
ソニーの持つカメラ、テレビ、音楽プレイヤーの技術を結集したスマートフォン。それが、Xperiaだ。同シリーズのフラッグシップモデルに最新作の「Xperia 1 VII」が登場した。24年モデルの「Xperia 1 VI」で、これまでの特徴だった21:9の4Kディスプレイを廃するなど、リニューアルを図ったXperia 1シリーズだが、Xperia 1 VIIではその要素を受け継ぎつつ、機能を進化させている。
中でも大きいのが、超広角カメラのセンサーを刷新して、歪みの少ない映像を撮れるようにしたこと。このハードウェアの性能を生かし、AIによって被写体を捉え続けるカメラワークを実現する「AIカメラワーク」や、横動画と同時に被写体にズームアップした縦動画を残せる「オートフレーミング」といった新機能に対応した。もちろん、Xperia 1 VIで採用した高画質な広角カメラはそのままだ。
また、WALKMANの技術もさらに取り込み、イヤホンを優先接続した際や、スピーカーから流れる音楽の高音質化を図っている。一方で、ハイエンドゆえに、価格はソニー自らが販売するSIMフリー版でもわずかならが20万を超えてしまった。購入を慎重に検討する向きも多いはずだ。発売に先立ち、同機を試用したので、その評価をお届けしたい。
VIIから継承したコンセプト、ディスプレイの品質はさらに向上
新モデルとして登場したXperia 1 VIIだが、意匠の面ではXperia 1 VIを受け継いでいる部分が多い。スマホのサイズを規定するディスプレイサイズやアスペクト比がXperia 1 VIと同じためだろう。このモデルも、19.5:9のアスペクト比を採用しており、解像度は2340×1080ドットのフルHD+。21:9だった「Xperia 1 V」までと比べると、やや横が伸びた格好だ。
これには良し悪しがある。一般的なスマホのディスプレイに解像度が近いため、YouTubeなどで多い16:9の動画を見た時に、よりサイズを大きくできる。SNSなどで流れてくる縦動画も見やすい。一方で、Xperia 1 Vまでのシュッとした印象は薄くなり、手で握りづらくなった側面があることも否めない。どちらかと言えば、コンテンツに合わせて見やすさを重視したというわけだ。
6月5日に販売が開始されるXperia 1 VIIを先行チェック。その実力を確認していく
ネット動画で一般的な16:9で再生した際に、画面をめいっぱい使うことができる
ディスプレイが4KからフルHDになり、スペック上の解像度はダウンしているが、映像を見た印象では、特にグレードが下がっているようには思えなかった。そもそも、6.5インチ程度のサイズで4Kは過剰なスペック。画面スレスレまで目を近づけるといった使い方をしなければ、解像度の違いを認識できることはないだろう。
接写すると確かにドットは見えるが、実利用ではあまり影響がないと言えそうだ
ハイエンドスマホの中には2Kのディスプレイを搭載している機種も多いが、その多くは、通常モードでフルHDに解像度を落としている。バッテリーの消費を減らしたり、動きの滑らかさを確保するためだ。スマホの場合、ユーザーが思っている以上に2Kや4Kといった解像度の出番は少ない。マーケティング的な意味合いはあるが、名を捨てて実を取るという意味では、フルHDが正解だと感じた。
それ以上に、BRAVIAの技術を生かした表示品質の高さが目立ちやすい。特に、Xperia 1 VIIはピーク輝度が20%向上していることもあり、明るい場所での視認性は大きく向上している。前面と背面の照度センサーで光を正確に検知しているため、暗い場所で明るくなりすぎたり、明るい場所で見づらくなったりといった自動調整のミスもなかった。
ディスプレイにはBRAVIAの技術が投入されており、明るい場所でも見やすい
超広角カメラを刷新、歪みの少ない映像を生かした動画機能もおもしろい
カメラはどうか。広角カメラはXperia 1 VIと同じ、2層トランジスタ画素積層型CMOSセンサーの「Exmor T for mobile」で、暗所での描画力が高い。画像処理と合わせて、「一眼並み」とうたっているほどだ。このカメラで料理や風景、人物などを撮影してみたが、シチュエーションを選ばず、サクッときれいな写真を撮れる点は評価できる。
上から超広角、広角、望遠。超広角カメラはセンサーサイズが上がり、レンズ径も大きくなっている
色味がデジカメ的で、昨今の彩度が高めの絵を出力するスマホのカメラと比べるとややあっさりしている印象もあるが、これは、αと同じ「クリエイティブルック」を適用することで解決できる。よりスマホライクな写真を撮りたいようであれば、これを「ビビッド」に設定しておくといいだろう。シャッターボタンも大型化されており、半押しでのフォーカスロックなどの微妙な力加減を求められる操作もしやすい。
シャッターボタンも大型化され、カメラの起動や撮影がしやすくなった
α的な絵作りなのか、やや暗めに撮れることも多かった。その場合は、露出を調整してあげるといい
超広角カメラのセンサーが1/1.56型に大型化し、歪みの非常に少ないレンズを採用しているのもXperia 1 VIIの特徴だ。3.5mm判換算の焦点距離は16mm。iPhone 16シリーズに搭載されている13mmの超広角カメラより写せる範囲は狭いが、画像端の歪みは驚くほど少なく、超広角カメラで撮ったとは思えないほど。クオリティを追求しつつ、風景などをダイナミックに切り取ることができる。
超広角で撮った風景写真。16mmのレンズとは思えないほど、周囲の歪みが少ない
