
先日、格付け会社のムーディーズが米長期信用格付けを引き下げたことが話題となった。
この格付け会社とは、債券などの元本償還や利払いの確実性を分析して、アルファベットや数字など簡単な記号でランク付けする民間企業のこと。
国では2010年の金融商品取引法改正により独立性、公正性などの観点から、格付け会社としての体制が十分に整備された会社については金融庁に登録され、監督下に置かれることになっている(三井住友DSアセットマネジメントのサイトより引用)。
今回は、そんな米信用格付け引き下げに関する考察リポートが、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から届いたので、概要をお伝えする。
ムーディーズの格下げにより米長期信用格付けに最上位を付与する大手格付け会社はなくなった
大手格付け会社のムーディーズ・レーティングスは5月16日、米長期信用格付けを最上位の「Aaa(トリプルA相当)」から「Aa1(ダブルAプラス相当)」へ1段階引き下げた。
今後、歳出の増加に伴って財政赤字の拡大が見込まれることなどを引き下げの理由に挙げているが、格付け見通しは、米ドルの高い信用力が政府債務の借り換えを支えるとして、「ネガティブ」から「安定的」に引き上げている。
過去にも、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P、現S&Pグローバル)が2011年8月5日に、フィッチ・レーティングスが2023年8月1日に、それぞれ米長期信用格付けを「トリプルA」から「ダブルAプラス」へ1段階引き下げている。
今回のムーディーズの引き下げで、米長期信用格付けに最上位を付与する大手格付け会社はなくなった。
■2011年はS&Pの格下げで株安に、2023年もフィッチの格下げで株安だったが利上げの影響大
2011年のS&Pによる格下げを受け、当時の市場は大きく混乱した。
ダウ工業株30種平均は2011年7月21日の直近高値から10月3日まで16.3%下落し、7月21日の水準を回復したのは約6か月後の2012年1月25日だった(図表1)。
ダウ平均が下落した2011年7月21日から10月3日まで、米10年国債利回りの変化幅は1.26%の低下となり、ドル円は1円67銭ドル安・円高が進んだ(ニューヨーク市場終値ベース、以下同じ)。
また、2023年にフィッチが米長期信用格付けを引き下げた際、ダウ平均は格下げ日の2023年8月1日が高値となり、10月27日まで9.0%下落。8月1日の水準を回復したのは約4か月後の11月30日だった(図表2)。
ダウ平均が下落した2023年8月1日から10月27日までの期間、米10年国債利回りの変化幅は0.81%上昇、ドル円は6円32銭ドル高・円安が進行した。ただ、この期間は米利上げの影響が大きかったと推測できる。
■今回格下げの市場への影響は限定的、減税などによる中長期的な財政赤字の動向には要注意
今回、ムーディーズの格下げを受けた市場の反応をみると、格下げ発表の前日である5月15日から19日まで、ダウ平均は1.1%上昇、米10年国債利回りの変化幅は0.02%の上昇、ドル円は81銭のドル安・円高と、比較的落ち着いた動きとなった。
米長期信用格付けの引き下げは今回で3回目となり、改めて米国債を売り急ぐ投資主体もなく、市場は冷静に材料を消化している模様だ。
米議会では現在、減税法案の審議が続いており、10年間で3.5兆ドル程度の財政赤字拡大要因になるとの試算もあるが、関税引き上げによる税収入を財源に含めると、赤字額はかなり減ることも考えられる。
今回のムーディーズによる格下げが市場に与える影響は限定的と思われるが、減税法案と関税交渉の行方を踏まえた中長期的な米財政赤字の動向には引き続き注意が必要と考える。
構成/清水眞希