
今、大阪の庄内に熱い視線が注がれている。きっかけはマクドナルド庄内店だ。SNSで「とにかくおいしい」「他店とはレベルが違う」と騒がれ、全国から人が押し寄せたのである。
でも筆者は声を大にして言いたい。「庄内のうまいもんはマクドだけやないで!」他にどんな美味しいものがあるのか、現地からレポートする。
マクドナルド庄内店がSNSで大バズリ
この夏、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のついでに「大阪の庄内へ立ち寄りたい」とプランニングしている人がけっこういるのだそうだ。
理由は「ウワサのマクドナルドへ行ってみたいから」。ネットでは今年の冬からマクドナルド庄内店の話題で持ちきりなのだ。
以来、実際に訪れたユーザーたちから「マジでおいしかった」「他点とは味のレベルが違う」といった旨の実食体験ポストが相次ぎ、評判の声はさらに広がった。そのためマクドナルド庄内店では一時期、聖地巡礼を果たそうとする人々で長蛇の列ができたのである。
著者も実際に味わったが、温度管理にシビアなのか、ポテトはカリッとしていて滋味豊か、ハンバーガーのパティからはうまみ汁が溢れ、とても丁寧に調理されている印象を受けた。
のんびりゆるいムードの庄内エリアは食べ歩きに最適
「庄内」駅は大阪の郊外住宅地として発展してきた豊中市に位置する。阪急宝塚線にある駅で、特急や急行は停車しない。
万博を目的に大阪にやってきた人が庄内を目指すならば阪急「大阪梅田」駅が始発になるが、庄内は普通電車しか停まらない緩行(かんこう)駅なので電車選びには注意が必要である。
大阪梅田から10分足らず。駅を降りると昭和のまま時間が流れを止めたかのような、のんびりゆるいムードに包まれている。駅の東西に商店街が伸び、どちらもシャッター化しておらず、買い物には困らない。
大阪音楽大学の最寄り駅だからか、市場のなかにストリートピアノが設置されているなど、駅利用者の年齢は幅広い。
「一度に10個は買う」飛ぶように売れる「ピロシキ」の名店
ベーカリー&ティールーム「モンパルナス」は庄内駅から北西方向に徒歩4分の場所にある。店頭にはチョークアートで描かれた名物のピロシキと、ボルシチセット。
2021年5月に開業し、5年目を迎えるモンパルナス。だが、店内に入ると、もっと以前からこの地に存在したかのような、ほっとする懐かしさ。
実はこちら、昭和49年(1974)に阪神「尼崎」駅構内に開業したベーカリー喫茶が移転したお店だったのだ。昭和の頃からあるメニューを引き継ぎ、椅子なども往時のものをそのまま使用しているため、ノスタルジックな雰囲気が漂うのだろう。
オーナーシェフである古角武司さんは「尼崎の人々に47年ものあいだ親しまれた店だったのですが、コロナ禍の影響で駅構内喫茶という業態を維持できなくなり、従業員を引き連れ、私が住んでいる豊中市内にて再開したんです」と語る。
ピロシキはプレーンとカレー風味の2種類あり、ともに一つ250円(本体価格)。これが飛ぶように売れる。
「1日に最高1,500個を揚げました。具材が偏らず中心にくるように、ずっとくるくる回しながら揚げているんです。フライヤーの前につきっきり立ちっぱなしで1日中揚げ続けているので、たいへんですよ」
催事出店の際は最低でも500個が必要で、「午前2時から生地をこね、午前7時から揚げている」というからおそれいる。確かに街の声の通り、ピロシキは庄内の顔と言える人気商品だった。
■庄内でしか味わえない、本場の味
「亡き叔父が昭和の頃にモスクワの調理師から直々に教わったレシピです。具を手作りして、生地をまんべんなくキツネ色に揚げるのは至難の業。他店のパン職人さんから『こんなに手間がかかるピロシキ、うちではようやらん』と言われましたね」
現在は本国ロシアでも焼くタイプのピロシキが増えているそうで、本場の味は、海を渡った大阪のここでしかもう味わえないのかもしれない。なおさら価値あるピロシキである。
