
最近の物価高や円安で一般庶民の消費行動は控えめになっている印象だが、高額消費者ははたしてどうなのか? 経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)は、「年収3000万円以上かつ年間消費額1000万円以上」の日本の消費者約300人を対象に「BCG高額消費者調査」を初めて実施して結果を発表した。
この調査は、資産保有や固定資産価値を軸にした一般的な富裕層調査とは異なり、年間消費額1000万円以上と実際の消費力がある高額消費者の実態に着目し、2024年8月実施のBCG消費者心理調査(全国の18歳以上の男女が対象。n=8260)、外部のパネルデータ分析、定性インタビューを組み合わせて全体像を分析したという。
物価高で消費行動を控えめにした高額消費者はわずか2割
近年は物価が上昇しているにもかかわらず、高額消費者の「価値があれば買う」消費は衰えていないことがわかったという。消費行動の変化についての質問では、「物価高により消費行動を控えめにした」と答えた一般消費者は80%だったが、高額消費者ではわずか20%だった。ちなみに価格が高くても価値があれば購入すると答えた一般消費者は20%で高額消費者は80%だったという。
外部のパネルデータ(マクロミル家計パネル調査「MHS」)を分析すると年間1000万円以上を消費する層は、それ未満の一般層と比較して実支出全体では約4倍の差だが、エンタメ・旅行・趣味の領域では約9倍の支出差が確認された。高額消費者が“モノ”以上に“体験”に支出している傾向が強いといえるだろう。
高額消費者には、自分に合うブランドを貫く傾向があることもわかっており、ブランド品購入時に6割超の高額消費者が「同じブランドを検討・購入する」と答えている。新しい店舗に対してはハードルが高く、「新しい店舗を頻繁に試す」と回答した人はわずか5%で、新しいブランドや店舗を高額消費者に試してもらうにはフックが重要となるという。
年代や年収ではなく買い物の価値観が大切
今回の回答を基に消費額・ブランド継続意向・新規ブランド試行意向の3項目に対して、性別・年代・年収・世帯年収や個人年収のギャップ・価値観などの複数変数による多変量解析を行った結果、消費行動を分けるのは年代や年収ではなく、「今を楽しむ」や旅行や娯楽に惜しみなくお金を使うなどの価値観だったという。
全体像を分析すると高額消費者は、 “価格” ではなく自分にとって “価値” があるかで行動して、モノだけではなく体験を重視する傾向があったという。
マーケティングを専門とするBCGアソシエイト・ディレクターで調査を担当した中野佑香氏は、「高額消費者は、価格よりも『それを選ぶ意味に納得できること』や『所有の自己物語化ができること』を希求しています。価格は品質や消費の意味を正当化する安心材料として機能しているため、 高価格はマイナス要素ではないのです。
高額消費者の顧客タイプには、没入型・自己表現型の2種類があり、愛着の起点がブランドか自己かで心理的メカニズムが異なります。いずれのタイプにとっても購買の鍵は「物語化」です。買い物のプロセスや場の空間演出を含む特別な体験が“心に残る意味”となって関係性を育て、次の購買につながります」とコメントしている。
選ばれ続けるブランドを構築したい企業の3つのポイント
今回の調査を踏まえて、高額消費者に選ばれ続けるブランドを構築したい企業は、3つの取り組みを軸にマーケティング全体を再設計する必要があるという。
ひとつめはターゲティングの再構築で、従来の年齢・年収などの属性軸ではなく価値観や行動傾向を基にターゲットを分類し、ライフスタイル起点の価値提供設計で新規顧客の獲得やLTV(顧客生涯価値、顧客1人当たりが自社に与える収益)の最大化を図っていくこと。
ふたつめは、物語の「ナビゲーター」育成でブランドの価値や開発秘話を顧客ひとりずつの物語に編み直す人材を育成し、ブランドの伝達力と共創力の強化で選ばれる理由を創出すること。
3つめは、包括的な顧客理解でVIPを先読みしてくことで、自社内の購買履歴だけでなくライフスタイル全体の理解をしていくこと。定量データでは可視化が難しいとされていた高額層についても外部データやAIを活用することで、将来のVIP顧客を予測して関係を育むことがポイントで、これらが今後のブランド構築の重要なテーマになりそうだ。
調査概要
調査対象:年収3000万円以上、かつ税金や投資を除く日常生活や娯楽の年間消費・支出額が1000万円以上の消費者
実施時期:2024年10月
回答者数:290人
関連資料:「8割超の消費者が物価上昇を実感、原価上昇やコストの違いで変動する価格設定に寛容な傾向も~BCG消費者心理調査」
構成/KUMU