
2025年5月22日、ポラロイドは都内で新製品「Polaroid Flip」の発表会を開催した。Flipは、ハイエンドモデルの「Polaroid I-2」と「Polaroid Now」の間を埋めるモデルであり、最大の特徴は、撮影距離に応じて自動で切り替わる4種類のレンズを搭載したことだ。Nowでは2枚だったレンズを4枚に増やしてより正確なフォーカスを実現。ユーザーはレンズ操作を意識せずに、セルフィーから遠景撮影までスムーズに行える。
本体は曲線を多用したクラムシェルデザインで、カバーを開くと自動で電源が入り、閉じると電源がオフになる設計となっている。これらは80年代に登場した同社の「Polaroid Sun 660」シリーズを思わせる。また、内蔵フラッシュは従来機種と異なり、被写体や環境光に応じて発光量を調整するスマート制御を備える。
1947年に登場したインスタントカメラは80年代に流行のピークを迎え、デジタルカメラの台頭と共に衰退するが、ポラロイドは2017年に再出発を果たした
Flipの初期のアイデアスケッチ。最初からクラムシェルデザインだったことが分かる
フリップカバーを開けると電源がONになる。カバー内には大光量フラッシュが内蔵される
カバーを閉めるとレンズやシャッターボタン、ファインダーなどが完全に保護されるため、ケースレスで持ち運べる
スマホアプリでマニュアル操作も万全
ソナーによる距離測定機能や、撮影時の最短距離オーバーを知らせるLED警告表示も搭載されており、初心者でも失敗の少ない撮影が可能。専用アプリを使えば絞りやシャッター速度、フラッシュの光量などをマニュアル操作できるためベテランの作画意図に沿った撮影にも対応できる。
アプリを使わずに本体側でも一部のマニュアル操作ができる。LED表示はフラッシュ発光と二重露光を表している
専用アプリを使えば細かなマニュアル操作に対応。本格的な作画ができる
ブラックモデルはシックな佇まいでビジネスシーンでも違和感がない
アートなフィルムが高価
発表会では、開発責任者による技術的解説に加え、実際にFlipを用いて撮影された写真家による作品も披露された。ポラロイドがこだわる“体験としての写真”という哲学を受け継ぎつつ、従来のユーザーはもちろん、若年層やスマートフォン世代にも訴求する仕様となっている。本体は3万9800円と手を出しやすい価格に収まっているが、8枚入りフィルムが3880円と高価なのが弱点。富士フイルムのチェキ用であれば10枚入り814円で、1枚あたり約100円で撮れるのだが。ハコスパなフィルムの登場に期待したい。
Flipは、単なるレトロ回帰にとどまらず、アナログとデジタルの垣根を越えた、ポラロイドらしい「新しい古さ」を提案する製品である。アートとガジェットの両面から注目を集める存在になるに違いない。
技術的な説明はハードウエアディレクターのウィリアムさんがおこなった
4枚のレンズを自動的に切り替えることで65cm、85cm、1.2m、2.5m~∞までのピントをシャープに捉える
4枚のレンズの実物の部品。レンズを切り替えても画角は変化しないそうだ
写真家による作例。左がフラッシュONで右がOFF。鮮やかさや発色、色の濃度などが違ってくる
別の写真家による作例。左が自然光、右がフラッシュON。モノクロでもコントラストや階調性が異なる
マーケティング担当の白井純さんが撮影した奇跡の二重露光。ヘッドホンをした女性と花畑が重なっている
ムラバックを背景にモデルを撮影。左がほぼ最短距離で、どちらもフラッシュON。予想以上にピントがシャープで白トビ、黒つぶれも少ないことに驚く
アップで見てもまつ毛にピントが来ており、パララックスも予想の範囲内だった
写真・文/ゴン川野