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〝心が軽くなる部屋づくり〟とは?摂食障害を乗り越えた栄養士がたどり着いた「美空間」という答え

2025.05.24

毎日を過ごす部屋・空間が、あなたの心と体にどんな影響を与えているか、考えたことはありますか? 摂食障害を乗り越え、栄養士、そして、片付けのその先にある「自分らしい暮らし・癒し」へアプローチする“美空間スタイリスト”として活動している笠井奈津子さんに、心と空間の関係について伺いました。

「食」から「空間」へ――摂食障害を乗り越えたから見えた、新たなサポートのかたち

――美空間スタイリストを仕事にしたきっかけを教えてください。

笠井奈津子さん(以下笠井さん):キャリアのスタートは栄養士だったのですが、そもそも栄養士にになったきっかけが、自分が摂食障害になったからなんです。ですので、どうしたら心が平和でいられるのかという心のケアとともに、心と食の繋がりにもとても興味がありました。

栄養士として、心療内科に併設した研究所で働いていたというのもあって、こういったことをまとめた本を出させていただいたり、研修業をスタートしたりということを長くしていました。

――ご自身の経験を生かして、心と食の関係をお仕事にされたんですね。そこからなぜ、次は空間を整える仕事にフォーカスしたのでしょうか?

笠井さん:食に対する仕事をしていて感じたのですが、食べることに対するバックグラウンドって1人1人違うんですよね。それを改めて感じるようになると本を書いたり、研修をしたりすることが果たしていいことのかな?って思うようになってしまって。ネットなどの記事を見ていても「○○は食べちゃいけない」とか、分かりやすいタイトルがついているものも多いのですが、実際に患者さんやクライアントに接している中で、そういう記事によって逆に心を病んでしまう人も見てきました。自分が食によって救われて栄養士を目指したように、今度は誰かを助ける側になりたいという本来の目的に、私がやっていることは沿っているんだろうか?とすごく悩むようになりました。

――確かに食べ物の好き嫌いも食べる時間も習慣も、みんなそれぞれですもんね。

笠井さん:それが気になり出したときにコロナ禍に突入しました。それまでクライアントさんからは食に対する相談を受けていたのが、「生活のリズムが乱れてどうしようもない」とか、「家族との距離感が変わってしまった」、「すごいイライラする」など、心のバランスやウェルネスに関係するような悩みを聞くことがすごく増えたんです。その中でお客様のために何ができるんだろう?って考えたときに、私自身が摂食障害から立ち直った経緯が思い浮かんだんです。

――自分自身の経験が、お仕事の原点になっているんですね。

笠井さん:摂食障害がもう完全に治ったって安心ができたのは、一人暮らしを始めたときでした。自分が心地いいと感じる空間を作ることが叶って初めて、人が良いとする食べ方ではなく、自分のリズムで食事ができるようになったときにそう思えたんです。頭だけじゃなくて、心も付いてきている感覚になったことを思い出して、食事だけでなく、住環境を整えるお手伝いがしたいなと思い始めました。そのタイミングで、友人から部屋を変えたいけどちょっと相談に乗ってほしいという話があったりして、もしかして住環境を整えることを仕事にしてもいいのかなと、自然の流れでスタートした感じですね。

「5時間」で変わる暮らしと心──お客様との丁寧な対話が鍵に

――部屋を整えると聞くと、やはりモノを捨てることからスタートですか?

笠井さん:最初は片付けは3割でコーディネート7割ぐらいかなと思っていたんですけど、実際に始めてみたら8割が片付けです。

――そう聞いて少し安心しました(笑)。具体的にはどのように部屋を整えていくのでしょう?

笠井さん:私の仕事はオシャレな家にすることが目的ではなく、あくまでも快適に暮らせる空間を作るのが目的です。まずは直接お伺いさせていただくか、オンラインの場合は家の写真や動画を拝見させていただきながら、「どうして家を整えたいと思っているんですか?」、「どこを生かしたいですか?」、「キーワードを3つ挙げるとしたらなんですか?」など、そういったことをしっかりヒアリングします。そこからテーマを決め、何がネックになっているかなどをピックアップし、当日を迎えます。私のクライアントさんはとてもお忙しい方が多くて、みなさん大体5時間くらいで一通り整えてしまいますね。

――5時間!? 思っていたよりも短いですね!

笠井さん:事前にお話をじっくりしていること、テーマを決めていることもあって、「いる・いらない」の判断もしやすいんです。基本的には5時間でリビングとキッチンとか、リビングと玄関からリビングまでの動線を整えるなどリビング中心という方が多いですね。事前のコーチングと当日の5時間で、コツというか考え方がわかって、そこからは割とご自分でも整えられるようになりますね。

――何か変化があったとか、クライアントから聞いて印象に残っている言葉などはありますか?

