あるクラフトサケから私が選んだのは、ネーミングに惹かれた「MIYOI(美酔)Craft -華麗なる団地の休日-」(500ml ¥2,750/税込)。青森県弘前産のシャインマスカットと高槻市のたかつきベリーファームのブルーベリーを使用した微発砲酒だ。ピンクサファイアのような色合いがとても美しい。
*クラフトサケは店内ではハーフ(660円~)、グラス(880円~)、選べる3種飲み比べ(1,320円)を楽しめる(税込)。
「MIYOI(美酔)Craft -華麗なる団地の休日-」をグラスで。「炙りしめ鯖の冷燻」ほか絶品おつまみも多種多彩
……ふわぁ、なんという華やかなおいしさ。やさしい甘みと香りにうっとりする。米の酒の味はしっかりと根底にありながらワインのような多幸感もある。
「加糖はいっさいしていません。コメ由来の糖と、フルーツ本来の甘みのみです。砂糖やシロップを足してしまうと、なんでもありになってしまうから」
素材本来の奥深い甘みを引き出して醸す。それが「クラフトサケの矜持」なのだろう。