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NTTが世界で初めて鋼材を使用したインフラ施設の画像から腐食の進行を予測する技術を開発

2025.05.07

点検周期と補修時期を最適化することで保全コストを縮減

日本電信電話(以下「NTT」)は、デジタルカメラにより撮影した道路橋等のインフラ施設の画像から、数年後の鋼材腐食の進行を高精度に予測する技術を開発した(図1)。

この技術は実際の撮影画像から将来の腐食の広がりを予測した画像を生成することができる世界初の検査技術であり、腐食進行した実際の施設の画像と設置環境のデータの学習により高精度な予測画像の生成を可能にしたものだ。

同社によれば、道路橋および道路に添架された通信用管路設備(※3) を用いた検証の結果、数年後における腐食領域の増加率を平均誤差10%未満(9.9%)の精度で予測できることを確認したという。

また、この技術を活用すれば、数年後の腐食状況を高精度に把握できるため、点検周期や補修工事時期の最適化が可能になり、維持管理業務の抜本的な効率化による保全コストの縮減も実現できる。

同社では、2025年度中にNTTグループ会社での道路橋を対象に事業化を予定している。

<図1:本技術による鋼材腐食の進行予測>

本技術の開発背景

橋梁、鉄塔、ガードレール等といった鋼構造のインフラ施設が数多く設置されているが、これら施設の老朽化は大きな社会問題になっている。

老朽化を進行させる主な劣化要因は鋼材の腐食だ。インフラ施設の大部分は屋外に設置されていることから、雨水、風、結露等の影響を受けて鋼材に腐食が発生する。

腐食は経年により徐々に進行し施設の構造耐力(※5)を低下させるため、最終的には施設の破損や崩壊を引き起こす可能性がある。そのため、施設管理者は定期的な点検により施設の腐食状態を確認して、安心安全に維持管理を行う必要がある。

しかしながら、現行ではすべての施設に対して一律の周期で点検を行っているため、毎年膨大なコストが発生。さらに、老朽化施設の増加、専門技術者の減少等といった社会状況から、施設管理者が負担するコストはますます増加すると考えられる。

そこで、現在の一律的な周期での点検業務を抜本的に見直して、個々の施設の腐食進行に合わせた最適な点検・補修による維持管理コストの縮減を実現していくために、将来の施設毎の腐食状態を正確に予測できる方法の確立が急務とされている。

鋼材の腐食進行予測の難しさ

■腐食領域の増加率の実地調査

実地の鋼構造物の鋼材における腐食領域の増加率を図2に示す。本調査はNTTアクセスサービスシステム研究所にて、茨城県内における道路橋および道路橋に添架された通信用管路設備の80か所の鋼材を対象に一定年数が経過した際の腐食領域の増加率を計測している。経過年数は3年から6年の範囲で、各年数において20施設を対象としした。

茨城県を選定した理由は、腐食の進行速度に影響する気温や降水量の環境条件が全国平均に近い都道府県であり、標準的なデータを取得できると考えたためだ。

この調査結果より、各経過年数における平均の腐食領域の増加率は3年で64.4%、4年で146.4%、5年で99.2%、6年で79.8%であり腐食領域の増加率は施設の経過年数に比例して大きくなる傾向は見られなかった。

このことから経過年数のみで個々の施設の腐食進行を正確に予測することは困難であることがわかる。

<図2:施設の経過年数と腐食領域の増加率の関係>

■市中技術

経過年数のみでは予測が難しい腐食の進行率を平均気温や降水量、日照時間等の環境条件から統計手法や機械学習手法を用いて予測する方法は複数提案されている。

しかし、県市町村のような地域単位における年間の平均的な腐食速度を予測するマクロ的な方法であり、個々の施設における腐食進行を正確に予測できる方法は存在しない。

本技術の概要

デジタルカメラによる施設の撮影画像から数年後の鋼材腐食の進行を高精度に予測する技術を確立した。本技術は施設の画像、施設が設置されている環境データ(気温や降水量等)、予測したい年数の3つのデータを入力することで、将来の腐食の広がりを予測したデータを生成する(図3)。

<図3:本技術の動作概要;入力データと出力データ>

なお、本技術に用いた画像は道路橋およびNTTが保有している通信用管路設備の鋼材部の撮影画像であり、過去数十年にわたりNTTで実施してきた設備点検時に収集したデータになる。また、これらのデータでは腐食進行が著しく早い海岸沿い等の塩害地域は対象外としている。

■技術ポイント

本技術は深層学習手法の敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative adversarial network ※6)をベースに構築されている。

GANとは入力データの特徴を学習することで、擬似的なデータを生成することができる生成モデルだ。

同社ではこのGANに経過年数と腐食の増加量に加えて、過去と現在の施設画像を活用して腐食の面積・形状・色等の情報を学習させたモデルを構築。

さらに、気温や降水量等の化学的に腐食進行に影響すると想定される複数の環境データの中から、最適なパラメータを選び出し、画像と一緒にモデルに入力できる構成とした。

その結果、同社は「画像中の腐食の進行速度を正確に予測できるモデルを確立しました」と述べている。

検証の概要

■検証条件

現場に設置されている道路橋、および通信用管路設備の鋼材20か所の画像を用いて、本技術の性能検証が行なわれた。

数年前にNTTで撮影した画像と同一の画角・構図で撮影、検証用の画像を収集した。鋼材20か所における平均の経過年数は4.4年だ。

評価方法は、過去画像と現在画像から腐食領域の増加率を算出。次に、過去画像と本技術による予測画像の腐食領域の増加率を算出して、これら両者の数値を比較した。

■検証結果

過去画像から現在画像までの腐食領域の増加率(実際)と本技術による予測画像との増加率(予測)の結果を図4に示す。相関係数(※7)は0.738であり高い相関を確認した。実際と予測の増加率の平均誤差は9.9%、ばらつき(※8)は3.7%であることを確認した。

図4のA点とB点はともに3年経過した設備、で実際の増加率は約40%の違いがあるが、本技術はそれぞれの施設の腐食の広がりを実態に合わせて予測できていることがわかる。

図4:本技術の検証結果

本技術の効果と今後の展開

■本技術のインフラ施設の維持管理市場における効果

・これまでの一律の点検周期を施設毎に最適化できるため、点検コストの抑制と安全な施設管理に寄与する。腐食進行が遅い施設は周期を長くすることでコストを抑え、腐食進行が早い施設は周期を短くすることで安心安全な維持管理を実行できる。
・適切な時期での補修が可能になり、施設機能を安全に確保した上でコストを抑制。また、数年間の補修量が把握できるため、工事計画の平準化により補修費の安定的な確保と現場工事の生産性向上に寄与する。

■今後の展開

本技術は2025年度にNTTグループ会社で道路橋を対象としたサービス化が予定されている。また、鉄塔等の他の鋼構造物や、ひび割れ、裂傷等の劣化事象への技術拡大も予定される。

※5 構造耐力:建物が自重や車両・地震・台風などの外力に耐えられる強度
※6 敵対的生成ネットワーク:深層学習(ニューラルネットワーク)モデルのひとつ。 2 つのニューラルネットワークをトレーニングして互いに競合させ、用意したデータセットからより本物に近い疑似的なデータの生成が可能なモデル。2つのニューラルネットワークが競合するため敵対的と呼ばれる。
※7 相関係数:2つのデータ間にある線形な関係の強弱を測る指標であり、1に近いほど正の関係が強い
※8 ばらつき:実際の腐食進行率と予測の腐食の進行率の絶対値誤差の標準偏差(σ)

関連情報
https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/04/30/250430a.html

構成/清水眞希

 

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