笠井さん:「こんなにも家って心地よかったっけ?」とか「明日の朝、起きるのが楽しみ」とか、それこそストレスによる過食が減ってすごく体重が落ちた方もいらっしゃいましたし、お子さんが自分から片付けるようになったと伺ったご家庭もあります。そういった声が時折聞こえてくると、私もすごく嬉しいなと思いますね。

部屋は“心の充電器”。整っていない部屋が自分を削る場所にならないために

――やはり空間の状況と心と体の関係ってあるということですね。

笠井さん:部屋が散らかっていても集中できるタイプの方もちろんいると思うんですけど、散らかった部屋だと皆さん、少なからず自責の念みたいなものを抱えていらっしゃって。私のイメージとしては、家って充電器だと思っているんです。外から帰ってきて、自分がここにポコッとしたら充電されていくみたいなイメージ。だからその家が充電器として機能していない状況、例えば「片付けなきゃ」とか「これがまだ出来てなかった」とか、そういう自分を削っていく場所になってしまっていると、やはりメンタル面も整いにくいですよね。

それにモノの管理が明確にできていれば探す時間がかからないので、その分、自分のための時間が生まれやすい。よく使うオイルがすぐ手に取れるところにあるとかすごく些細なことなんですけど、そういう積み重ねが部屋を整えるということなんです。

――忙しいから片付けられないんじゃなくて、片付けるとその忙しさが緩和されていくみたいなイメージですよね。部屋を整える、自分が落ち着く空間にするための、すぐ取り入れられる簡単なポイントはありますか?

笠井さん:家の中で自分がよく座る場所ってありますよね。最初はその場所から見える範囲だけを片付けるだけで十分です。まずはそこからでいいと思います。

あとはテーマを決めて、それに沿ってモノを極力減らす。それから新しいアイテムを一つ買う前に一つ減らすという意識をする。

――家族や、誰かと一緒に住んでいる場合はなかなか自分の思う通りにするのが難しいですよね。

笠井さん:多いです、そういうお客様も。そういうときこそ、他人が介入する意味があるなってつくづく思います。お客様のフィードバックで、「笠井さんが夫と子供のことをすごく褒めてくれたことが一番嬉しかったです」という言葉をもらったのがすごく心に残っています。要は、うまくその気にさせてくれたことがすごく助かったっていうことなんですけど、みなさん普段ご家族には、ついつい片付けて当たり前と思って接してしまうんです。一度部屋が整えば、心地よさに気がついて続けてくれるようになりますから、一緒に暮らす人たちを上手に巻き込むことも重要ですよね。

モノが増えるとき、心は満たされていない!?──“満たす”片付けとは?

笠井さん:モノが増えていくときはストレスを抱えているサインなのかもしれません。ストレスがあるときってなんでもため込んでしまうんです。穴を埋めるように。食事もそうです。私が摂食障害のときはお腹が空いているんじゃなくて、心が空いているという感覚でした。それと同じで、家の中が満たされていないと、好きなものを買うことで満たされる感覚になるんですよね。

――そして気がつくとモノが増えている…。

笠井さん:だからといってそれを捨ててください、ということではなくて、自分を満たしてくれるモノが輝ける場所を作ってあげることが大事なんです。それによって初めて、満たされるという感覚が湧き上がってくると思います。

――なるほど。単純にモノを減らして整理するというだけじゃなく、心が満たされるものを上手に配置するということですね。

笠井さん:家って物理的なものではないと感じていて、何か心が宿る場所、私は自分自身や自分の彼氏ぐらいに思っているんです。愛した分だけちゃんと返してくれる、例えば、散らかったままじゃなくて、きちんとテイクケアしていれば、家に帰ったときに本当に包み込まれるような癒しを返してくれます。彼氏がオープンマインドな人であれば、そこからコミュニケーションが広がって、人との繋がりの中で幸せが生まれます。実際、家を整えるきっかけとして、「人を呼べる家にしたい」という理由のお客様は本当に多いです。

――美空間とは、単に綺麗な部屋という意味ではなく、自分がどんなことに満たされるか、というテーマに合わせて整えられた空間ということなんですね。

笠井さん:自分が居心地のいい部屋にするためにモノを捨てることは基本ですが、ミニマリストになる必要はないんです。捨てる過程で、ナゼこれを捨てることが出来なかったのか?とか、どうして大事に思っていたのか?とか、それを話しながら、言語化しながら捨てることが大事なんだなっていうことをすごく感じています。ゴミを捨てるというよりも、何かを手放すんだと思うんですよ。自分の責任とか、こうでなくちゃいけないっていう思い込みも含めて。それをもう手放してもいいステージなんだって、自分で気が付くことが満たされる空間「美空間」をつくる第一歩かなと思います。

笠井奈津子さん
1979年東京都生まれ。聖心女子大学哲学科を卒業後、栄養士に。心療内科クリニックの研究所にて、食の視点からカウンセリングに携わり、独立後は企業研修や執筆活動に注力。コロナ禍で住環境が健康に与える影響を感じるようになり、個人宅の空間スタイリングなど、食と住をかけあわせたウェルビーイングな分野にも進出している。

取材・文/高田あさこ

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