
春から初夏、そして晩秋から初冬にかけて、街に、観光地にオープンカーが続々と出現している。幌を開けてオープンエアーのドライブを楽しむのに最適な季節だからだ。が、青空駐車などの駐車場事情、幌の耐久性やイタズラの心配、紫外線や髪の乱れが気になる・・・といった理由で、ソフトトップのオープンカーを諦めている人もいるはずだ(最新のソフトトップは耐久性、防音性にも優れているが)。
オープンカーが欲しくても幌に対して抵抗がある人におすすめなのが…
そんな人にお薦めしたいのが、サンルーフやリトラクタブルルーフ装着車だ。かつては大人気だったサンルーフは、今では限られた車種にしか用意されていないのが現状ではあるものの、車内を明るく、開放的にしてくれて、季節、空を感じられ、雨の日にはレインドロップがいい雰囲気を醸し出してくれる主にオプションとなる装備である。そしてガラス製(またはハードルーフ)であることから、幌とは違い、経年劣化による破れ、雨漏りの心配はなく、普通のルーフのように扱えるため、青空駐車でもまったく問題のない、繰り返すけれど、車内を明るく、開放的にしてくれて、季節、空を感じられるクルマ、車内空間を実現してくれるのである。
ここではそんなサンルーフの変わり種新旧を紹介したい。
国産車初のTバールーフはS130型2代目フェアレディZに採用された
まずは1978年に登場した2代目日産フェアレディZに採用された、国内初採用のTバールーフである。筆者は1977年に公開されたバート・レイノルズ主演のアメリカ映画「トランザム7000」に影響され、1981年型のフェアレディ280ZのTバールーフを購入した経験があるのだが、Tバーと呼ばれるように、ルーフ左右のガラスルーフを脱着することでT字にルーフが残り、オープンカーへと変身する装備であった(4代目まで採用。4代目ではフルオープンのコンバーチブルも登場)。当時は青空駐車だったのだが、ドライブデートに大活躍してくれて、3年間の保有期間、Tバールーフにまつわるトラブル(雨漏りなど)など皆無だった。
ミニバンにも6分割のシェード付きガラスルーフ仕様車があった
2005年に登場した3代目ホンダ・ステップワゴンにも特徴的なガラスルーフがオプション設定されていた。それが、トップライトルーフと呼ばれた、1-3列目席頭上中央部分に設けられ、ルーフのほぼ1/2の面積に及ぶ、長さ1680mm×幅500mmものガラスルーフである。ただし、シェード付きガラスルーフながら、6分割の白色曇りガラスでできていて、つまり、障子のような採光にとどまり、空は見えない。それには理由があり、特徴的なフローリングフロアの用意とともに、車内のリビング感覚を高めるための明かり取りの役目を果たしていたのである。とはいえ、6分割のガラスルーフそれぞれにシェードがあり(手動)、好みのトップライトルーフだけを開けることができ、車内に明るさを取り入れても眩しくなく、UVカット機能も持ち合わせるのだから、車内のリビング感覚を強めたい人にとってはなかなかの装備と言っていい。
サンルーフとは呼べないものの解放感溢れるシトロエンのゼニスウインドー
クルマ造りからしてかつてはアバンギャルドで個性に溢れていたのが、フランスのシトロエン。その2009年に登場した2代目C3には、ゼニス(頂上の意味)ウインドゥと呼ばれる、ルーフへと一体となったガラスルーフ風のフロントウインドーが大きな特徴だった(ルーフ部分にはシェードが備わる)。
パノラミックな前方&頭上視界によって解放感が得られるわけだが、前席乗員の頭が熱くなるんじゃない?と思えるものの、一般的な自動車用ガラスに対して熱伝導率1/5、紫外線透過率1/12のガラスが使用されているのだからあまり心配はいらない。もっとも、フランス車はエアコンの効きが国産車やドイツ車ほどではなく、真夏のドライブで頭上のスライド式シェードを開けたまま走ると、けっこう暑かった記憶がある。もちろん、シェードを閉めれば問題なしだ。カフェでも外のテラス席を好むフランス人が歓びそうな仕立てと言えるのが、ゼニスウインドーだろう。もっとも、3代目、現行型の4代目にゼニスウインドーは採用されていない。
と、ここまでは、今では新車で手に入らない変わり種のサンルーフ、ガラスルーフを備えたクルマを紹介してきたが、ここからは今でも新車で買える変わり種のサンルーフ、ガラスルーフ、オープントップを用意したクルマを紹介しよう。
マツダ・ロードスターにはリトラクタブルルーフ仕様がある
初代ユーノスロードスター、マツダ・ロードスターと言えば、ライトウェイトオープン2シーターモデルとして今でも世界中で人気の車種だが、基本は幌によるオープンモデルだ。しかし2016年に加わったマツダ・ロードスターRFはRF=リトラクタブルファストバックを意味し、電動格納式で”幌ではない”ハードなルーフをスイッチひとつで開閉することができるモデル。
その開閉作業は僅か13秒である。ロードスターには乗りたいけれど、駐車環境などで幌付きのクルマは心配・・・という人にうってつけのライトウェイトオープンスポーツカーと言っていいだろう。その気持ち良さは標準型ロードスターと大きく変わるところはなく、四季、梅雨のある日本ではより所有しやすく、楽しみやすいロードスターと言えるかも知れない。
ボイスコントロールでもルーフが変幻自在する調光パノラマルーフ
まずは2020年に登場した4代目トヨタ・ハリアーのシェード付き調光パノラマルーフだ。通常は、ダークガラスのように、遮光してくれているのだが(電動シェードも付く)、例えばボイスコントロールで「空が見たい」と発声すれば、瞬時に調光機能が働き、空が見えるガラスルーフになるのだから素晴らしい。なんでも、建材用の調光ガラスにヒントを得たそうで、新型ハリアーの先進性を強く実感させてくれる装備であり、Zグレードにのみ19万8000円!! のオプションとなる。
軽自動車に全車ガラスルーフ標準装備のモデルがある
最後に紹介するのは、なんと軽自動車のガラスルーフ付きモデル、それもオプションではなく、全車に開閉は出来ないものの、晴れていれば青空が運転視界に入る大面積スカイフィールトップが標準装備されているダイハツ・タフトである。
大面積ガラスルーフゆえに、後席に座っている人もスカイフィールトップの恩恵が受けられ、前後席ともになんとも気持ちよく解放感あるドライブを楽しませてくれるのだ。
ちなみに、何も全車に標準装備しなくてもいいのでは?という疑問も湧くが、タフトはスカイフィールトップありきで開発され、ありとなし(オプション)の設定にしてしまうと、ボディを2種類作らなければならず、単純に、開発・生産のコスト増を避けたかったのが、全車に標準装備した理由である。
というわけで、1980年代から現在に至る、変わり種サンルーフ、ガラスルーフを紹介してきたが、幌付きのフルオープンモデルのような風を感じられる解放感、気持ち良さこそ得られないものの、青空、星空、雨の情緒を標準装備!?したクルマであり、ドライブの楽しみを一層、広げてくれること間違いなしである。
この記事を書いていて思い出したのは、筆者がS130型フェアレディ280Z Tバールーフを所有していた1984年にハワイを訪れ、Z31系3代目フェアレディZ Tバールーフをオアフ島で乗り回していたこと。ハワイでオープンモデルを走らせた気持ち良さは、クルマ人生の中で今でも忘れられない思い出となっている。
もちろん、屋根付きガレージの持ち主なら、幌のフルオーブンモデルに躊躇する理由は、まったくない。
文/青山尚暉