
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
牛乳は「冷蔵庫で保管して賞味期限は2週間ほど」が常識だが、常温で3か月保存が可能な、「テトラパック」のロングライフ紙パックをご存じだろうか?
牛乳を含め、飲料から食料まで幅広いラインナップで常温保存のロングライフ紙パックが市場には多く出回っており、スーパーやコンビニにも置かれている。しかし、ロングライフ紙パック牛乳(以下、LL牛乳)の認知度は12%と、多くの消費者にはまだ知られていないのが現状だ。
6月1日の「牛乳の日」を前に、LL牛乳のメリットを伝える「冷蔵不要の紙容器で生活が変わる牛乳の新常識!ロングライフ牛乳活用術」が開催された。
なぜ保存料を使わず常温長期保存ができる?
常温保存可能なLL牛乳は、UHT(=超高温加熱処理)基準の120~150℃の上限に近い140℃台での超高温瞬間殺菌を実施しており、殺菌でなく「滅菌」の温度域で処理している。
そのため、常温保存可能な牛乳では製品中の微生物はゼロで残存していないことから、保存料を使わずに常温での保存が可能となっている。
アセプティック技術(無菌充填技術)を用いて、無菌の環境下で充填を行うことで、食品の変質の原因となる細菌、カビ、酵母など有害な微生物が容器の中に混入することがない。
屋根型などのチルド製品の場合、容器に食品・飲料を詰める際に空気に触れてしまうが、アセプティック容器は充填しながら容器を形成する「液面下充填」ため、充填の際に酸素が入らず、食品・飲料の酸化を抑制する。
また、充填する紙容器は6層構造になっていて、アルミ箔も用いているため、中身の食品を劣化させる酸素の透過を防ぐとともに、光を遮断し食品の品質を長期間保つ。
開封前の要冷蔵のチルド牛乳は10℃以下の環境で保存できるのが約2~3週間に対し、常温保存可能な牛乳は、未開封時は常温でも約2~3か月保存が可能だ。
「牛乳が常温で長期保存できる紙パックがあることは、一般消費者にとってはなかなか知られていないのが現状です。店頭でもLL牛乳がチルドのコーナーに置かれていることも多く、見た目も一般的な紙パックと同じですので、気が付かない方も多く、日本ではLL牛乳の流通量は牛乳全体の2%程度と非常に少ない状況です。
しかし海外ではLL牛乳はスタンダードになっており、日常的な定番商品として浸透しています。
日本においても、飲食店など業務用ではLL牛乳が多く使われています。キッチンの狭い店舗においては、冷蔵庫保管の必要がなく、衛生管理の面でもメリットを感じていただいて導入が進んでいます。
LL牛乳はアウトドアシーンでも活躍します。『#キャンプで牛乳』 というキャンペーンでもお伝えしているのですが、キャンプ場やBBQ施設など、子どもと一緒に屋外で牛乳が飲めますし、キャンプ料理でも活用できます。また、お弁当と一緒に持っていくことも可能なので、学校や職場でも牛乳を飲むことができます。
昨今、物流業界では、ドライバー不足や、エネルギーコストの上昇が深刻化していますが、常温保存が可能な紙パックは冷蔵輸送を必要としませんので、輸送や保管の負担を軽減します。ストックできるので災害に備えた備蓄やフードロスの削減にも寄与します。
このようにロングライフ紙パック、LL牛乳の利便性と価値は非常に高いのですが、まだ十分に消費者には伝わっていないことが課題であり、今後改善していかなければと考えています」(日本テトラパック株式会社 執行役員 マーケティングディレクター 鍜治葉子氏)
メリットが多いLL牛乳は主婦の強い味方
発表会では、3人の子どもを持つタレントの小倉優子さんと、東北大学名誉教授 農学博士 齋藤忠夫先生がゲストとして登壇。牛乳の栄養価やLL牛乳の仕組みについて齋藤先生から話を聞いた小倉さんは驚きの表情に。
「うちは3人の男の子がいて、子どもたちに牛乳は欠かせません。私もカフェラテを1日2杯飲んでいますし、スープやパスタ、フレンチトースト、シフォンケーキと料理にも牛乳を使うので、我が家の牛乳の消費量はすごく多いです。LL牛乳は保存料を使わずに常温で3か月も持つなんてすごいですね!
牛乳は多めに買うと冷蔵庫がパンパンになってしまうので、買い置きは無理だと思っていましたが、主婦にとって牛乳がストックできるってすごくうれしいこと。まとめて買うと重くて持ち運びも大変なので、ECサイトを使ってLL牛乳をまとめて頼めば便利ですし助かりますね」(小倉さん)
「牛乳は、カルシウムの他、たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルといった5大栄養素が豊富に含まれている『準完全栄養食』のため、栄養補給にぴったりです。栄養豊富だからこそ傷みやすいのですが、ロングライフ紙パックは殺菌や充填、管理の方法などの細かい規定をクリアしているため、安心で安全な紙パックです。
ロングライフ紙パックはスウェーデンで開発されましたが、ヨーロッパのスーパーの売り場ではたくさんの種類のLL牛乳が並んでいます。知り合いのフランス人も大量に買い置きしてストックし、少しずつ冷蔵庫で冷やしながら使うと話していました。
ロングライプ紙パックはSDGsの観点からも重要。海洋プラスチックごみの要因のひとつでもあるペットボトルを削減する動きは世界中に広がっており、長期保存が可能で、リサイクルできる紙パックが見直されています」(齋藤先生)
【AJの読み】LL牛乳は「常温保存可能品」が目じるし
筆者は牛乳ではないが、常温で届けられる植物性ミルクを愛飲しており、そちらもロングライフ紙パックが使われているので存在は知っていた。ロングライフ紙パックの飲料は常温でストックできるので重宝しているが、長期保存できる牛乳があることを知らない人は多いだろう。
発表会でも指摘されていたが、LL牛乳は店の棚に並んでいるものの、普通の牛乳と一緒にチルドのコーナーにあったり、見た目は紙パックのため、気が付いていないという人が多い。LL牛乳は、容器の正面や側面に「常温保存可能品」という表示があるので、しっかりとパッケージを確認しよう。
「近所や息子夫婦の近くのスーパーを何か所か回ってみましたが、LL牛乳も冷たい牛乳の売り場に置かれていました。小売店では一番売れてほしい商品は、日本の女性の平均身長である160㎝の目線のところに置いてあることが多いですが、確かにその位置に3種類のLL牛乳が置いてありました。
常温保存できるLL牛乳を冷やすことは間違ってはいないですが、あのような陳列だと消費者は冷やして保存する商品だと思ってしまいます。多くのメリットがあるLL牛乳が活かされないような気がして、販売する小売店にも工夫していただけるとありがたいですね」(齋藤先生)
ロングライフ紙パックも通常の紙パック同様にリサイクルできるが、注意してほしいのが、内側がアルミだということ。
スーパーなどにも紙パックの回収ボックスがあるが、アルミ付きの場合は受け付けないこともある。アルミ付き紙パックは自治体で回収している場合もあるので、確認してみるとよいだろう。
取材・文/阿部純子