小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

美術館でととのう!?科学が証明した「ルノワール」や「浮世絵」が心に効く5つの理由

2025.05.29

 アートが持つ力にはさまざまな効能があることが指摘されているが、新たな研究では視覚芸術を鑑賞することで幸福感が大幅に向上することが報告されている。芸術鑑賞は幸せと安寧をもたらし、メンタルの健康にきわめて好影響を及ぼすという。

美術館は幸せになれる場所?

 梅雨の季節も近づき行楽ムードはいったん落ち着きを見せているが、アート系の話題は賑やかであるようだ。

 たとえば上野の森美術館では5月27日から「五大浮世絵師展」は開催され、東京・丸の内の三菱一号館美術館では5月29日からは「ルノワール×セザンヌ」の展覧会が催される。

 本物の浮世絵やルノワール、セザンヌの絵画をこうした機会にぜひ鑑賞してみたいものだが、アート作品を鑑賞すると幸福感が高まり、人生の意味が増し、個人の成長が促進されることが最新の研究から報告されている。美術館は幸せになれる場所でもあったのだ。

 オーストリア・ウィーン大学、英ダブリン大学トリニティ・カレッジ、独ベルリン・フンボルト大学の心理学研究チームが今年4月に「The Journal of Positive Psychology」で発表した研究では、芸術作品を鑑賞することで人生の意味や個人の成長に関連する幸福感が向上することが突き止められている。

 これまでの研究では芸術作品を鑑賞すると気分やストレスに影響を及ぼす可能性が示唆されていたが、研究は限定的で一貫性がなかったと研究者らは述べている。

視覚芸術がもたらす5つの心理メカニズム

 研究チームは合計6805人の参加者を対象とした、これまでに発表された38件の研究のレビューを実施し、芸術鑑賞がいつ、どのような状況で、またどのような心理的プロセスを通じて健康を改善するのかを明らかにすることを目指した。

 2000年から2023年の間に発表されたこれらの38件の研究は、4つの主要なデータベース(CINAHL、EBSCOhost、Scopus、PubMed)から抽出されたものである。

 研究チームは芸術鑑賞が幸福感をどのように支えるかを説明するのに役立つ5つの心理メカニズムを特定した。

1.情動メカニズムには、美的反応によって引き起こされる感情の調節と快楽体験が含まれる。

2.認知メカニズムには、注意、記憶、学習が関与し、芸術は内省を促したり、好奇心を刺激したりする。

3.社会的メカニズムは、共有された芸術体験がどのようにつながりを育み、孤立感を軽減するかを説明する。

4.自己変容メカニズムは、個人の内省、アイデンティティの強化、そして意味の感覚を可能にする。

5.レジリエンス構築メカニズムは、特に臨床環境や高ストレス環境において、感情的な対処と回復をサポートする。

これらのメカニズムは、将来の研究に貴重な洞察を提供し、より効果的な芸術の活用に役立つということだ。この分野における将来の研究を標準化し、改善するために、著者らは「受容的芸術活動研究報告ガイドライン(RAARR)」を策定した。これは将来の芸術の活用と研究をより適切に比較、評価、再現するための新しい基準となる。

芸術鑑賞が健康を有意義にサポート

 研究チームによれば視覚芸術の鑑賞によってもたらされる幸福感はユーデモニック・ウェルビーイング(eudemonic wellbeing)であるとされ、個人の成長と自分よりも大きな何かへの貢献に根ざした、より深く長期的な幸福感を指している。つまり息を飲むほどの雄大な大自然の景観を前にした時のような驚きを伴い記憶に残る幸福感でもあるだろう。

 研究チームによるとユーデモニック・ウェルビーイングの効能は、美術館やギャラリー、診療所や病院、さらには仮想現実空間を通じて、さまざまな場所で観察できたという。そして具象画、抽象画、近代絵画、現代絵画、写真、彫刻、インスタレーションなど、幅広い種類の視覚芸術が幸福感を高めることがわかったのだ。

「芸術は贅沢品だと思われがちですが、私たちの研究は、趣味であれ、あるいは的を絞った健康介入としてであれ、芸術鑑賞は健康を有意義にサポートできることを示唆しています」と、ウィーン大学およびラドバウド大学医療センター・ドンダース研究所の研究者、マッケンジー・トゥルップ氏はウィーン大学のプレスリリースで言及する。

「この研究は、芸術を低コストで利用しやすい健康資源として捉え直すことで、日常環境や公衆衛生戦略に芸術を統合する刺激的な可能性を切り開きます」(トゥルップ氏)

暮らしの中で触れるアートの効能

 トリニティ大学心理学部のクレア・ハウリン助教授は「芸術作品を創作することによる精神衛生上の利点は広く研究されてきたが、芸術作品を鑑賞することの影響については十分な研究が行われておらず、過小評価されてきた」と指摘し、芸術鑑賞の意義の理解が進むことを望んでいる。

 2019年以降、WHO(世界保健機関)は日常的な臨床ケアと並行して創造的なアプローチを活用することを推奨しており、その点で芸術鑑賞は人生の意味を探求し、自尊心を高め、肯定的なアイデンティティを育むこともできるだろう。

 欧州各国の保健省や芸術評議会は、それぞれの医療成果に対してどのような芸術が活用できるかを特定するための質の高いエビデンスを求めており、今回の研究は将来的に大規模な研究を計画する上で役立つことは間違いない。

 視覚芸術作品は美術館、ギャラリー、病院、そして家庭など、日常のあらゆる場所に存在し、目にすることができるが、その効果を理解することで、日常的に芸術に触れることで生活の満足度(well-being)を底上げすることも期待されている。メンタルの健康のためにも、日々の暮らしの中で積極的に芸術に触れていきたいものである。

※研究論文
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17439760.2025.2481041

※参考記事
https://medienportal.univie.ac.at/en/media/recent-press-releases/detailansicht-en/artikel/adding-art-to-our-lives-boosts-well-being/

文/仲田しんじ

「スゴい!」という感動を求めすぎるのは危険!?陰謀論が生まれる意外なメカニズム

 何か“スゴイもの”が見られるという期待を胸に多くの人々が万博を訪れているが、実際に“スゴイ体験”ができたとすれば実に有意義で幸運な訪問になるだろう。人生を豊か...

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2025年4月16日(水) 発売

DIME最新号は、「名探偵コナン 熱狂の舞台裏」。長野県警全面協力!劇場版最新作の舞台の新聖地とは?長野県警トリオ〟をあしらったトリプルジッパーバッグの付録付!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。