
ステランティスのMPV3兄弟は性格の異なる3つ子だった。ステランティスグループのMPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)は、プジョーの「リフター」が2019年末、シトロエン「ベルランゴ」が2020年春、フィアット「ドブロ」は2023年、日本に登場した。この3車はスライドドアのトールワゴンで、ホイールベースやパワーユニットは共通のモデル。2024年秋には3車が一斉にマイナーチェンジをしている。そこで、ブランドの異なる3車を比較試乗してみた。ベースが同じだからフロントマスクが違うぐらいで、中味は一緒だろうと思っていたが、3ブランドともに歴史のあるブランドだけに、それぞれの個性はきちんと生かされていることがよくわかった。
デザインの違い
フロントマスクは2024年モデルで3車とも大きく変わった。「リフター」はライオンのロゴ周りをブラックアウトしたブロック型にし、3本の爪のデイタイムライトもブロック状にした。ライト類はハロゲンからLEDに変更され、フロントとリアバンパー下にスキッドプレートが装着されている。
「ベルランゴ」は、ダブルシェブロンのマークが創業時のロゴに近い形状になり、大きく中央に置した。左右のグリルは中央エムブレムから波のように拡がるイメージでヘッドライトに続いている。
「ドブロ」はグリル中央にFIATのロゴを配置、フロントバンパー下にはスキッドプレートを装着している。
リアは各車とも大きなハッチゲートと、開閉可能なウインドウを装備している。「リフター」は大きく「PEUGEOT」の車名とその下にやや小さく「RIFTER」の文字が入っている。
「ベルランゴ」はゲートの左右に小さく車名と社名を配しただけ。
「ドブロ」は中央に大きく「FIAT」、左下に小さく車名が入っている。
スペックの違い
基本的なサイズは2列シート5人乗りと3列シート7人乗りはホイールベース、全長が異なる。全長は「リフター」は5人乗り、7人乗りとも1210mm短い。
全高は「リフター」が最も高く、1855/1875mm、「ベルランゴ」は1830/1850mmとなっている。
「ドブロ」は1825/1845mmで、明らかに「リフター」が高い。これは車体の高さではなく「リフター」が最低地上高を他車より高く設定しているからだ。
パワーユニットの違い
直列4気筒、1.5Lのディーゼルターボ、130PS/4760rpm、300Nm/1750rpmは同じ。だが、運転席に座りメーターをチェックすると、エンジン回転計の表示は「ベルランゴ」は7000回転スケールで5000回転からレッドゾーンだった。
これに対し、「リフター」と「ドブロ」は8000回転スケールで5000回転からレッドゾーンだ。もちろん8速ATのギア比は同じ。
メーターの表示は「ドブロ」が黒字にピンクで表示されているところがユニークだった。
車両重量の違い
同じ骨格とパワーユニットを搭載しているが、重量は各車バラバラ。「リフター」は5人乗り1630kg/7人乗り1700kgでその差は70kg。「ベルランゴ」は1600kg/1660kgでその差60kg、「ドブロ」は1560kg/1660kg、その差100kgで5人乗りではもっとも軽い。
走りの違い
「リフター」からスタート。3車の中では走りを重視している。それもSUVとしての走りだ。だから8速のシフトパネルに装備されているドライブモードスイッチはノーマル/エコ/サンド/マッド/スノーの5ポジションが設定され、選ぶことができる。
オフロード系のモードが3モード装備されているので、最低地上高も他の2車より高くなっている。さらにパネルにはヒルディセントのスイッチも設けられておりオフロード仕様となっている。
装着されているタイヤはグッドイヤーの「エフィシエントグリップ2」の215/60R17。1.5Lのディーゼルターボはアイドリング時は若干、振動とガラガラ音が聞こえていたが、走り出せば気にならない。エンジンは2000~3000回転あたりでトルクの太さが盛り上がり軽快に走る。
