
1964年11月10日に発売され、今年、発売60周年を迎えた「味ぽん」。発売当時は鍋専用調味料として、西日本限定で販売されていたが、その後、全国に販売エリアを拡大。1974年には「味ぽん」が正式に商標登録された。その後、用途は鍋のつけだれにとどまらず、焼肉・焼魚・ぎょうざ・冷奴、炒め物や煮物などに広がっており、すでに家庭の基礎調味料として揺るぎない地位を築いている。
約2ヵ月で販売予定だった数量が、4日で完売
そんな「味ぽん」が今、新たなフェーズを迎え、話題となっている。株式会社Mizkan(以下「ミツカン」)は、粉末タイプの味ぽん「無限さっぱりスパイスby味ぽん」(以下「味ぽんスパイス」)を開発。2025年2月13日から全国のドン・キホーテ、アピタなどのPPIHグループ店舗限定で先行発売を開始した。すると、約2ヵ月で販売予定だった数量が、4日で完売。SNSでの注目度が高まり、さらに入手困難になり「◎◎で買えた!」などの情報も飛び交う事態になった。こうした状況を受けてミツカンでは、安定供給に向けて生産体制を強化しているという。
ちなみに筆者も発売直後に商品を探したが店頭に見当たらず、ミツカンの公式オンラインショップにも見当たらなかったのでAmazonで購入したが、1本539円(※オープン価格:筆者調べ)のはずが1600円に高騰していて驚いた。それだけ高くても「試してみたい」という人が多かったのだろう。
「無限さっぱりスパイスby味ぽん」(65g)税込み539円(オープン価格、筆者調べ)。味ぽん愛用者に同じように親しみを持ってもらえるよう、味ぽんがそのまま小さくなったようなボトルデザインになっている
それにしても、国民的調味料である「味ぽん」を粉末にしようというアイディアは、どのようにして生まれたのか。ミツカンに話を聞いた。
伸長しつつある「料理ライト層」向けに、より幅広く使える形で提案
ミツカンによると、「味ぽん」は確かに“一家庭に一本”ある調味料として浸透し、世帯数の増加とともに売上上昇傾向が続いていた。しかし少子化により世帯数が頭打ちとなり、かつ、昨今の物価高やコロナ禍を経て生活者の「料理離れ」が加速。調味料市場全体が縮小傾向になっている。
「一方で、若年層の方や男性の方など、『料理ライト層』の調理関与度が上がってきており、こちらは機会と捉えています。中食の発達や若年層の自炊状況の変化から、『調味』ユースに伸長の兆しがあると見ていますが、弊社の味ぽんは、『味ぽんと言えば鍋』という固定化されたイメージがあります」(ミツカン)
そこでそのイメージを一新し、「使い方の幅広さ」を認識してもらうことで食卓出現頻度を上げていくことを課題に、商品開発に取り組んだ。粉末にしたのは、味ぽん愛用者の隠れニーズに着目したことがきっかけだという。
「揚げ物や焼き物はレモンや味ぽんなどでさっぱり食べたいというニーズは顕在化していました。しかしレモンや味ぽんなどの液体をかけてしまうと食感が失われてしまうという生活者のお悩みに着目。サクサク食感はそのままにさっぱりとした味わいを楽しみたいという隠れたニーズに応えた商品が味ぽんスパイスです」(ミツカン)
見た目は、粉末味ぽんというよりもシーズニングソルト⁉
原料名を見ると、最も多いのが塩で、次いで砂糖。その後に表示されている「デキストリン」はいも類やとうもろこしなどの“でんぷん”を酵素で分解し、低分子化したものであり、でんぷん同様「食品添加物」ではなく「食品」である。その次に多いのがしょうゆ顆粒、次いで“酸味”グループである粉末酢チップ、柑橘パウダー。液体の「味ぽん」の原料もしょうゆ、果糖ぶどう糖液糖、かんきつ果汁、醸造酢、食塩なので、割合は違えどメンバーとしてははほぼ同じという印象だ。違うのはその後に表記されている「陳皮」「唐辛子」「こしょう」「にんにく」などの、いわばスパイス類。ミツカンによると、ここがこの商品の開発で苦労した点だという。
「単に味ぽんを粉末にしただけに留まらず、粉末だからこそお届けできる付加価値をどう出していくかの検討が苦労した点でした。粉末だからこそ『さくさく食感をそのままに、さっぱり味を楽しみたい』というニーズに応えられると考え、ガーリックなどの味わいも付与することでスパイスとして美味しいものを作ることができたと自負しております」(ミツカン)
粒子は非常に細かい。いろいろなものが入っていて、見た目はシーズニングソルト(ハーブなどで味付けした塩)のよう。粉だけをそのまま味わってみると、最初に感じるのはうまみ。次いで柑橘の爽やかな酸味と、ほのかな甘みを感じる。塩味は意外に控えめ。ごく少量をなめただけでも、波状攻撃的にいろいろな味わいが押し寄せてくる。これをなめながらお酒を飲めそうだ。
味ぽんだと、しょうゆの味が主で酸味が従という感じだが、味ぽんスパイスはより複雑。ニンニクや唐辛子などの風味はダイレクトには感じないが、コクやうまみとなって、味を底上げしているのだろう。どんなものに合うのかミツカンの担当者に聞いたところ、「おすすめの使い方としては揚げ物です。個人的にはレタスに本品だけかけて食べることもあります」とのこと。
さっそく試してみた。
味ぽんスパイスを実食して検証!「揚げ物」が軽くなるって、本当?
