
掛け声とともに繰り出される大技、沸き立つ観客たち──プロレスの醍醐味といえるワンシーンだが、いつもと違うのは、戦っているリングが走行する新幹線の車両内ということだ。
今後の新たなエンタメの形として定着するか?
2025年2月、女子プロレス初となる新幹線車両内でのイベントが開催された。チケットは販売開始後わずか2時間半で完売という盛況ぶり。主催するCyberFightの常務執行役員・高橋晃さんは「北海道から来たファンもいました」と話す。
リングと観客席の境界がない新幹線では、乗客とレスラーが一体となってイベントを作り上げる。
「新幹線でプロレスを楽しむという、日常ではありえないシチュエーションを共有することで、ある種の〝共犯関係〟のような一体感が生まれます。制約の中、どこまで攻めたパフォーマンスができるのかというスリルも好評でした」(高橋さん)
車両を提供したJR東海も、この取り組みに前向きだ。
「本イベントはJR東海さんの新幹線車両貸し切りサービス『貸切車両パッケージ』の一環なのですが、その代表事例と捉えていただいています」(高橋さん)
近年、公共交通を活用したエンタメが増加傾向だ。2017年からサービスを展開するライブバスはコロナ禍以降好調で、週末は常に予約が埋まっている。S.RIDEが24年10月に期間限定で実施した、タクシーを利用したホラーツアー『都市伝説タクシー』も予約倍率が2倍を超えた。
背景にあるのは、移動時間を楽しみに変えるという発想だ。
「従来の移動手段としての役割のみだと、人口減の中ではいずれ収益も減ります。だからこそ、移動という可処分時間をいかに楽しんでもらうかという方向で各社の差別化が進んでいます」(高橋さん)
こうした興行スタイルはインバウンド需要にもつながる可能性があり、今後の新たなエンタメの形として定着するかもしれない。
新幹線 × プロレス
70席が2時間半で完売!新幹線「のぞみ」で繰り広げられた激戦
戦いの舞台は最高時速285kmを誇る、東京発新大阪行き「のぞみ」の車内。試合はアジャコングさんら8人の選手による「エニウェアフォール8人タッグマッチ」形式で行なわれた。43分にわたる戦いの末、山下実優さんが「クラッシュ・ラビットヒート・のぞみスペシャル」でアジャコングチームに勝利した。
鈴木みのるさんが車掌に!?試合中、車掌姿の鈴木みのるさんが登場するサプライズも。コンサートや写真撮影もあり、イベントは大盛況だった。
バス × ライブ
推しのパフォーマンスを移動しながら楽しめる!
ライブバスは2017年からサービスを開始し、主に渋谷エリアを周回する。「車内でライブを楽しめるのはもちろん、スピーカーで車外にも音を届けられます。ライブバスがきっかけでファンになる事例も多く、高いPR効果が期待できます」(フレッサ 岡部慧斗さん)
タクシー × ホラー
密閉空間と先進技術を活用した演出で恐怖度MAX!
東京駅で専用タクシーに乗り、都内の都市伝説スポットを巡る。「立体映像や立体音響に加え、現実と仮想世界の音が混ざるソニーの先進技術『ロケトーン』による、専用アプリとイヤホンを使ったリアルな恐怖体験が味わえます」(S.RIDE 松井浩紀さん)
※立体映像体験のイメージ。ロケトーンは車外パートで体験可能。
取材・文/桑元康平=すいのこ 編集/千葉康永