
昆虫は環境の変化を受けやすい生き物であり、私たち人間が気づかないうちに、多くの種類が絶滅の危機に瀕しています。その中には「この昆虫、昔はたくさん見たのに!?」という意外な種類も多く含まれています。そこで、今回は日本の代表的な絶滅危惧種から年々、数が減ってきている身近な昆虫までを紹介します。
日本の代表的な絶滅危惧種
「絶滅危惧種」という言葉は、誰しもが一度は聞いたことがあるかと思います。文字通り、「絶滅の危機にある生物」のこと。日本では環境省や各自治体によって絶滅危惧種が選定されており、それぞれの種類について、保全活動などが行なわれています。今回はその中でも、代表的な絶滅危惧種3種類について解説します。
・オオクワガタ
大人気のクワガタムシで、「黒いダイヤ」とも言われています。平野部ではクヌギやコナラなどで構成される雑木林に、山地ではブナ林に生息していますが、それらの森林が開発などに伐採されることにより激減。環境省のレッドリスト(絶滅の危険度を評価したもの)では、絶滅危惧II類(絶滅の危険が増大している種)として扱われています。ごく一部の地域を除き、野生で見かけることは非常に稀な種類となってしまいました。
・ゲンゴロウ
ゲンゴロウは池や沼などの水の中に暮らす水生昆虫です。以前は全国的に各地で確認されていましたが、農薬などによる水質悪化、生息地である湿地の埋め立て、さらにはアメリカザリガニなどの外来種の影響で、激減しています。環境省のレッドリストでは、絶滅危惧II類として扱われており、東京都や神奈川県では絶滅したと考えられています。北日本の一部の地域などを除き、非常に稀な種となってしまいました。
・ギフチョウ
ギフチョウはアゲハチョウ科の一種で、春のみに現れ、可愛らしい見た目をしていることから「春の女神」とも称されるチョウです。森の開発や管理不足、シカの食害などにより、ギフチョウが好む生息環境や食草であるカンアオイ類が減少していることにより、個体数が激減してきています。環境省のレッドリストでは、絶滅危惧II類として扱われており、東京都や和歌山県では絶滅したと考えられています。
数が減ってきている身近にもいる意外な昆虫たち
ここまでは、日本における代表的な絶滅危惧種を紹介してきましたが、上記の種は昆虫や環境に関心のある方であれば、減少していることを知っている方は多いかと思います。そこで、次は、僕が20年以上昆虫を観察してきて、「この種類、身近にもいるけど確実に減ってきてしまっているな」と感じている昆虫3種類について解説します。
・タマムシ
タマムシは全身が緑と赤色に輝く美しい昆虫で、初夏から夏にかけて姿を現します。幼虫はエノキなどの木を食べて成長するため、森にそれらの木の薪が積んでいる場所を観察してみると、産卵に訪れたタマムシを観察することができます。しかしながら、タマムシも以前に比べると開発などにより、数が減ってきており、自治体によっては絶滅危惧種II類(山形県)や準絶滅危惧種(茨城県や群馬県など)に選定されています。
・ハンミョウ
赤、青、緑に輝く美しい体を持ち、鋭い大顎で獲物を捕まえる肉食の昆虫です。林道や湿った場所などの日当たりの良い場所に生息しており、道を教えてくれるように飛びます。このハンミョウも以前はごく普通にいる昆虫でしたが、生息環境がアスファルトによって埋め立てられたり、土壌環境が悪化したりしたことで減少。自治体によっては準絶滅危惧種(東京都や大阪府など)に選定されています。
・オオムラサキ
日本の「国蝶」でもあるオオムラサキ。夏に現れ、オスは青紫色の美しい羽を持っています。幼虫はエノキなどの葉を食べて育ち、成虫は樹液に集まる習性があるため、豊かな雑木林の環境が必要です。しかし、伐採などにより、良質な雑木林の環境は減少し続けているため、オオムラサキの数も減ってきています。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧に選定されています。
昆虫たちを絶滅から守るには?
ここまで、日本において絶滅が心配されている昆虫たちについて、解説してきましたが、彼らを絶滅から守るためにはどうすればいいのでしょうか?
大事なことは彼らの生態を理解し、環境と共に保全していくことです。昆虫は昆虫のみで存在しているわけではなく、何か植物を食べたり、他の生き物を食べたり、環境とのつながりを持って生きています。また、同じ森の中でもすべての昆虫が同じ場所を好きなわけではなく、種類によって好みや特性があります。
そのため、多様な昆虫たちが生息できる環境作りを進めていくことが、昆虫たちを絶滅から守り、かけがえのない生物多様性を維持していくことに繋がるはずです。
昆虫ハンター・牧田習
博士(農学)。1996年、兵庫県宝塚市出身。2020年に北海道大学理学部を卒業。同年、東京大学大学院農学生命科学研究科に入学し、2025年3月に同大学院博士課程を修了。昆虫採集のために14ヵ国を訪れ、9種の新種を発見している。「ダーウィンが来た!」(NHK)「アナザースカイ」(NTV)などに出演。現在は「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)にレギュラー出演中。昆虫をテーマにしたイベントにも多数出演している。
著書:「昆虫ハンター・牧田習のオドロキ!!昆虫雑学99」(KADOKAWA)、「昆虫ハンター・牧田習と親子で見つけるにほんの昆虫たち」(日東書院本社)好評発売中。Instagram・Xともに@shu1014my
文/牧田習
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著者プロフィール

牧田習(まきた・しゅう)
博士(農学)。1996年、兵庫県宝塚市出身。2020年に北海道大学理学部を卒業。同年、東京大学大学院農学生命科学研究科に入学し、2025年3月に同大学院博士課程を修了。これまで14か国を訪れ、9種の新種を発見している。『趣味の園芸、やさいの時間』(NHK)、『猫ねこのひたいほどワイド』(テレビ神奈川)にレギュラー出演するなど、テレビやラジオ、雑誌で活躍。昆虫をテーマにしたイベントにも多数登壇している。著書に『昆虫ハンター・牧田習と親子で見みつけるにほんの昆こん虫ちゅうたち』(日東書院本社)などがある。Instagram・Xともアカウントは@shu1014my
書籍情報
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【採集編】
花に集まる虫をとろう!
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【コラム】
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昆虫標本の作り方
構成/DIME編集部