
5月になり、花粉の本格飛散は終わりを迎え、ホッとしている人も多いだろう。来年の春はもう少し快適にすごしたいという人に検討してもらいたいのが「舌下免疫療法」だ。
スギ花粉による症状が出なくなる治療法だというが、いったいどういう薬なのか。耳鼻咽喉科医の木村聡子先生に教えてもらった。
1日1回の服用でスギの花粉に反応しにくい体に
アレルギー体質を改善すると言われる「舌下免疫療法」。アレルギーの症状をおさえる対症療法ではなく、原因となる体質を改善する効果が期待できる治療法だという。
「毎日少しずつアレルゲンを体内に吸収させ、身体をアレルギーの原因物質に慣らしていくという治療法です。小さいラムネのような粒の薬で、1日1回舌の下に置いて、1分間保持します。日本で行われている舌下免疫療法はスギとダニの2種類で、スギ花粉用をシダキュア、ダニ用をミティキュア、アシテアといいます。
アレルギーがある人に対してアレルギーの原因となる物質を体に入れるため、稀とはいえアナフィラキシーが起こるリスクがある。そのため、投与の開始は慎重に行われる。
「問診や診察、血液検査で今の症状がアレルギーによるものなのか、その中でもスギやダニによる症状が出ているのかどうかを調べます。明らかにスギやダニによるアレルギー症状があるとわかれば治療対象になります。初回服用時は診察室で実際に医師の前で薬を服用してもらい、アレルギー症状が出ないかどうか30分ほど様子を見て、2回目以降は自宅で服用することになります。2週目以降は薬の量が増え、増えても問題ないか確認ができたら、その量でずっと続けていきます」
スギ花粉の舌下免疫療法の開始時期は早くて6月
アナフィラキシーのリスクを下げるため、スギ花粉に関しては、舌下免疫療法を開始できる時期が限られている。
「アレルギー源であるスギ花粉から作られている薬を体に入れるため、花粉飛散時に開始すると、スギ花粉が大量に体内に入る可能性があり、アナフィラキシーを起こすリスクが高くなります。そのため、スギ花粉が飛んでいる時期には始められず、6月~11月ごろにスタートできます。だいたい、服用して3か月くらいで徐々に効果が出始めるので、仮に6月でスタートすることができれば、次の春の花粉の時期に効果を実感する人もいらっしゃいます。ただ、継続することでより効果が実感できるため、3年から5年くらいは継続していただきたいです」
ちなみにダニに対する舌下免疫療法であれば、1年中いつでもスタートすることが可能だ。アレルギー症状をなんとかしたい人にとっては服用を検討したい薬だが、どちらの薬に関しても、使えない人がいる。
「シダキュア、ミティキュアは原則5歳以上が適応なので、乳幼児は使えません。また、基本的にアナフィラキシーが起こるかもしれないという前提で行うため、この治療法が行えない人がいます。例えば、高血圧や狭心症の薬であるβ遮断薬を使用している患者さんは使えません。理由はβ遮断薬がアナフィラキシーの治療薬と逆の働きをしてしまうためです。ほか、アナフィラキシーが起きた場合に様々な薬を使う必要があるため、治療開始時に妊娠している人はNGです。ただ、舌下免疫療法を継続中に妊娠するケースは問題ありません」
ほか、薬でコントロールできないような重症喘息の人や、がんをはじめとする全身の重篤な疾患がある患者も使用できない。思わぬ副作用を起こさないためにも、舌下免疫療法を検討している人は、相談時に基礎疾患や内服薬はきちんと伝えよう。
舌下免疫療法は継続で力を発揮
「さらに言うと、舌下免疫療法は継続することで力を発揮する薬です。そのため、きちんと内服や通院ができない人はこの治療ができません。飲み始めたら1年中毎日飲み続けることになります。もちろん、ものすごく体調が悪いときや口内炎ができたときなどはお休みしても問題ないですが、1か月あいて思い出したかのように服用するなんてことは想定されていません」
早ければ3か月で効果を実感できるならば、来年の3月のスギ花粉対策として今年の9月ごろまでに始めておきたい。ただ、現在は需要と供給バランスが崩れているという。
「シダキュアには、初めて使う人用の用量が少ないものと、継続している人用のものがあります。近年、舌下免疫療法の希望者が非常に増えたため、薬の生産が追いつかない状況になっている。現在初めて使う人用のシダキュアに出荷制限がかかっており、受診したからといってすぐに手に入るとは限らない。次の春に向けての対策ならば、6月~9月の間に始められるのが理想的ではありますが、医療機関によってはすぐ始められないケースもあることは頭に入れつつ、問い合わせていただくといいと思います」
すぐに手に入らない可能性も考えて、スタートを検討している人は、早めに行動を起こした方がよさそうだ。ちなみに、すでに継続している人向けのシダキュアは問題なく手に入るので、そこは安心してほしい。
木村聡子医師プロフィール
医学博士、日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会専門医、補聴器適合判定医、補聴器相談医、難病指定医。大学病院、総合病院などを経て、現在は都内クリニックに勤務。耳鼻咽喉科疾患全般において年齢層を問わず幅広く対応し、丁寧な説明を心掛けている。
取材・文/田村菜津季