古角「そんな父も平成6年(1994)、63歳の若さで亡くなりました。ロシアの味にフランス風味を採り入れようとした叔父や父のように、私も新しいものを生み出したいと思い、和の要素がある高菜サラダパンの販売を始めたんです。高菜炒めをからしマヨネーズで和え、コッペパンにはさんでいます。『高菜ってごはんだけやなく、パンにも合うんやな』と好評ですよ」
古角さんのアイデアで生まれた高菜サラダパンはカレーやわさびなどさまざまな味があり、世界のパビリオンを巡っている感覚になる。ロシア、フランス、そして日本、ここは庄内の万国博会場と呼んで大げさではない。
クレープをつまみにお酒が呑める店
2軒目は、『ちょい呑みできるクレープ屋さん』。駅の東口を降りるといきなり視界に入ってくる至近距離のお店だ。
店名からも伝わるように、お酒を飲みながらクレープを味わえるユニークな店である。
「クレープをおかずにお酒を飲むと、とてもおいしいんです。それをもっと知ってもらいたくて、お店を始めました」と店長のまりさんが教えてくれた。
定番のバナナチョコ(750円/税込み)が一番人気だが、季節によってはシャインマスカットやイチジクなど旬まっ盛りのフレッシュフルーツをふんだんに使ったり、サツマイモに蜜をからめて大学イモにしたり、枝豆をつぶしてずんだ餡にしたりと、素材・具材にもいっさい手を抜かない。
そして、「おかずクレープ」を標榜するだけあり、しょっぱい系メニューも豊富だ。プルコギサラダマヨ、チーズカレー、エビツナアボカドのシーザーサラダなどなど目移りするほどバラエティに富んでいる。
過去には期間限定でトリュフやキャビアを使ったクレープまであったという。もはや「クレープに包まれたスペシャリティ」と呼んで大げさではないだろう。
気になるのは、ホワイトボードに掲載された日替わり商品の数々。し、白ごはん? ひじき、あんきも、プルコギ……もしかして、これをクレープで巻くのだろうか。
クレープ屋さんに白ごはん? 味噌汁セット? そんなバナナ
あんきも? もしや、クレープで巻くのだろうか
「こちらはさすがにクレープではなくて、おつまみとお食事のメニューです。(笑)馬刺しが出る日もあるんですよ」
クレープの店で、あんきもや馬刺しの名を耳や目にしたのは初めてだ。食事やおつまみのメニューだとしても、それらがクレープの店にあるのが珍しい。
お酒も迷うほど種類が多い。リキュール、多彩なクラフトビール、サワー、日本酒(!)、白州や響、余市や山崎などのウイスキー、ハイボール、蔵違いのにごり酒まで揃えている。“ちょい”を凌駕した数なのだ。
■クレープの店で「韓国料理」と「レモンサワー」に出逢えるとは!
では、私も注文しよう。クレープの店で初めて出会う「ヤンニョムチキンクレープ」(600円/税込み)とレモンサワー(550円/税込み)を。チューハイでクレープをいただくの、初体験だな。
ヤンニョムチキンクレープはコーンや玉ねぎなど具だくさん
できあがったヤンニョムチキンクレープ……うまい! これはおいしいぞ。ピリ辛ソースと、ほのかに甘いもっちもちの生地が絶妙のバランスなのだ。冷たいレモンサワーと合う、合う。
クレープとチューハイの組み合わせは初だが、意外と合う!
「暑い季節になってきたので、韓国風のピリ辛ソースを使ったメニューのオーダーが増えてきましたね。生地は全粒粉を使っているので、生地自体に香ばしさがあって、強い味のソースにも負けないんです」
確かにちょい呑みにぴったりのクレープだ。客層は日中ならば親子連れ。午後5時を回ると、サラリーマンたちがクレープとお酒で小腹を満たし、さっと会計を済ませて庄内駅へ向かうのだという。小皿でテーブルが占領されないクレープ呑みは、これからトレンドになるのではないだろうか。
ちなみに、マクドナルドバズの影響はあったのだろうか?
「一時期はマクドナルドさんが話題になったおかげで『ハンバーガーのデザートにクレープを食べて帰る』というお客さんも多かったですね。そこからうちの常連さんになってくださった方もいます」