
子どもにとって、自分を好きになるツールは案外少ない。しかし、メイクはポジティブな感情や自信につながる情緒的価値をもたらしてくれる。
幼い頃の親子のメイクアップ体験や会話があれば、成長しても化粧を義務と感じることなく、一生涯、楽しく化粧ができるかもしれない。そんな願いを込めた親子のメイクアップ体験イベントが4月28日に都内で行われた。
「眉」にファーストメイクのスポットを当てる理由
5月5日の子どもの日にちなんで、総合化粧品メーカー伊勢半(東京都千代田区)が “ファーストコスメは眉マスカラ”をテーマとした『こどもの日 眉メイク体験イベント』を開催した。
キスミーブランドを展開する同社は今年で創業200年の節目を迎え、新たに制定した企業理念には「The 1st Cosmetics.」という言葉が入っている。
今回のイベントの開催も、親から子へ、メイクのファーストステップをプレゼントするのが目的のひとつで、社内初となる親子メイクアップ体験は、眉メイク専門ブランド「キスミー ヘビーローテーション」を使った、初めての眉メイクとなった。今回参加したのは総勢33名の親子で、メイクアップ後はプロによる写真撮影が行われた。
親子メイクアップ体験でなぜ眉メイクを選択したのか。もともと同社では都内の中学校や高校をはじめ各地の学生を対象にした「眉毛ホームルーム」という課外授業を実施していること。そして、眉は顔の印象を左右し、眉によって相手に与える印象を変えたり、個性を引き立てることができること。また、子どもを対象にしたアンケート結果によると、メイクしてみたいと思う顔のパーツは「目元と眉」だった点を挙げた。
また、子どもの肌は大人に比べて敏感で、肌に与える負担も懸念されている。眉毛は肌に直接触れずに色を乗せることができる。
今回、使用した眉メイク専門ブランド「キスミー ヘビーローテーション」は、専用のクレンジングが不要で、お湯で洗顔するだけで落ちる点も、ファーストステップとして最適なメイクアップ用品だ。
イベントでは、プロのメイクアップアーティストの藤川直樹さんから「お子さんの一番魅力的な個性は何かを一番良く知っているのが親御さんたちだと思います。元気な子、賢さ、優しさなど、いろいろあるお子さんの素敵な魅力を、最大限に引き出せるような眉にしてあげてください」とアドバイスしていた。
メイクの低年齢化が止まらない
実際、キッズメイクはいつ頃、どんなきっかけでスタートするのか。
総合マーケティングリサーチの日本インフォメーション(東京都中央区)が今年2月に行ったインターネットリサーチ「α世代の美容・メイクに関するアンケート調査」によると、現在メイクをしている小学校低学年の68.4%が 幼児後期(4歳~6歳)」でメイクを始めたと回答している。(全国の小学1年生~中学2年生 女子976名が対象。小学1~6年生は母親の代理回答、中学1~2年生は本人回答)。
また、メイクを始めたきっかけについては、幼児期からメイクを始めた人は「家族がメイクをしていたから」が60.7%で最も多く、特に親の影響は大きかった。
また、小学生以降から始めた人は共通して「SNSでメイクの投稿を見て興味を持った」の回答が最も多く、さらに小学校高学年から始めた人は「友達や周りの人がメイクをしていた」が52.8%だった。
中学生からメイクを始めた人は「外見に自信を持ちたいと思ったから」という意識が56.8%で多めだった。
現状では、すでに小学校低学年の約8割がすでにメイクや化粧品に興味があり、小中学生の53%はすでに普段からメイクをしていたのである。
一方、α世代の親はどのように感じているのか。年齢別では「メイクをするのはまだ早いと思う」の選択率は年齢が上がるにつれて高くなり、一方で「本人の意思を尊重する」の選択率は年齢が下がるにつれて高くなっている。
つまり、若い親ほど子どもが幼いうちからメイクをすることに対して抵抗が少ない。今後、親になる世代が若い世代に移行するにつれて、メイクを始める年齢がさらに早まる可能性は高い。
ブランドとして、子どもにも成人女性と同じメイクアイテムを提案
こうした状況に対して、伊勢半ではブランドとして低年齢メイクをターゲットにする際に、発信内容などで気をつけていることは、「大人も子どもも区別しない商品提案」だった。
コミュニケーション本部 広報宣伝部 部長 松本智子さんによると、今回、イベントでも使用した眉メイク専門ブランド「キスミー ヘビーローテーション」は子どもだけでなく成人男性にも購入しやすいパッケージデザインを採用していると言う。
「お子さんであってもメイクに関しては成人女性と同じものを使いたいという意識があります。また、パッケージは女性の目と眉の写真が入っていますが、シンプルで、女性向けであっても男性でも手に取っていただけるようなデザインです」と教えてくれた。キッズでも、成人女性と同じ商品を使いたいのである。
実際、昨年6月、ニフティ(東京都新宿区)が運営する子ども向けサイト「ニフティキッズ」でコスメに関するアンケート調査を実施したところ、メイクをしたことがある子どもに聞いた「一番お気に入りのリップは何?」の回答の6位がディオール、10位がシャネルだった。
アンケートでは一位に韓国コスメのロムアンドが入っている。ちょっと頑張れば、お小遣いでも買えるメイクアップ用品で、SNSでの口コミで火が付いた。特に若い女性にターゲットを絞ったカラーバリエーションに定評がある。
キスミーブランドでも、子ども向け商品展開では韓国コスメもベンチマークの一つであると教えてくれた。
メイクの本質を理解する機会に
「伊勢半は今年、創業200年を迎えますが、新しい美しさを、誰よりも先に手にする喜びを提供すること、そして『すべての人の一番になる感動のある化粧品』をパーパスとしています。小中高生のお小遣いでも買える価格帯で、さらにドラッグストアなど入りやすいお店で買える商品、一番欲しい商品であり、一番好きなブランドにしていきたいと考えています。
特にキッズへの発信では、ルッキズムへつながるようなメイクには気を付けています。消費を促すのではなく、キスミーブランドの“私らしさを愛せる人へ”という理念を理解していただこうと考えています。
今回のイベントは親子での参加です。社会人になると、どうしても身だしなみやマナーとしてのメイクになってしまうことが多いのですが、本来、メイクは楽しいことであったということを、親御さんたちには思い出していただけるきっかけになったら良いなと思います。私どもは親子に寄り添うブランドでありたい、と願っています」(松本さん)
メイクの低年齢化は今後も進行していく。それに対応して、キスミーブランドでもアイテムを強化し、眉マスカラは色展開を絶えず見直している。さらに前髪やくせ毛など狙った箇所をロックするヘアスタイリングマスカラ「鉄壁 前髪マスカラ」を新発売した。前髪が自然にまとまる、まとめ髪特化型マスカラで、数量限定だが順調に売り上げを伸ばしている。
今回のイベントで、伊勢半はメイクを使った親子の新たなコミュニケーションの機会を提供し、メイクの情緒的価値を改めて認識させてくれた。
親にとっても子どもにとっても、特別な体験だったはず。イベント会場には男の子も多く、真剣な表情でリップをつけていた。
日本インフォメーション、インターネットリサーチ「α世代の美容・メイクに関するアンケート調査」
ニフティ、ニフティキッズ「コスメについての調査」
取材・文/柿川鮎子