同じ風景をiPhone 16 Proで撮った写真。画角は広い一方で、やや魚眼レンズ的になっている
また、大判化したことで、超広角カメラを使っても、夜景撮影で十分なクオリティが出せるようになった。以下に掲載したのは、広角と超広角で撮り比べた写真。超広角は合成がかかる夜景モードになったものの、写真の仕上がりは広角カメラに近く、あたかもレンズを変えて撮ったかのよう。画角を変えると写真の雰囲気まで大きく変わってしまうスマホの欠点が解消されている。
ただし、この超広角カメラはどちらかというと、動画撮影時の方が出番は多くなる。冒頭で挙げたAIカメラワークやオートフレーミングといったAI撮影機能で生かされるためだ。どちらも、広い画角で全体を捉えておき、動く被写体を追従してその周辺を切り出すことで、動画としての完成度を高めるという点は共通している。前者はそれをカメラワークに使ったものだ。
効果がより分かりやすいのは、オートフレーミングかもしれない。例えば、公園などで遊ぶ子どもを撮る際に、全体を横位置で残しておきつつ、子どもに寄った縦位置の動画を撮ることが可能になる。その結果、画角ギリギリに被写体を収めようと思った際に、画面を見る必要がなくなる。目の前の光景を自分の目で見ながら撮影しても、動画撮影ができるというわけだ。画質を高めるのではなく、カメラワークを自動化するためにAIを活用しているところはおもしろい。
被写体に追従しつつ、縦と横の動画を同時に撮れるオートフレーミング
実際に撮った縦と横の動画。全体を捉えつつ、被写体を追いかけて自動的に縦動画を撮影できた
これができるのは、切り出しても十分な画質になる超広角カメラがあるからだ。その意味では、ハードウェアとソフトウェアをしっかり融合させた新機能と捉えることが可能。スマホに載せたAIで何がしたいかを考え抜いている印象を受けた。
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また、音楽再生機能はWALKMANのブランドを前面に出すようになった。アプリ自体は、これまでのXperiaと変わっていないため、“WALKMAN感”は薄いが、パーツに、同シリーズで培った技術を採用している。具体的には、非磁性銅メッキ加工を施した高音質抵抗や、金メッキを施したオーディオジャックが、それに当たる。これによって、有線イヤホンを接続した際に、音の厚みがしっかり増していた。
3.5mmのイヤホンジャックは、内部に金メッキが施されており、音質が上がった
そもそも、スマホのハイエンドモデルは、多くが3.5mmのイヤホンジャックを仕様から外しており、Bluetoothイヤホンの接続が前提になっている。このクラスの端末で、3.5mmの有線イヤホンを直接接続できるのは珍しい。特に、音ズレが気になるゲームの場合、有線イヤホンに対応しているのはうれしいだろう。ユーザーのニーズを踏まえて、トレンドから外れた仕様も残している点は評価できる。
これは、microSDに対応している点も同じだ。ハイエンドモデルは、多くが内蔵メモリのみになっているが、Xperia 1 VIIは依然としてmicroSDカードを利用でき、最大で1TBまでストレージを拡張できる。写真や動画を撮りためることが多い端末のため、保存領域を後から増やせるのはありがたい。SIMフリー版には512GBのオプションがあるが、この仕様なら256GBを購入しても安心だ。
microSDカードスロットも備える。このクラスの端末では珍しい
また、最新のハイエンドモデルとして、仕様もしっかりアップデートされている。チップセットには、クアルコムの「Snapdragon 8 Elite」を採用しており、パフォーマンスは十分。アプリの起動なども速く、操作感はいい。バッテリーの持ちもよく、スマホとしてのバランスもしっかり取れている印象を受けた。
細かな点では、通信周りの仕様にも大きな改善が加えられている。1つ目が、eSIMとeSIMのデュアルSIMに対応したこと。これまでのXperiaは物理SIM1つとeSIM1つの組み合わせが限られていたが、デュアルeSIMに対応したことで、物理SIM/eSIMだけでなく、eSIM/eSIMでの利用も可能になった。国内用の回線をeSIMにしており、追加で海外用eSIMを入れたいときなどに、便利な仕様と言える。
デュアルeSIMに対応しているほか、AndroidのeSIM転送も利用できた
さらに、AndroidのeSIM転送にも対応していた。これをするには、キャリア側の対応も必要。筆者は、「Pixel 9」に入れていたドコモのeSIMをXperia 1 VIIに移してみたが、特に難しい手続きは必要なく、両端末の操作だけでeSIMを移すことに成功した。対応している機種やキャリアは限られるが、機種変更が簡単にできたり、使う端末に合わせてeSIMの入れ替えができたりするのは便利。SIMカードにこだわる必要性は、ますます薄くなりそうだ。
Xperia 1 VIIは、カメラ、ディスプレイ、音楽再生や基本性能が高い次元でまとまった端末だと評価できる。確かに価格は高いが、それに見合った価値はある端末だ。また、Xperia 1 VIIから、OSのアップデートが4回、セキュリティアップデートが6回とより長期間のサポートが保証されている。1台を長く使い続けたい人には、お勧めできる1台と言えそうだ。
文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。