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「スゴい!」という感動を求めすぎるのは危険!?陰謀論が生まれる意外なメカニズム

2025.05.15

 何か“スゴイもの”が見られるという期待を胸に多くの人々が万博を訪れているが、実際に“スゴイ体験”ができたとすれば実に有意義で幸運な訪問になるだろう。人生を豊かにする“スゴイ!”の数々だが、著名な心理学者によれば“スゴイ!”を求めすぎることには慎重であるべきだという――。

人はなぜ“スゴイ!”という感動を求めるのか

 1970年の大阪万博の展示の目玉であった「月の石」は今回の大阪・関西万博でも展示されているということで、「月の石」は引き続き万博で見られる“スゴイもの”ということになるだろう。

“スゴイもの”を見たり、“スゴイ体験”することは日々の生活を充実させ、人生を意義深いものに変えてくれるだけに、なるべく多くの“スゴイ!”を味わいたいと思うのは自然な欲求であるともいえる。

 特に気分が落ち込んでいたり、自分を取り巻く状況に停滞感がある時ほど、士気の高揚や「景気づけ」のために何か“スゴイ!”物事を求めたくなるかもしれない。この時の“スゴイ!”は今の状況がまだまだ捨てたものではないのだという意義をもたらし、自分の価値を高め、プライドを高く保つことにも繋がる。今話題の「月の石」をこの目で直接見ることができれば、少しは気分が高揚し、自己肯定感を高めることもできるのだろう。

 それにしても今日の世の中は物価高やインフレを伴う世界的な景気低迷に加え、ウクライナ情勢をはじめとする戦火や、金融市場の乱高下、さらに地球温暖化や環境汚染、食糧不安、健康への懸念など何かとネガティブな要素が目立つ。こうした状況が現代社会を“不確実性”に満ちたものにしているとも言える。

 一説によれば、こうした不確実性に満ちた状況の中で我々を飲み込もうと大きく口を拡げているのが“陰謀論”であるという。

“スゴイ!”を求める者に待ち受ける“陰謀論”!?

 著名な社会心理学者であるアリー・クルグランスキー氏とジャーナリストのダン・ラビブ氏は、心理学的研究を広範囲に検討した新著『The Quest for Significance』の中で、重要性や意義、あるいは“スゴイ!”への欲求が、どのように我々の行動を促し、感情を左右し、思考を支配するのかを説明している。

 クルグランスキー氏らによると、現代人は単に社会の不確実性に悩まされているばかりではなく、「不確実性が暗示する意義の喪失」の問題に晒されているのだという。

 たとえば確実性の高い社会であれば現在の資産形成がより確実に見込めてくるが、不確実性が高まればむしろリスクにもなり得る。社会の不確実性が最悪の場合は資産形成をする“意義”を喪失させることにもなるのだ。

「世界中の人々が経験している存在意義の喪失は、彼らを特定の種類の物語の影響を受けやすくしています」と彼らは説明する。

 その「特定の種類の物語」とは世にはびこっている“陰謀論”である。不確実性によって意味が消失した世界の中で、意味や意義、重要性や“スゴイ!”を求めようとすれば、“陰謀論”に飲み込まれる可能性が高まるということだ。

“陰謀論”は人々に自分は重要で特別な存在であると感じさせ、より良い未来への希望を与えることが多いため、“スゴイ!”を強く求める人々からは真剣に受け止められる傾向があるという。

 著者らは、特に人生のネガティブな状況によって自分たちの存在意義が低下していると感じられている時に、人々は自尊心と自己肯定感を高める物語、すなわち“陰謀論”の影響を受けやすくなると指摘している。

 現在の不確実性に満ちた社会状況は“陰謀論”がはびこる条件が揃ってしまっているともいえる。では“陰謀論”に飲み込まれないためにはどうすればよいのか。

“陰謀論”の罠に陥らないためには?

 不確実性の高い状況下にあって意義と重要性、そして“スゴイ!”を実感することができれば心の安定を得られるともいえるが、そこには“陰謀論”の落とし穴もある。 

 クルグランスキー氏らは、何が我々を動かしているのかを学ぶべきであると説明する。ほとんどの人が信念どころか、日常的な意思決定の源にさえ気づいていないということだ。

 認知的完結欲求(cognitive need for closure)は、曖昧さを嫌い、問題に対して明確な答えを求めてより早急に決断をしたいという欲求のことで、クルグランスキー氏は認知的完結欲求が高い人の特徴として「曖昧さを嫌う」、「頑固」、「秩序を好む」などを列挙している。

 この認知的完結欲求もまた“陰謀論”とすこぶる相性が良いことが示唆されている。

 ということは逆に認知的完結欲求を緩めることが“陰謀論”の罠に陥らないための鍵でもあるのだろう。つまり「曖昧さを許容する」、「考えを柔軟にする」、「無秩序を許容する」といった態度となる。

何が自分を動かしているのか“汝自身を知れ”

 著者らは“陰謀論”を含む有害な意義の追求から身を守るために、我々を動かしているものがお金、愛、価値観、あるいはほかの野心であるのかをその都度確認することが重要であるという。

「もし、自分にとってどれだけ重要な意味があるのか、自分の尊厳への挑戦にどれだけ強く反応するのか、他人に『見下される』とどれだけ気分が悪くなるのか、そして何が自分の羨望や共感、賞賛を呼び起こすのかを何らかの方法で定量化できれば、人生をよりうまく生きていくためのガイドラインを特定できるかもしれません」と彼らは説明する。

「『汝自身を知れ』というこの部分は、どのような状況が有益で、どの状況を避けるべきか、どの招待を受け入れ、どの招待を断るべきか、どの友人を選び、どの友人を避けるべきか、どの目標に取り組むべきか、どの目標を拒否すべきか、あなたに示唆を与えてくれるかもしれません」(同書より)

 不確実性が高まった混迷の時代にあって、意義が希薄となり、無秩序が広がり、自己肯定感が下がり、“スゴイ!”が味わえなくとも、性急な判断を下すことなく自分を動かしているものを知り、“曖昧さに耐える”ことが今を生きるポイントだと言えそうだ。

文/仲田しんじ

※書籍紹介
https://www.taylorfrancis.com/books/mono/10.4324/9781003410706/quest-significance-arie-kruglanski-dan-raviv

※参考記事
https://neurosciencenews.com/conspiracy-significance-psychology-28716/

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