
アメリカのトランプ大統領が進めるに関税政策に対して、2025年5月28日、アメリカ国際貿易裁判所は、これを不当だと判断した。また、ワシントンの連邦地裁でも、中国など世界各国に対するトランプ関税は違法との判断が下されている。
政権の政策を違法とする判断としては、バイデン政権時代の学生ローン返済免除や発電所に対する環境規制が想起されるが、今回はどうか。
三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から分析リポートが届いたので、概要をお伝えする。
米国際貿易裁判所、トランプ政権に相互関税などIEEPAに基づく関税措置の差し止めを命令
米国際貿易裁判所は5月28日、トランプ米政権が発動した一部の関税措置について差し止めを命じた。
差し止めが命じられたのは、「IEEPA(国際緊急経済権限法)」を根拠にした措置で、これには相互関税や、フェンタニルなど違法薬物の流入を理由としたカナダ・メキシコ・中国への追加関税が含まれる(図表1)。
一方、「通商拡大法232条」に基づき発動された、鉄鋼・アルミニウム製品、自動車などに対する関税には影響が及ばない。
米中小企業やカリフォルニア州など複数の州は4月に、IEEPAに基づく関税措置は違法であるとして訴えを起こしており、今回は原告の主張が支持される形となった。
また、国際貿易裁判所はトランプ米政権に対し、10日以内に恒久的な差し止めを反映した新たな行政命令を出すよう命じたが、トランプ政権は二審にあたる米連邦巡回区控訴裁判所に即日控訴している。
■トランプ政権は即日控訴、米連邦巡回区控訴裁判所は差し止めの判決を一時停止する判断
その後の動きをみると、トランプ政権の控訴を受け、連邦巡回区控訴裁判所は5月29日、国際貿易裁判所の判決を一時的に停止する判断を下した。
連邦巡回区控訴裁判所はまた、原告に対し、今回の一時停止に関する反論書面を6月5日までに提出するよう指示しており、被告のトランプ政権に対しても、控訴を巡る主張をまとめた書面を6月9日までに提出するよう求めた。
連邦巡回区控訴裁判所は、今回の一時停止の判断について、具体的な意見や理由は示しておらず、また、一時停止の期間も明確にしていない。
ただ、一時停止の期間については、原告と被告から提出される書面を踏まえて検討されることも考えられ、連邦巡回区控訴裁判所の判断次第では、国際貿易裁判所の差し止め命令が一時停止後に有効となり、IEEPAに基づく関税措置が撤回されることも想定される。
■関税の枠組みが変わる可能性は低いと思われ引き続き米国と各国との関税交渉の行方が焦点
しかし、トランプ政権は米連邦最高裁判所まで争う姿勢をみせており、三井住友DSアセットマネジメントでは、少なくとも裁判の係争中は、IEEPAに基づく関税措置が撤回される可能性は低いと考える。
また、仮にトランプ政権が敗訴しても、ピーター・ナバロ大統領上級顧問が5月29日に発言したとおり、トランプ政権は関税の根拠法をIEEPAから「通商法122条」など(図表2)に置き換えて、関税政策を継続する公算が大きいと思われる。
以上を踏まえ、当社は現状発動されているトランプ関税について、基本的な枠組みが変わる可能性は低いとみており、市場でもおおむねこのような見方が主流になっている模様だ。
そのため、今後のトランプ関税を巡る司法の動きは注意しつつも、焦点はやはり米国と主要貿易相手国との関税交渉の行方にあると思われ、まずは5月30日に予定されている日米関税交渉の4回目となる閣僚協議と、今後の展開が注目される。
構成/清水眞希