
英国のプレミアムブランドMINIは、2002年からドイツのBMWグループで開発、生産、販売が行われている。それ以前のMINIの伝統的な基幹モデルはハッチバックモデルの3ドア車だった。BMWが「MINI」を開発する時もそれは忠実に守られた。コンパクトで、旧MINI(オールドMINI)のユーザーとは異なる新しいファミリーに、BMW製のMINIは受け入れられた。3ドアが発売され、人気が高まると同時に、後席用にもドアのある5ドアのMINIが欲しい、という声が聞こえるようになった。
おそらく、オールドMINIを生産していた頃にも、こういう声はあったはずだが、MINIの制作者は5ドアMINIを造ることはなかった。その代わりにステーションワゴンを加えたりしたのだ。でもBMWのMINI開発者は、5ドアは売れると判断し、2014年に5ドアMINIをラインナップに加えた。この作戦は見事に当たり、MINIの販売台数は大きく伸びた。
日本でも5ドアの人気は高く、輸入元は3ドアと5ドアの販売台数や比率を明らかにしていないが、2023年実績ではMINIの年間販売台数は17796台(日本輸入自動車組合調べ)。MINIには3/5ドアのほか、コンバーチブル、大型ボディのカントリーマンなどがあるが、すべてMINIの中に入っている。それでも調べてみると3/5ドアは全体の6割、5ドアはその中の7割近くを占めているようなのだ。明らかに3ドアより5ドアのほうが売れている。
ベストセラーモデルのMINI COOPER(2025年モデルからMINI COOPERが正式名称になった)の5ドアモデルのデリバリーが始まった。モデルはMINI COOPER CとMINI COOPER S。Cはエンジンが3気筒、Sは4気筒を搭載している。3ドアにはピュアEVがあるが、5ドアにEVはない。その代わり同じボディだが「ACEMAN」というピュアEVが用意されている。今回はガソリンエンジンの1.5Lと2.0Lの5ドア試乗だ。
1.5Lモデルは「C」。直列3気筒。BMWの新世代モジュール式高効率の「Efficient Dynamies」エンジン。高出力156PS/5000rpm、最大トルク230Nm/1500~4000rpmを発生するガソリンターボエンジンに7速のダブルクラッチトランスミッション(DCT)が組み合わされている。車両重量は1340kg。
MINIのエンジンスタートはインパネ中央に付き出しているキー状のスイッチを右か左に回すことでスターターが作動し、エンジンが目覚める。シフトはコンソールの上にある小さなツマミのようなシフトレバーを上下に動かし、ポジションを決める。D/Lが走行モード。
3気筒1.5Lターボは、3気筒エンジンにありがちなアイドリングでの不快な振動もなく、2000回転あたりからの加速感もリニアな動きで、スポーティな感覚。エンジン音は4000回転でもノイジーではない。7速ATは100km/hの巡航で1600回転あたりなので、静粛性は保たれている。最新のMINIはダッシュボード中央の丸く大径な液晶画面でほとんどすべての操作ができる。
MINIエクスペリエンスモードでは7つの表示パターンが選択できるが、選択はダッシュボードの光の投影などが主目的。走行モードも7パターンあるエクスペリエンスモードの中で、GO-KART、CORE、GREENのモードなので、この3モードを選択しながら走る。
バランスのとれた「CORE」モードで0→100km/hを計測すると、1.5Lエンジンは6000回転までスムーズに上昇し、8秒を切るタイムで走り切った。スポーティな5ドアといえる。乗り心地は硬め。上下動もやや大きく、キツめだ。コーナーではやや重めの操舵力で、ハンドルを切りこんだ時の抵抗は若干発生した。これが「GO-KART」モードになると、乗り心地はさらに硬く、高速走行での上下動は短い振幅で、硬いので乗員は疲れる。ハンドルの切れも全体的に重く手応えがある。
試乗車は、チェコ製のNEXEN「N FERA SPORT」の215/45Rサイズを装着していた。MINI COOPER Sは、直列4気筒2.0Lガソリンターボ、204PS、300Nmを搭載し、7速DCTで前輪を駆動する。ミッションのシフト方式やエクスペリエンスモードの設定は1.5Lモデルと同じ。メーター内のエンジン回転表示も6500回転から7000回転までがレッドゾーンなので共通だ。しかし、加速は0→100km/hを6秒台で走り、エンジンも6700回転まで回るなど、スポーツ度は2.0Lのほうが高い。タイヤもピレリ「チンチュラートP7」の215/40R18サイズを装着していた。
乗り心地は「CORE」モードでは高速での目地や段差では硬めのショックはあるが、タイヤのザラつきやゴツゴツ感はあまり感じなかった。コーナーではやや重めの操舵力で抵抗もやや強めだった。しかし、「GO-KART」モードでは乗り心地は高速ではフラットな舗装路以外では常に上下動と跳ねる動きがあり、コーナーでは直進性が強く、常にハンドルと戦う気持ちが必要だった。
「C」も「S」も乗り心地やハンドリングは5ドアファミリーカーとしては落ち着きに欠けている。3ドアのMINI COOPERは、割り切ってスポーツ志向で乗ることができるが、5ドアはMINI COOPERが大好き、でも3ドアだと家族が…というMINI COOPER好きのファミリー向きのモデルだ。
室内は「C」は前席の調節は手動、「S」は電動になる。前席からの視界は斜め右後ろも含めて、見やすく、死角は少ない。運転しやすい。先進安全装備も充実しているので、ファミリーカーとしての安心度は高い。
後席もドアの開口部はやや狭いが、足元はツマ先が前席下に入るので狭さは感じない。頭上は身長170cmクラスでも文句は出ないだろう。後席背もたれは7:3で分割前倒し、ほぼフラットだが、荷室と座席との段差は約7cmある。サブトランクは深さ約220mmで、ここに小物を収納することはできる。床面はバンパーとフラットな面と、約7cm下の2段式として使える。
5ドアのMINI COOPERはどのようなユーザーに向いているのだろうか。乗り心地は決して良くなく、GO-KARTフィールは味わえる。ファミリーカーとしては乗員全員が快適というわけではない。なので、MINI COOPERというブランドが好きなオーナーが、リアにファミリーを乗せる機会が多いから選ぶクルマだ。年齢的には20~40代のこだわり屋さんにすすめたい。1.5Lターボの「C」は、車両本体価格(消費税込)408万円~と、ドイツのコンパクトカーの中でも安価な設定となっている。
■関連情報
https://www.mini.jp/ja_JP/home/range/mini-cooper-3-door.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博