
ビジネスパーソンにとって身近な話題である男性の育休取得。オンライン対人支援プラットフォーム『Smart相談室』は、育休を取得して同じ職場に復職した経験のある男性416名を対象に、男性の育休取得に関する実態調査を実施した。それによると約4割が理想の育休取得期間の希望が叶わず、育児休業取得後に6割以上が精神的不調が増えたと回答しているという。
45.9%が育児休業を「自ら積極的に取得したかった」と回答
「あなたが育児休業を取得した一番のきっかけを教えてください」(n=416)という質問では、「自ら積極的に取得したかった」が45.9%でトップだった。続いて「パートナー(配偶者)から取得を勧められた」が28.4%、「会社の方針で取得が推奨されていた」が12.0%だった。
36.5%が育児休業期間が「望んだ期間よりも短かった」と回答
「自分の意思で自由に育児休業期間を決められる理想的な状況を想定した場合、あなたが望む育児休業期間と、実際に取得した期間を比べるとどうでしたか」(n=416)という質問では、「実際に取得した期間が、望んだ期間とほぼ同じだった」が52.4%、「実際に取得した期間が、望んだ期間よりも短かった」が36.5%だった。一方で取得した期間が望んだ期間よりも長かったと回答した人は3.6%しかいなかった。
育児休業期間が短い理由は、職場への迷惑や業務の都合で長期間の休暇が取れなかったこと
「実際に取得した期間が、望んだ期間よりも短かった」と回答した人に「希望通りの期間を取得できなかった理由を教えてください(複数回答)」(n=152)と質問すると、「職場に迷惑がかかることを懸念したから」が55.3%で「業務の都合で長期間の休暇が取れなかったから」が43.4%という結果だった。さらに35.5%が「職場の雰囲気で長期の取得がしづらかったから」と回答しており、育休取得が推進されている一方で職場の理解やサポート体制が十分ではない実態も見えてきた。やはり育休期間の決定には、職場や業務への影響に対する懸念が大きく関わっているのだろう。
育児休業から復帰後に33.4%が「業務量の調整」の支援を受けている
「育児休業からの復帰後、会社から提供された支援/提供してほしい(提供してほしかった)支援を教えてください」(n=416)という質問では、会社から提供された支援では「業務量の調整」が33.4%、「在宅勤務・テレワークの活用」が30.0%、「勤務時間の短縮・フレックス制度」が29.6%だった。会社から提供してほしい(提供してほしかった)支援では、「在宅勤務・テレワークの活用」が39.7%、「業務量の調整」が37.5%、「勤務時間の短縮・フレックス制度」が31.5%だった。法改正によって企業は育児のためのテレワーク導入が努力義務として求められることになっており、今回の調査結果でも「在宅勤務・テレワークの活用」がもっとも高いニーズを示していた。
育児休暇復帰後に35.1%が「子どもとの時間をもっと取りたかったが仕事のためできなかった」
「育児休業からの復帰後、あなたが経験した具体的な困難として当てはまるものを教えてください(複数回答)」(n=416)という質問では、「子どもとの時間をもっと取りたかったが、仕事のためできなかった」が35.1%でトップだった。続いて「育児と並行して、育休前と同じ業務量・成果が求められた」が33.9%、「育児と仕事の両立に悩み、思うような成果が出せなかった」が29.1%という結果だった。積極的に育児をしたいと思う一方で、育休前と同等の業務量や成果を求められるために育児と仕事の両立に困難を感じている男性が多いようだ。まだ男性の育休期間が短く、会社での代替要員が割り当てられることが少ないという問題があるのかもしれない。
復帰後に困難だったことをピックアップ
「あなたが育児休業を取得した一番のきっかけを教えてください」という質問で、「特にない」、「わからない/答えられない」以外を回答した人(n=345)に、育休復帰後に経験した印象的な困難について自由回答の形式でコメントを求めたら、「昇進に響くのではないかという漠然とした恐れ」や「重要な会議があるのに子どもの体調不良で帰宅し、次のProjectから外されたこと」などの回答があったという。主な自由回答(一部抜粋)は次の通り。
「子供の夜泣きにより睡眠確保が出来ないまま出勤しないといけない」
「定時で帰宅したいが、成績や評価を考えるとそうとはいかず、両立することの難しさを感じました」
「新しい知識を学ぶことが必要だったり、キャリアアップの為に資格取得を続けていたが、育休復帰後は仕事と育児で精一杯で、それ以上の勉強は無理になった」
