
人類の存続に必要な出生率とは?
テスラ社のCEOで、少なくとも14人の子どもの父親であるイーロン・マスク(Elon Musk)氏は、出生率の低下は「人類存続の危機である」と警告し、話題を呼んだ。新たな研究によれば、この脅威はマスク氏の警告よりさらに深刻かもしれない。人口が長期的に増減することなく一定に保たれる水準(人口置換水準〔replacement level fertility;RLF〕)はこれまで女性1人当たり2.1人と考えられていたが、新たな研究で、それよりも高い2.7人であることが示唆された。フィリピン大学ロスバニョス校のDiane Carmeliza Cuaresma氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS One」に4月30日掲載された。
Cuaresma氏は、「人口の持続可能性を確保するには、標準的なRLFよりも高い出生率が必要だ」と話す。上述のように、現状では、RLFは2.1とされているが、研究グループによると、G7加盟国の出生率は、イタリア1.29、日本1.30、カナダ1.47、ドイツ1.53、英国1.57、米国1.66、フランス1.79であり、いずれの国も2.1を大きく下回っているという。また、出生率が最も低いのは韓国(0.87)であることや、出生率がRLFを下回ったままである場合、日本の人口は世代ごとに31%ずつ減少すると予測されていることも付け加えている。
ただし研究グループは、この2.1という数字は低い死亡率や出生時の性比が1対1であることを前提に算出されたものであり、個体のランダムな出生や死亡などにより生じる偶然の変動(人口学的確率性)を考慮していないと指摘している。人口学的確率性は、特に小規模集団では影響が極めて大きく、絶滅の要因となることもあるという。このことを踏まえて研究グループは今回、人口学的確率性や性別特異的死亡率を考慮した上で、生殖可能年齢の女性の出生率に関する絶滅の閾値を検討した。具体的には、出産する女性の割合、出生時の性比、生殖年齢前の死亡率などの要素が考慮された。
その結果、人類の存続に必要なRLFは約2.7であり、従来考えられていた2.1よりはるかに高いことが明らかになった。また、男児よりも女児の出生数の方が多くなると、絶滅の閾値は2.7よりも低くなることも示された。
こうした結果から研究グループは、戦争や飢饉、疫病などの過酷な状況下では男児よりも女児の方が多く生まれる傾向が観察されているが、この現象は、本研究結果により説明できる可能性があると主張する。
研究グループは、「ほとんどの先進国は人口が多いため、絶滅は差し迫った問題ではない」と話す。ただし、ほとんどの家系は子孫が途絶えることを示唆する結果ではあると指摘し、「今回の結果は、個人の視点で見ると重大な意味合いを持つ。ほぼ全ての人の家系は途絶える運命にあり、ごく少数の例外のみが何世代にもわたって生き残る可能性がある」と述べている。
さらに研究グループは、「言語もまた消滅の危機に瀕している。世界には6,700以上の言語があるが、そのうち少なくとも40%が今後100年以内に消滅する可能性がある。言語の消滅は、文化、芸術、音楽、口承伝統の消滅につながる」と話している。(HealthDay News 2025年5月1日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0322174&utm_source=pr&utm_medium=email&utm_campaign=plos006
構成/DIME編集部
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