8速ATは4000回転まで回すと1速25、2速40、3速65、4速85、5速95km/hに達する。100km/hの巡航は8速2100回転、7速2400回転。高速走行での加速ももたつきはなかった。ハンドリングはやや重めの操舵力で、直進性が強め。コーナーではハンドルを切りこむと同時に、ボディーはクッと傾き、そのままの姿勢でコーナーを抜けていく。背の高いMPVにしては、スポーツライクな走りを楽しませてくれる。フランスの田舎道を飛ばしている姿(たぶんMT車)が目に浮かぶ。全開加速では5500回転まで上昇して、シフトアップ。0→100km/hの加速は11秒台。高回転時の音の侵入は少なかった。
「ベルランゴ」は、2000回転あたりからエンジン音のうなりが少し高まり、レスポンスも良くなる。そのまま加速を続けると5000回転でシフトアップし、加速を続ける。8速ATの各ギアでの最高速や100km/h巡航時のエンジン回転数はプジョーとほぼ同じだった。違いはコーナリング。「ベルランゴ」はコーナーに差しかかり、ハンドルを切るとロールを始める。コーナリング中はそのままロールをしながらクリアし、体勢を立て直して、再びストレートを走る。
このコーナーでのユラッとした動きがシトロエン独自の動きだ。直進路でもハンドルを細かく切るとユラユラと揺れるような動きをする。タイヤはグッドイヤーの「エフィシエントグリップ2」ではなく「エフィシエントグリップ」。サイズも205/60R16と小径で細身だった。
最後に「ドブロ」だが、運転席に乗りこんだ瞬間から簡素さが目についた。エンジン音はやや大きめ。アクセルオンでのうなり音もやや大きかった。ドライブモードはノーマル/エコの2モード。「ベルランゴ」と同じだ。
ハンドリングはやや重めの操舵力で、コーナーでは切りこんでいくと、少し抵抗はあるがそのまま素直に切りこめる。乗り心地はゴツゴツ感やザラつきは抑えられている。スポーティな感じはしないが、0→100km/hの加速は唯一10秒台。5人乗りは3車の中で最も軽量なので、加速タイムの差につながったのだ。
安全性の違い
3車共通で、マイナーチェンジからミリ波レーダーの追加でアダプティブクルーズコントロールの性能が向上し、停止後、3秒以内は再発進できるようになった。レーンポジショニングアシストの追加で、ロングドライブでのドライバーの負荷軽減ができた。安全装備に関しては5人乗りと7人乗りでは違いはある部分もあるが、ほぼ同じだった。室内での違いは「ドブロ」の7人乗りの3列目が、スライドと脱着できないのが大きな違いだ。
総括
3車を乗りくらべて、性格の違いは明確にあった。プジョー「リフター」は街中での使用はもちろんだが、オフロード系(サンド/マッド/スノー)モード+ヒルディセントコントロールも装備しているほどに充実させている。山や海のレジャーに出かける人に合うアウトドア志向のモデルだ。ワイルドなアクセサリーを装備して、楽しみたい。
シトロエン「ベルランゴ」は実用性重視。コーナーでのユラッくるロールなど、シトロエン好きにはたまらない特徴が生かされている。
フィアット「ドブロ」は完全に実用車。このクルマの本来の使い方である商用車に最も近い性格だ。ローマの街中を信号グランプリをやりながらかっ飛ばして走る大衆車のイメージで、気軽に乗りたい。Mモードでパドルシフトして走る姿が似合う。
価格の違い
・プジョー「リフターGT」 448万円
・プジョー「リフターロングGT」468万円
・シトロエン「ベルランゴ MAX」439万円
・シトロエン「ベルランゴMAXロング」457万円
・フィアット「ドブロ」 414万円
・フィアット「ドブロ マキシ」436万円。
■関連情報
https://www.peugeot.co.jp/range/peugeot-rifter.html
https://www.citroen.jp/models/new-berlingo.html
https://www.fiat-auto.co.jp/
文/石川真禧照 撮影/萩原文博