「復帰後に担当顧客を変更されてしまい、復帰後から覚えることが多々あり困ったこと」
「パートナーの負担増に対しなかなかフォローができなかった」
「子育てを妻にまかせたことで義母との関係が悪くなった」
「子供の風邪で急にまた休むことになり、他のスタッフに迷惑をかけた」
復帰後に6割以上が「精神的な不調が増えた」と回答
「育児休業復帰後、精神的な不調(不安感、イライラ、睡眠障害、意欲低下など)を感じる場面は、育児休業取得前と比べて増えましたか」(n=416)という質問では、「非常に増えた」が16.6%、「やや増えた」が48.3%だった。このデータでは、6割以上が増えたことを実感しているという結果になった。
約7割は復帰後の相談環境が「十分でなかった」と感じていた
「お勤め先では、育児休業復帰後の悩みについて相談できる環境はありましたか」(n=416)という質問では、約7割の男性が職場内やプライベート、またはその両方で相談できる環境がなかったという。うち16.3%は「職場内もプライベートも、相談できる環境がなかった」と答えており、職場や社会全体で相談できる環境が十分に整っていないと感じている人が多く、ひとりで悩みを抱え込む男性もいることがわかった。
職場でプライベートや仕事の弱みを見せることに抵抗感があると回答
「職場内には相談体制が整っていたが、プライベートでは相談できる相手がいなかった」、「職場内には相談体制が整っていなかったが、プライベートでは相談できる相手がいた」、「職場内もプライベートも、相談できる環境はなかった」と回答した人に、「相談しにくかった(または相談できなかった)理由(複数回答)」(n=282)と聞くと、「プライベートな話を職場ですることに抵抗感があった」が39.7%、「職場で弱みを見せることに抵抗感があった」が37.2%、「相談しても解決につながらないと思った」が32.3%という結果になった。やはり男性は、育児などのプライベートや仕事上の弱みを職場で相談しづらいと感じているようだ。
今回の調査を受けて、『Smart相談室』カウンセラーで国家資格キャリアコンサルタント/キャリアコンサルティング2級技能士の西山賢治氏は次のようにコメントしている。
「男性の育児休業取得が広がる一方で、復帰後の心のケアや環境整備は依然として課題が残っています。今回の調査結果から見えてきたのは、復帰した男性社員が抱える「家庭と仕事の両立への葛藤」「周囲の視線への不安」「キャリアへの焦り」など、表面化しづらい心理的負担の存在です。企業には、社内の意識改革や復帰支援制度の整備、カウンセリング的な関わり方、さらには外部相談窓口の活用が求められています。誰もがメンタル不調に陥ることなく育児と仕事の両立を実現するために、職場全体での理解と支援が必要です。男性育休の「その後」にどのように対応していくか、企業の姿勢が問われています」
西山賢治氏。社会保険労務士法人にマネージャー職として勤務。勤続15年以上、人事・労務コンサルタントとして、多くの企業の人事部門や経営者の相談対応を行ってきた。
男性の育児休暇取得の環境は改善の余地あり
育児休業を取得した一番のきっかけは「自ら積極的に取得したかった」が45.9%で最多だった。実際に育児休業を取得した期間は、52.4%が「望んだ期間とほぼ同じだった」と回答した一方で36.5%が「望んだ期間よりも短かった」と答えている。理由としては「職場に迷惑がかかることを懸念したから」が55.3%、「業務の都合で長期間の休暇が取れなかったから」が43.4%と上位という結果になり、職場や業務への影響に対する懸念が育休期間の決定に大きく関わっていることが浮き彫りになった。
今回の調査では、男性の育休取得が進む一方で育休復帰後のサポート不足という新たな課題も見えてきた。厚生労働省の国民生活基礎調査をベースに国立成育医療研究センター研究所が行った研究によれば、子どもが生まれてから1年以内に「メンタルヘルスの不調のリスクあり」と判定される男性の割合は11.0%になるという。企業は育休取得を推進するだけでなく、復帰後の柔軟な働き方や心理的安全性の確保、相談しやすい環境を整えることが重要で、男性の育休取得の環境改善が企業にとっての人材の定着と企業の持続的成長にもつながりそうだ。
「男性の育休取得に関する実態調査」概要
調査方法:インターネット調査
調査期間:2025年3月11日~2025年3月12日
有効回答:育休を取得し、同じ職場に復職した経験のある男性416名
なお合計を100%とするため、一部の数値について端数の切り上げ処理をおこない、実際の計算値とは若干の差異が生じる場合がある。
https://smart-sou.co.jp/
構成/KUMU