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どうやって作った?ラスベガスの新ランドマーク「Sphere」に挑んだ日本人映像クリエイターが明かす、前例なき制作の舞台裏

2025.06.08

米ラスベガスのランドマークといえば、眩いばかりにライトアップされたホテルや、カジノの派手な看板が思い浮かぶ。今、その中でもひと際目を引く存在なのが、2023年に開業した世界最大級の球体型アリーナ「Sphere」だ。内側はステージと一体化されたドーム型スクリーンで、連日様々な没入型ライブイベントが開催されている。外側は球体型の巨大サイネージになっている。この球体に映し出される映像は一体、どのように作られているのだろうか。

「これまで手掛けてきたような屋外広告とは、まったく違うものだった」

3月18日~3月20日に開催されたアドビ主催のイベント「Adobe Summit 2025」にあわせて、Sphereに投影された同社の広告映像を手掛けた、モーションデザイナー/映像クリエイターの井口皓太氏を取材した。

モーションデザイナー/映像クリエイター 井口皓太氏

井口氏が率いるCEKAIは、東京とニューヨークを拠点に、数多くの映像作品を生み出しているクリエイティブチームだ。東京オリンピックで話題を呼んだ動くスポーツピクトグラムも、井口氏の作品。2025年8月3日まで、東京国立博物館で開催中のイマーシブシアター『新ジャポニズム』のコンテンツ制作も担当するなど、その活動は多岐に及んでいる。マンハッタンのタイムズスクエアから新宿まで、NIKEやBMWなど名だたるスポンサーの屋外の大型3D広告も数多く手がけている。

だがSphereは、「これまで手掛けてきたような屋外広告とは、まったく違うものだった」と井口氏。「3D OOH(Out Of Home:家庭以外の場所で展開するメディア)ではある視点では立体に見えていても、横から見たら歪んでいるということがある。SNSでの拡散を狙ったものなので、それでいいという考え方です。一方で球体のこれだけ巨大なメディアだと、その場でいろんな場所から見る人たちのことを考えなければいけない。そこが決定的に違う」という。

ラスベガスの現地で見る人を驚かせたい。同時にそれがSNSで拡散されたときに、効果的なものにしたい。加えて、「せっかくこれだけ大きいものを作るわけですから、広告という枠を超えて、このスケールで描けるものにしたかった」と井口氏。制作されたのは「Video World」「Collage World」「illustration World」と名付けられた3つの映像作品だ。

いずれも、アドビの生成AI「Adobe Firefly」を使って、実際に生成された画像や映像をベースに、クリエイターが自身のアイデアを膨らませて、様々な作品を作り上げていくというストーリー。井口氏が自ら手掛けた「Video World」では、「Car chase scene. Colorful burnout.」というAIプロンプトから生成されたクルマの映像が、立体ゾートロープへと広がっていく。「球体でゾートロープを」というアイデアは、今回のアドビのプロジェクトの2年前、Sphere側から井口氏の作品を投影したいと声をかけられたときから、温めていたものだという。

ほかの2作品は、井口氏が全体のクリエイティブディレクションを担当。「Collage World」はYOASOBIやYUKIなどのミュージックビデオを手掛ける映像ディレクターの牧野 惇氏、「Illustration World」はインドネシアのモーションデザイナーArdhira Putra氏の作品だ。

「Video World」

「Collage World」

「Illustration World」

360度全員を楽しませる難しさ

日本とインドネシア、ニューヨークのスタッフも含めて、ビッグチームでのプロジェクト。だが、約2カ月という限られた時間の中で、対峙する巨大な球体は想像以上の難敵だったという。

「理想は全部きれいにつながった上で立体的に見えること。例えばスノードームをいろんなアングルから見たら、パースがどんどん変わる。同じように視点が変わったら、ちゃんと奥に見えているパースも変わるようにしたかったんですが、実際には球体に貼られた平面のLEDなので、360度どこから見ても奥行きがあるように見せるのは難しい。球体だからできたこともありますが、球体だからできないことも正直すごく多かった」。

できないことが多いと折れてしまうが、その中でも「こうしたい」「こういうことができたら面白い」と、みんなでアイデアを出し合った。その制作工程には、様々な発明もあったと井口氏。たとえば「CG自体を球体でギュッと潰したり、鳥かごのような球体を作って、その中を沿うようにCGを作ったりもしている」とのこと。何度もシミュレーションしながら、個々の映像をどうマッピングするかなど、3つの作品それぞれ、チームで密にコミュニケーションしながら作り上げていったという。

「いつかはこういう立体的なスクリーンも普通になっていくと思いますが、今はまだすべてが新しい。その中でいろいろとチャレンジをしながら、表現としても自分たちの作品としても担保できるものを作り上げることが、今回課せられたことだったかなと思っています」。

井口氏本人は残念ながら、ラスベガスの現地で直接目にすることができなかったが、プロデューサーの三上太朗氏によれば、映像は「Adobe Summit 2025」の期間中、高い頻度で繰り返し流されていたという。現地で実際に目にするそれは「めちゃくちゃでかかった」と三上氏。スマホで撮影している人も多かったといい、SNS等でも拡散された。

「360度全員を楽しませるというところは、まだ追いついていないところもありますし、球体のLEDで新しい体験価値を生むためには、まだトライできることがたくさんあると思う」と井口氏。Sphereはタイムズスクエア同様、自身にとって憧れのメディアだったが、今あらためて感じるのは、「そこに携わることだけが目的になっちゃいけないということ」だと話す。

「クリエイティブに対して、欧米に臆する日本人の気持ちってどうしてもあると思うんです。そんな中、日本のクリエイティブの力を、アメリカ社会の真ん中の球体で証明できたことは、すごい価値で、若い人たちも含めて勇気になると思う。でも僕らはただ入り込むだけではなく、さらにそれを広げていくような動き方を、もっと加速させなきゃいけないと感じています」。

取材・文/太田百合子

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