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「保育DX」が進まないのはなぜ?おさえておきたい最新事情と保育園選びのヒント

2025.06.02

近年、DXが進まない課題に直面する業界があるが、保育業界もその一つだ。その背景には何があるのか。

今後、保育園を選ぶ際に、保育DXが進んでいる園を選ぶべきか。親としてはぜひ考えたいところだ。

今回は、「ここが変だよ、保育園」の著者で、通信業界大手に研究者として勤めた後、実家の保育園を継いだ異色の保育園経営者である、社会福祉法人みなみ福祉会 理事長 近藤敏矢氏に、保育DXの課題と解決策、一般の子育て家庭に向け、保育園選びのヒントを聞いた。

保育園のDXの進捗状況

保育園は今、DXはどの程度まで進んでいるのか。

トライトグループが2021年7月~8月に10代から60代以上の保育従事者男女307名に対して行った「保育施設におけるDX実態調査」の結果、DXに取り組むのは全体の39.8%と約4割となり、そのうち70.5%と7割ほどが コロナ禍の影響でDXが進んでいると回答した。

コロナ禍で加速したとはいえ、まだ全般的に進んでいるとは言い難い状況と見て取れる。

DXが進んでいる分野(活用しているツール)を尋ねると、「保育記録ツール(37.7%)」「園児の写真管理ツール(33.6%)」「保護者との連絡ツール(32.8%)」の順に並んだ。

保育園はDX化が遅れている?

保育園はDX化が遅れているのか。実情を現場や経営の観点から近藤氏に問う。

【取材協力】

近藤 敏矢氏
社会福祉法人みなみ福祉会理事長。保育園や子育て支援拠点等を運営する中で、保育現場の実情と制度のギャップを可視化し、保護者や社会に伝える活動を行っている。著書『ここが変だよ、保育園』『親が知らない保育園のこと』。

「保育業界全体で見ても、DXは決して十分に進んでいるとは言えません。登降園管理のIC化や保護者アプリの導入など、一部ではデジタル化が広がりつつありますが、行政文書等の事務業務については、十分な効率化には至っていません。

特に、保育園を主とする法人においては『保育をしているのであって経営をしているわけではない』といった意識がいまだに根強くあります。このような意識は、法制度によって最低限の運営が保証されているという環境に支えられており、経営的な視点や変化への自責的な姿勢が育ちにくい土壌となっていると考えます。『変えてはいけない大切なものがある』という言葉を口実にして、実際には変わるべき部分まで見直しが進まず、結果としてDXも置き去りにされているように思います」

保育園のDXが進まない理由とは?

保育園のDXが進まない具体的な理由にはどんなことがあるか。

「保育のDXが進まない理由は、制度的・心理的・文化的な複合要因にあります。まず現場では、DXに対するイメージが『便利になる』程度にとどまり、本質的な業務変革としての認識が乏しいままです。また、保育士の配置基準が手薄く、疲弊している現場状況の中で、新たな仕組みを導入・理解・活用する『余白』がそもそもありません。変化に対する不安や抵抗は強く、特にデジタルに不慣れな職員にとっては、DXは業務効率化ではなく、逆に業務を増やすものと受け止められがちです。

どの業界でも同様ですが、DX推進に伴う新たな手順の習得やツール導入などに一定のコストがかかることは避けられません。知識理解も求められますが、学ぶ余力が現場にない、という点も大きな障壁となっています」

保育園DXを進めるために

さまざまな課題に直面する保育園は、運営側、保育士ともにどんなことに取り組むべきか。

●園長の役割の再認識

「最初に立ち返るべきは『園長の役割とは何か』という視点です。保育所保育指針では、園長は職員の研修機会確保や保育の質の向上に責任を持つ存在として位置づけられていますが、本来これらは主任保育士の責務であり、園長はその土台となる経営環境の整備に責任を負うべきです。経営という大人の都合が、子どもの環境に影響を及ぼさないよう、守り抜くことこそ園長の最も重要な役割と言えます。公立園ではこの部分を行政担当者が担ってくれますが、民間園では施設長=園長がその両方を引き受けなければなりません」

●DXは「子どもに向き合う時間を最大化するため」の手段であることの発信

「DXは『保育士を楽にするため』ではなく『子どもに向き合う時間を最大化するため』の手段です。その意義を園長自身が言語化し、職員と共有し、小さな成功を積み重ねることで初めて、DXは現場に根付きます。そのためには、園の中だけでなく外に向けて、園長の本来の責務や保育の未来像を発信していく必要があると考えます」

DXへの積極性を子どもの保育園選びの一つの材料に

親が今後、子どもを預ける保育園を選ぶときに、DXへの取り組み度は参考になるだろうか。

「AI等の技術革新だけでなく、子育てについても時代変化の中で常に変わり続けています。その変化に追従せず、『昔ながらの常識』を保護者に押し付けてしまうとなれば、現在の子育て環境を無視した、時代錯誤の対応かもしれません。

DXの導入は、そうした“時代の更新”を受け入れる力のある園かどうかを見極めるヒントになります。変化する子育て環境に真剣に向き合い、現時点での最適解を保護者とともに選択し、保護者とのより良い関係性を築こうとする園であるかを判断する一つの材料として捉えてはいかがでしょうか。

保育園が開いている時間に電話でしか連絡できない園よりも、子どもの発熱を園の開園時間を気にせずネット経由で伝えられるほうが便利だと、多くの保護者の方が実感されています。それだけでなく、DXに積極的であることは、時代の変化に対する園の感性や柔軟性を示す一つの指標とも言えるでしょう。『園がICT環境整備を通じて何を変えようとしているのか』『どんな保育観を持っているのか』といった点にも、ぜひ見学や説明会の場で注目していただきたいと思います」

保育園DXは、今後も加速していくはずだ。しかし大事なのは進捗状況だけでなく、そもそも保育やDXの「本質」を理解しているかどうかであるようだ。

調査出典:トライトグループ「保育施設におけるDX実態調査」

取材・文/石原亜香利

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