ボトルにも書かれているミツカンのおすすめに従い、まずは唐揚げやフライ、そして担当者の個人的おすすめのレタスなどから試してみた。
(1)鶏唐揚げ(2)メンチカツ(3)ささみチーズ揚げ(4)レタス
年齢的に揚げ物がきつくなり、最近はほぼご無沙汰だった。こんな揚げ物だけの盛り合わせは久々で、正直「見ただけで腹いっぱい」。仕事とはいえ、完食は無理かもしれないと思っていた。
ところが驚くことに、普段ならもたれて持て余すに違いないビッグサイズのメンチカツが、するっと喉を通るではないか。衣がサクサクのままで食感が軽い、だけではない。液体の味ぽんをかけた時よりも、柑橘の香りと酸味が鮮烈に感じられるのだ。しかし柑橘の酸味だけでこんなに食は進まない。ここで「陳皮」「唐辛子」「こしょう」「にんにく」などの、食欲増進チームの底力に気がついた。
さらに驚いたのが、担当者おすすめの「レタス」。揚げ物の口直し効果もあるだろうが、レタスが本当においしくなる。ふりかけただけで、計算された料理のような奥行きが出るのだ。本当に、「無限さっぱりスパイス」という商品名そのまま。
(5)イカフライ (6)ヒレカツ (7)ポテトコロッケ (8)ホタテフライ (9)千切りキャベツ
この衝撃の結果を受けて、翌日は揚げ物4品に挑戦してみた。全然いける。箸がとまらない。特にホタテフライやイカフライなど、海鮮系のフライとの相性が抜群。ホタテフライはもう、味ぽんスパイスがなければ食べたくないくらいだ。意外に相性がよかったのがポテトコロッケ。パッケージのおすすめに「ポテト」が入っているだけある。
そしてここで、初めて「味ぽんスパイスじゃないほうがいいかも…」と感じたのが、ヒレカツ。もちろん味ぽんスパイスでもおいしいが、肉質が緻密で重さを感じるので、ソースくらいのヘビーさがバランス的にちょうどいいように感じた(個人の感想です)。
卵、野菜、ご飯もただかけただけで、計算した料理っぽい味わいに
さらに驚いたのが卵や野菜、ご飯などのシンプルな食材にかけた時。少量かけただけで、まるできちんと計算して仕上げた料理のような味わいになる。ただの茹で卵や目玉焼き、お浸し、茹で野菜だけではおかずにならないが、味ぽんスパイスをかけただけで、一品料理として成立する感じ。個人的に、どれもこれも酒が進む味になるように思った。
(17)目玉焼き (18)ささみフライ (19)カレーコロッケ (20)生野菜
上のプレートは、全部の味付けが味ぽんスパイスだが、全て違う味わいになるので、まったく食べ飽きない。このように、4日間ほど味ぽんスパイスを使いまくって気がついたことがもうひとつある。
夫婦2人で、4日間あらゆる料理にかけまくったのに、おそろしく減りが遅い。これは非常に細かい顆粒であること、狙ったところにごく少量だけかけることができるので、使用量が少なくて済むことが理由だろう(「おいしくてかけすぎるので、減りが早い」という声をSNSで見たが、「そんなにかけて大丈夫?」と心配になった)。同じくSNSでは「液体の味ぽんに比べて割高」という声があったが、液体の味ぽんだとついかけすぎてしまうことがあるので、味ぽんスパイスはむしろ割安なのではないだろうか。
これからの梅雨や猛暑で食欲が減退する季節だが、味ぽんスパイスが強い味方になってくれそうな予感がする。
取材・文/桑原恵美子
取材協力/株式会社Mizkan