
メルセデス・ベンツの「Eクラス」は、1946年に発表されたW136型以来、常に時代に先駆けて革新的な技術やスタイリングを試みてきた歴史がある。2024年1月に導入された新型は、パワーユニットを全てのモデルでマイルドハイブリッド、プラグインハイブリッドなど電動化している。その「Eクラス」のAMG版E53に、外部充電ができるプラグインモデルが加わった。
メルセデスAMGが手がけたプラグインモデルはまだ試乗したことがなかったが、2024年12月に発表されたAMGのプラグインモデルの試乗車が準備できたということで早速乗ってみた。
AMGのプラグインモデルは、エンジンが直列6気筒、3.0Lガソリンターボにモーターとリチウムイオン電池が組み合わされている。直6エンジンはターボのブースト圧を1.5barまで高め、ソフトウェアを新しくプログラミングし、冷却装置を追加することで、449PS、560Nmを発揮する。モーターはトランスミッションに統合された永久磁石同期モーターで、163PS、480Nmを発生する。
走行性能では、電池のみで一般走行に徹すれば、100%充電状態で航続可能距離は約101km。同時に発表された「E35」のステーションワゴンはセダンより航続距離はわずかに短く97kmと発表されている。試乗車は100%充電状態で走行可能距離77kmと表示されていた。この表示は私の前に試乗した人の走りに左右されるので、距離より%を気にして乗っている。
充電について、セダンは200Vと急速充電が可能だが、ステーションワゴンは200Vの充電口は装備されているが、セダンではボディ側面に設けられていた急速充電(CHAdeMO)用の充電口は装備されていなかった。元々、メルセデスAMGの生まれ故郷ドイツでのプラグインの使い方は、自宅で200V充電をしてEV走行で出勤する。オフィスにも200Vの充電機があり、そこで充電をしてから夕方に仕事を終えるまで充電する。帰りは再びEVで帰り、夜は自宅で充電する。という使い方をするのが、標準的な使い方。だから急速充電は必要ないわけだ。
ところが日本ではプラグインも急速充電するユーザーが多い。なるべくガソリンを使わずに走ろうということで急速充電を装備したのだろう。だが、プラグインの使い方としては邪道だ。EVモードで走り、充電が不足してきたらガソリンエンジンも使うか、目的地でEV走行をするのなら、途中の行程では「Battery Hold」で、電池の消耗を抑えるという手もある。残念だが走行中にエンジンや回生を使い強力に充電するという仕組みは設けられていない。
モーターだけで走る「Electric」を選択し、走り出す。スタートからの動きは大人しい。少し強めにアクセルペダルを踏みこんでも、高出力/大トルクEVのように、頭を後ろに持っていかれるような、頭の血が引くような加速はしない。でも、そのような動きは感じさせないのだが、0→100km/hの加速は4秒台を何事もなかったかのようにたたき出す。
運転をしている人は、何気なくアクセルを踏んでいるのだが、周囲の景色は凄い勢いで後方に移動しているのだ。ドライビングモードはハンドルのT字スポークつけ根右にあるダイヤルで選択する。ポジションはi/B/EL/e S/S+の6ポジション。さらに左には「Dynamic SELECT」用のダイヤルがある。こちらは「Comfort」「Sport」「Sport+」が基本だが、プラグインモデルには「Electric」「Battery Hold」モードが追加されている。アクセルレスポンスやシフトモードだけでなく、ハンドル、サスペンション、排気音などの特性を一括して変更できるモードだ。
「Comfort」モードでスタートする。乗り心地は低・中速域ではゴツゴツ感があるものの、高速になるほどフラットになる。ハンドルは常に重めの操舵力を保っている。「Sport」や「Sport+」ではさらにこの傾向は強くなる。「Eクラス」のセダン、プラグインハイブリッドとはいえ、AMGが手がけるクルマはひと筋縄ではいかない手強さがあるのだ。
ワインディングロードはアクセルペダルとタイムラグのない加速とリニアに切りこむフロントタイヤの動きが、この2.5tもある4ドアセダンをスポーツカーのように走らせる。この時に頼もしいのがブレーキだ。AMG強化ブレーキは、フロントに6ピストンの固定キャリパー+390mm×36mmのベンチレーテッドディスクとリアには1ピストンのフローティングキャリパーに360mm×26mmのベンチレーテッドディスクを装着。車体の重さを感じさせないストッピングパワーを体感させてくれるので、コーナー手前での減速も心強い。
さらにボディもストラットタワーバーやストラットフィールドが縦、横方向のねじれを抑え、リアアクスルも追加ストラットが安定走行を楽しませてくれる。平日はショッピングの足として使い、燃料補給も不用のEV走行も活用。休日はオーナー自らが直6、3.0Lターボを働かせながらのスポーツ走行。まさに1台2役。理想のファミリーカーというのは、このようなクルマのことを指すのかもしれない。
• 関連情報
https://www.mercedes-benz.co.jp/passengercars/models/saloon/e-class/amg.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博