ハウス食品グループ本社の「涙のでないタマネギ」の研究
ハウス食品グループ本社株式会社は、1990年頃からタマネギに関する研究を続けている。このほど、「涙のでないタマネギ『スマイルボール』とその関連技術の開発」というテーマで受賞した。
タマネギを切った時に目にしみる成分が生成されるカギとなる酵素を発見し、その生成の仕組みを明らかにしたことをきっかけに、涙のでない、辛みのないタマネギを開発した。また目にしみる成分を人為的に生成させて医療や研究への応用や、酵素の働きを抑えたときに生成する新たな機能性成分の発見などにも取り組んだ。
調理しても涙がでず、辛みのないタマネギは「スマイルボール」と命名し、2015年から青果として販売してきた。
同社のアグリビジネス推進部 主席の加藤雅博氏に、今回の受賞について話を聞いた。
――今回の農芸化学技術賞受賞について、何が評価の大きなポイントなったとお考えですか?
「『涙のでないタマネギ『スマイルボール』の開発』は、レトルトカレー製造時のトラブル(変色現象)対応がきっかけとなりました。その研究の中で得られた気づきから当時の学説とは異なるタマネギ催涙成分の発生機構を明らかにし、その成果をもとに涙のでない、辛みのないタマネギを開発、社会実装した研究です。
そのプロセスには、応用研究(変色現象の解明)から基礎研究(催涙成分発生機構の解明)、そして実学的研究(涙のでないタマネギの作出)といった展開を含みます。
また目標を達成するために天然物有機化学、酵素化学、分子生物学、育種学を研究し、農芸化学分野を網羅しました。主にこれらが評価されたと考えています」(ハウス食品グループ本社 加藤氏)
――スマイルボールのおすすめの食べ方を教えてください。
「カレーでも何でも一般的な料理にお使いいただけますが、生で食べたときに最も魅力を感じていただけます。そこで、まずは1口サイズにカットしたスマイルボールをハーブソルトとオリーブオイルで和えた『スマイルボールのフレッシュチップス』などでお試しいただきたいです。スマイルボールのディップやサラダなどのアレンジレシピもWEBサイトで紹介していますので、ぜひご覧ください」
――今回の受賞を受け、今後の展望をお聞かせください。
「スマイルボールに関しては、より多くのお客様に楽しんでいただけるよう、国内外の様々な地域で栽培できるようにすると共に、新たなスマイルボールを生み出し、いつの日か、タマネギの代名詞が『涙や辛さから、甘さや美味しさに置き換わる』ことを目指して今後も研究開発に取り組みたいと考えています。
またこのタマネギは、たった一つの遺伝子の変化を、“食べて”理解できるタマネギとして、理科・生命科学の教材として展開しており、今後もさらに食育・教育分野にも注力していきたいです。
さらに、催涙成分の活用という面では、催涙成分を発生させられる『催涙キット』を用いて涙液中の成分から健康状態を把握する研究を進めると共に、研究者向けに試験販売する準備も進めています。これらを通して、お客様の健康にも貢献していきたいと思います」
涙がでないタマネギの開発は生活者にとって興味深いが、それ以上に教育や医療分野にも応用している点は、興味深い。まずはそのタマネギのメリットを色々と感じてみたくなる。
高齢化やパンデミック、温暖化による猛暑など健康にはますます気を遣うべき時代。これらの健康につながる食品イノベーションのための研究には今後も期待したい。
取材・文/石原亜香利