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日本でもおなじみの「揚げパン」が米ユタ州のソウルフードとして愛されている理由

2025.05.31

顔の大きさほどある一枚は、外はサクッと中はふんわり。

「絶品B級グルメ」とか「ソウルフード」と呼ばれるものは日本全国にあります。で、みなさんはこう考えたことはないでしょうか。「日本各地にあるんだったら世界各地にも当然B級だけど超絶うまいものがあるんじゃないか?」と。今回は北米ユタ州から「フライブレッド」をお届けします。

フライブレッドを日本語に直訳すると、「揚げパン」。見た目は平たいお皿のような形をしていて、揚げたての香ばしさは日本の昭和の学校給食を思わせます。

アレンジ次第で甘いおやつや主食にもなる、ネイティブ·アメリカンの歴史と誇りが隠されたフライブレッドが、ユタ州のソウルフードといわれる理由を深掘りしました。

ネイティブ·アメリカンのナバホ族が生き抜くために生まれたレシピ

フライブレッドの起源は、19世紀のナバホ族の「ロングウォーク」という悲しい歴史にさかのぼります。1864年、アメリカ政府はユタ州やアリゾナ州にまたがるナバホ族の土地から、彼らを強制的に追放し、長い距離を歩かせました。

目的地は、ニューメキシコ州のボスク・レドンドという収容地。お年寄りから子どもも含めて、約500キロメートルの道のりを歩いたといわれています。

ナバホ族がボスク・レドンドに到着してからも自由はなく、十分な食べ物はありませんでした。この強制移住で、支援物資として与えられた安価な配給品の小麦粉やラード、塩などを使い、どうにか工夫して作ったのがフライブレッドだったのです。

モニュメントバレーで見かけたナバホ族の簡素なコーヒーショップ。建物に貼り付けられた長方形の黄色いサインには「ナバホフライブレッド」「ナバホタコ」と書かれている。

実は、筆者が初めてフライブレッドという食べ物を知ったのは、ユタ州とアリゾナ州の州境にまたがる場所、モニュメントバレーでした。モニュメントバレーは、ナバホネイションの保護区の中にあります。運営しているのも、アメリカ政府ではなくナバホ族自身です。

フライブレッドとこの地で出会ったのは、自然なことだったのですね。

世界中から観光客が訪れる、モニュメントバレーのグールディングス·ロッジ内にある、ステージコーチ·レストランで提供されている「ナバホタコ」。フライブレッドの上にひき肉やピントビーンズ、細かく刻んだレタスやトマト、チーズなどを乗せて、サルサソースやサワークリームをかけて食べる

スイーツ風から食事スタイルまで食べ方いろいろ

さて、ユタ州をはじめとするアメリカ南西部で大切にされている「フライブレッド」。作り方はとてもシンプル。基本の生地の材料は小麦粉とベーキングパウダー、塩を少々と水のみで、ラードやショートニングで揚げて仕上げます。

食べ方は、ハチミツやジャムをかけて甘くしたデザート風から、タコスにして食事としても提供されます。とくにフライブレッドを使った主食としての「ナバホタコ」は、先述したように地元の人だけではなく、観光客からも大人気なのです。

日本の揚げパンのような懐かしい香りがふわっとよみがえる、やさしい匂いがたまらないフライブレッド。大きさは市販の大き目サイズの紙皿ほど。

揚げたてのフライブレッドにユタ州産のハチミツをかけて、じんわりとハチミツが溶けていく瞬間、指でちぎって食べるのが最高においしい。

外側はこんがり黄金色で中はもっちり。指でちぎれるほど柔らかく、日本の揚げパンのような厚みはない。

沖縄のタコライスや、メキシコ料理のタコサラダと同じような具材を、フライブレッドに乗せて食べる「ナバホタコ」。

「文化を味わうこと」を大切にするユタ州の人たちにとって「フライブレッド」とは

さて、このフライブレッド、ユタ州では都市部や観光地にあるネイティブ·アメリカン経営のレストランや、地元のお祭りで食べることができます。

ナバホ文化、モルモン教文化、移民文化。多様な背景をもつ人たちが暮らすユタ州では、食を通じて文化を学び、敬う姿勢が根付いているように感じます。

そしてユタ州南部は、今もナバホ族が暮らす大地です。ロングウォークの中で、配給された限られた材料で作られたフライブレッド。それはただのおいしいパンとしてだけではなく、苦難の歴史を乗り越えてきた「生きる力の象徴」として、ユタ州の人たちは捉えているのかもしれません。

1米ドルを140円で計算すると、ナバホタコが2100円、フライブレッドが700円。お祭り価格かな?と思うかもしれませんが、レストランで食べてもほぼ同じ値段です。ちなみにレストランのメニュでは、前菜やサイドメニュの欄でフライブレッドを見つけることができます。

ネイティブ·アメリカンの悲しい歴史から生まれたにも関わらず、ナバホ族にとってフライブレッドを食べることは「誇りをもって今を生きている」をいう静かなメッセージのようにも感じられます。

それが「文化を味わうこと」を大切にするユタ州の人たちに、「フライブレッド」が愛される理由なのかもしれません。

 

文・写真/トロリオ牧
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。17年間務めたアメリカ政府の仕事を2023年に辞職。現在はNHKラジオ出演や日本のWebメディアで執筆など幅広く活動中。編著に電子書籍『型の中に答えはある』がある。夫婦でRVキャンプやオフローディングを楽しむのが最高の癒やし時間。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。「海外書き人クラブアウォーズ2025」最優秀新人賞受賞。

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