
「2050年脱炭素社会」実現の一環として日本政府は、ガソリン車の新車販売の廃止を将来目標に掲げている。
そのために推進しているのが、電気自動車(EV)の普及だ。しかし、政府の掛け声とは裏腹に需要は伸び悩んでおり、直近の販売シェアは約2%。伸び悩みの素因はいくつかあるが、1つには車両価格の高さがある。例えば、軽EVでも250万円前後。どうしても割高感が伴うのが実情となっている。
そこで政府は、EVの新車購入に補助金を出すことで、購入のハードルを下げる施策をとっている。年度によって補助金の額は変動するが、今年は「加算措置」、つまり上乗せがあるなど注目されている。他方、補助金の仕組みはやや複雑で、利用の敷居がちょっと高め。
そこで今回は、EV補助金の基本的なところを解説したい。
申請自体はオンラインで完結できる
まずは、基本中の基本的なところから。
補助金をもらえるのは「新車」の購入に限られる。つまり、中古車は対象外となる。そして、(一部例外はあるが)申請者と所有者と車検証上の使用者が同一でないといけない。
また、補助金をもらって購入した車両は、通常は4年間の保有が義務付けられる。何か理由があってその期間内に処分をする場合、補助金の返納を求められる。
補助金の申請窓口は、一般社団法人 次世代自動車振興センター。申請書を郵送するかオンラインで申請する2つの方式がある。郵送であれば、公式サイトから申請書類をダウンロードして、必要情報を記入の上、センターへ送る。
もう1つのオンライン申請とは、センターの「CEV補助金(車両)の申請について」ページにアクセスし、紙申請と同様の情報を入力するやり方だ。最初にアカウント登録があって、ログインしてから入力するなど煩雑さはあるが、トータルで見ればオンライン申請のほうが手間いらずといえる。
申請書がセンターで受理されると、補助金交付の可否が審査される。センターによれば、審査期間は「2ヶ月~3ヶ月程度かかる見込み」。書類に不備があればさらに期間がかかってしまうので、ここは遺漏なく作成しておきたい。
政府の補助金はたいていそうだが、EV補助金も申請前に把握しておくべき情報が多い。センターの公式サイトの応募要領にいくつものPDFファイルがあり、ダウンロードして目を通しておくことが求められている。
この面倒をちょっとでも軽減するには、購入予定のディーラーに補助金について説明してもらうといいだろう。それがざっくりした内容でも、申請時のストレスが減るのは間違いない。
国と自治体の補助金をセットでもらえる
さて、一番気になる補助金の額だが、2025年度は85万円が上限となる。これに加算措置の5万円が加わって実質90万円。これは普通車の話で、小型・軽だと上限は加算措置を入れても58万円に下がる。
これは国からの補助金だが、別途、住んでいる地方自治体の補助金も加えることができる。こちらは、自治体によって額はまちまちで、一概に金額は「このくらい」とは言えないが、ゼロのところもあるので注意が必要だ。これについては、自治体に直接問い合わせるといいだろう。
ところで上記の金額はあくまでも上限。これより低い額となることはままあるが、それは車種によって決まる。次世代自動車振興センターは、車種ごとの補助金を明示しているが、例えば、トヨタの「bZ4X G (2WD)」は定価が500万円で、補助金は満額の90万円である。定価が高いと、補助金も高くなるわけではなく、様々な基準をもとに政府が算出している。
自動車ジャーナリストの今井優杏(ゆうき)さんによれば、その基準とは「実に複雑で多岐にわたる項目で算出されている」そうだ。
「それまでは車両性能のみでの評価でしたが、2024年に『一充電当たりに対する航続距離』などの車両性能への評価に加えて、企業がクリーンエネルギー車に対して行っている取り組みも評価内容に加わりました。」
EV特有の課題を許容できるか
それなりの額の補助金が出ると知って、EV購入の意欲が湧いた人もいるだろう。しかし、単に安くなるからというだけの理由で、EVに手を伸ばすのは早計かもしれない。
今井さんは、どの車種を買うかの前に、現在のEVの特性を理解する必要性を挙げる。
「急速充電できるものでも、ゼロから満充電まで30分ぐらいはかかります。ガソリンの給油だと数分で終わるのに慣れていると、これは時間的なロスとしてじわじわとストレスになるかもしれません。それに、長距離を走って充電する回数が増えると、そのストレスはずっと大きくなります。充電できるスポットも、まだまだ足りない地域もありますし。また、車種や給電機器の設定によっては、望む充電速度が出ないといったケースもあります。
他に具体例として、電気自動車として知名度の高いテスラは、実は高い商品力に対して比較的低価格で、補助金も満額近く出る車種がほとんどです。テスラ独自のスーパーチャージャーというシステムで充電時間も短いとか、5年間充電無料キャンペーンがあるとかメリットも多いです。
ですが、車としての操作面では、メーターや物理スイッチがないなどインターフェースが独特で、人によっては難しく感じるでしょう。そうしたユーザビリティが、ガラッと変わってもOKな人にはいいですが、そうではないとハードルが高くて、選びにくいということになります」
テスラと今井さん(写真提供:今井優杏さん)
補助金対象でイチオシは日産のサクラ
テスラは乗る人を選びそうだが、逆に万人におすすめできる車種はあるだろうか?
今井さんは、日産のサクラ(SAKURA)を挙げた。
「2022年の初代の発売からしばらく経ちましたけれど、軽自動車で日本専売車種ということもあり、日本の道路事情をとことん考えて設計した車で、とても完成度が高いのですね。
1回の充電での走行可能距離はそれほどないですが、日常の走りに寄り添うような性能で、車検などのランニングコストも抑え、非常に安全技術も高いなど、ほめる要素は多いです。
ただ、補助金を除けば軽乗用車としては価格が高めです。この点について日産のマーケティング担当者に聞いたのですが、インパネの素材をコストダウンするなどして、安くする方法はあったそうです。ですが、少々割高感はあっても良いモノをお届けしたいということで、この価格帯に決めたそうです。その点でも、やはり素晴らしい車だと思います」
サクラと今井さん(写真提供:今井優杏さん)
お話を伺った方:今井優杏さん
補助金自動車ジャーナリスト。『おぎやはぎの愛車遍歴』(BS日テレ)のMCを務めるなど、実車に乗っての評論活動を主体に活躍。AJAJ日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、大型二輪免許保有者。
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取材・文/鈴木拓也