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防衛医大や九州大の研究グループがワイヤレスで駆動する有機ELによる新しい光がん治療技術を開発

2025.05.09PR

防衛医科大学校の板﨑 勇二郎医師、守本 祐司教授、辻本 広紀教授は、九州大学の藤田 克彦准教授、プレアデステクノロジーズの坂上 恵博士らの研究グループと共同で、深部臓器がんに対して体内埋め込み型ワイヤレスOLEDデバイスを用いたメトロノミック光線力学療(mPDT)技術を開発した。

新技術の概要について

この新技術は、光増感剤を投与し、極めて微弱な光(<1 mW/平方cm)を数日間にわたり腫瘍に照射することで、熱損傷のリスクを回避しながらがん細胞の持続的な死滅を誘導する。

ラットの肝臓がんモデルにおいて、光増感剤の繰り返し投与と組み合わせたmPDTにより、がんの大幅な縮小および完全消失が観察された。特に赤色発光OLEDを使用することで、腫瘍の深部および周辺部まで効果が拡大されることが確認されている。

本技術は、深部臓器がんに対する次世代PDTの確立に向けた重要な一歩となる。

新しい光がん治療の概念図

本研究は、科学研究費助成事業(科研費)、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム A-STEP、福田記念医療技術振興財団、上原記念生命科学財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団、武田科学振興財団、立石科学技術振興財団、ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団の支援を受けて行なわれた。

防衛医科大学校医学研究科の恒成 崇純医師、杉原 崇生医師、京都大学の桐野 泉医師、合同会社プレアデステクノロジーズの江口 和弘氏、宮園 豊氏、熊本県産業技術センターの山口 良一氏、株式会社日本触媒の桑田 健二氏、小林 直記氏、呉屋 剛氏、森井 克行氏らと共同で行なったものだ。

本研究成果は、2025年4月30日に米国科学誌「APL Bioengineering」に公開された(Open Access)。同時に、AIP Publishing(アメリカ物理学協会出版局)が発行する論文の中から注目論文として選出され、記事としても公開された。

■発表のポイント

・光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)[注1]の一手法であるメトロノミックPDT(mPDT)[注2]において、深部臓器がんを対象とした完全埋め込み型ワイヤレス有機EL(OLED)[注3]デバイスを開発した。
・超薄かつ柔軟性のあるOLEDと無線給電技術を組み合わせ、体内での安定的かつ均一な光照射を長時間実現した。
・正常組織への熱損傷や免疫反応を抑えながら、光増感剤を繰り返し投与することで治療効果の大幅な向上を確認した。
・深部臓器がんに対する新たな低侵襲治療法として、今後の臨床応用が期待される。

研究の背景と経緯

光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)[注1]は、光増感剤(光感受性物質)[注4]を標的の組織に集積させ、外部から光を照射することで活性酸素を発生させ、がん細胞を選択的に死滅させる治療法だ。

近年では、極めて低強度の光を長時間照射するメトロノミックPDT(mPDT)[注2]という手法が提案され、がんに対する新たな低侵襲治療法として注目を集めている。

しかしながら、mPDTを深部臓器のがんに適用するためには、腫瘍全体にわたる均一な光照射や、体内での安定した光出力の維持、熱損傷や免疫反応の回避といった技術的な課題を克服する必要があった。

特に、従来の光源(レーザー)では小型化や柔軟性に限界があり、体内への完全な埋め込みや深部臓器への応用は困難とされていた。

■研究の内容

本研究では、深部臓器に発生したがんに対して、安定的かつ均一に光を照射できる完全埋め込み型の光治療デバイスが新たに開発された。

本デバイスは、厚さ0.1mmの有機EL(OLED)[注3]素子を搭載しており、直径8mmの発光面から緑色または赤色の光を照射することが可能。無線給電技術の組み合わせにより、動物が自由に動く状況でも一定の光強度を維持した連続照射を実現している(図1)。

ラットの肝がんモデルを用いた実験では、本デバイスを腫瘍表面に留置し、光増感剤であるテモポルフィンを投与したうえで、最大4日間にわたる連続照射が行なわれた。

その結果、腫瘍の著明な縮退および組織壊死が観察され、とくに光増感剤を2回投与した条件では、腫瘍体積が対照群の14%までに減少した(図2)。

さらに、赤色OLEDは緑色OLEDに比べてより深部まで光が到達し、腫瘍の垂直方向および水平方向の広い範囲において、優れた治療効果を示した。

安全性評価においては、体重の変化や肝酵素(肝臓障害の指標)の上昇は認められず、有意な副作用は確認されなかった。また、生体適合性を高めるためにパリレンCでデバイスをコーティングしたことで、免疫反応に伴う線維性被膜の形成も最小限に抑制された。

注1. 光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)
光線力学療法(PDT)は、がん細胞などに選択的に集積する光増感剤[注4]を体内に投与し、その組織に特定の波長の光を照射することで、活性酸素を発生させて細胞死を誘導する治療法。がん組織を狙い撃ちできるため、正常組織へのダメージが少なく、低侵襲な治療法として注目されている。日本では肺がん、食道がん、脳腫瘍などで臨床応用されている。

注2. メトロノミックPDT
メトロノミックPDT(mPDT)は、従来のPDTに比べて極めて低強度(<1 mW/平方cm)の光を長時間にわたり照射する新しい光線力学療法の手法。弱い光で持続的に治療を行なうことで、熱損傷のリスクを低減しながら腫瘍の成長を抑制できるとされ、深部臓器がんへの応用が期待されている。デバイスの小型化や埋め込みが可能になることで、従来困難であった体内深部での連続光照射が実現されつつある。

注3. 有機EL(OLED)
有機EL(OLED)は、有機化合物を用いて電流によって発光するデバイスで、スマートフォンやテレビなどのディスプレイ技術として広く知られている。医療応用では、薄くて軽く、柔軟性に富むという特性を活かし、生体組織への密着性や埋め込みやすさに優れた光源デバイスとして注目されている。今回の研究では、体内に埋め込んで腫瘍に対して低強度光を持続的に照射する光治療デバイスとして使用された。

注4. 光増感剤(光感受性物質)
光増感剤(光感受性物質)は、体内に投与された後、がん細胞などの標的組織に選択的に集積し、特定の波長の光を受けると活性酸素を生成する物質だ。この活性酸素が細胞毒性を持ち、腫瘍細胞を死滅させるのが光線力学療法(PDT)の基本原理だ。本邦で臨床使用できる光増感剤としてタラポルフィンナトリウム、ポルフィマーナトリウムがあり、照射する光の波長と相性の良い発光デバイスの開発が重要になる。

関連情報
https://www.atpress.ne.jp/news/435171

構成/清水眞希

 

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