
宅配、誰とすれ違うかわからない共用廊下やエレベーター――。
普段はそれほど意識しないかもしれないが、「安心して暮らせること」は、実は住まい選びの中でもかなり大事なポイントだ。
今回は、集合住宅を専門に設計してきたプロの視点から、“本当に安心できるマンション”を選ぶための視点を紹介する。
宅配時代に求められるセキュリティー機能
下の図は、宅配時代に合ったセキュリティーシステムを導入したマンションの例だ。
エントランスホールに入るところにセキュリティーがあり、エレベーターホールに入る前にも2つめのセキュリティーがある。不審者がマンション内に入りにくい構造、エントランスの視認性、共用部のセキュリティー機能は、防犯性を左右する重要なポイントとなる。
また、このマンションでは居住者が外部の人と顔を合わせることがないよう、郵便・宅配業者の動線は別に設けられている。マンションを選ぶ際には宅配ボックスの有無だけでなく、動線や管理人の配置、「置き配」への配慮など、トータルで考えたい。
「近所づきあい」は防犯になる
防犯性の高さはマンションの魅力のひとつだが、それはセキュリティーシステムに限った話ではない。住民同士の顔見知りの関係も防犯面で役に立つ。住民同士のつながりが適度にあるマンションは、防犯面だけでなく、災害時の助け合いや日常の安心感にもつながる。
マンションの規模にもよるが、グレードの高いマンションでは、1フロアあたり3~4戸で1基のエレベーターを使用する設計になっている。エレベーターで顔を合わせる人が限られることで、自然と顔見知りになり、安心感が生まれやすくなる。特に、小さな子どもや高齢者のいる家庭にとっては、こうしたご近所さんの存在が、人の目によるセキュリティーとして心強いものになるだろう。“人間関係が煩わしい”と思われがちだが、近所づきあいは安心して暮らせる土台になる。
その一方で、住民のプライバシーを守る設計も施されている。たとえば玄関前の“アルコーブ”と呼ばれる凹みがあることで、通路を歩く他人からの視線が遮られ、プライバシーが保たれやすい。こうしたちょっとした配慮が、住み心地と安心感につながる。
つながりを作り出す設計に着目
安心して暮らせるマンションを選ぶには、防犯設備だけでなく、設計の工夫と住民同士の関係性に注目したい。人の目があり、気配があり、自然と守られている。そんな“目に見えない安心”が、暮らしの質を大きく左右する。
この記事は、書籍『本当に価値のあるマンションの見つけ方』より、一部内容を抜粋・再構成したものです。書籍では他にも、購入前に知っておきたいマンション選びの視点を多数紹介しています。
■著者
日建ハウジングシステムは、1970年に日建設計より分社・独立。大規模ニュータウンが誕生したマンション黎明期に設立されて以来、50年以上にわたり、集合住宅などの設計に豊富な知見を生かし、「暮らし」の仕組みづくりを通じて住関連分野で高い信頼を築いてきた。これまでに12万戸を超える集合住宅を手掛けており、都市集合住宅の企画・設計および調査研究に卓越した専門性を誇る。2025年4月には日建設計と合併し、より幅広い住宅提案を行っている。