
ゴールデンウィークや夏休みなど、休みが続くと、普段はバタバタしている家族も、なんだかんだ顔をそろえることが増える。
「近くのファミレスでも行こうか」と軽いノリで出かけることもあるだろう。ところが、車を走らせているうちに話が盛り上がり、帰宅したのは深夜。「ちょっと出るだけだったのに!」と、苦笑いするパターンも珍しくない。
今年のゴールデンウィークも、キーワードは「安・近・短」。安くて、近くて、日程の短いお出かけをする人が多い。予定がないからこそ、予定外の外出がどんどん増える時期でもある。
この時期に気をつけたいのが、「空き巣」だ。「すぐ帰るから」と玄関のカギをひとつだけしか閉めなかったり、窓を開けっぱなしにしたりしがちだが、そんな油断こそが狙われる。
とはいえ、最近目立つのは、さまざまなリストをもとに「金品がありそうな家」をピンポイントでリストアップし、闇バイトで集めた若者を使って襲撃する強盗事件。いわゆる、トクリュウ型の犯罪だ。そんなニュースを目にすることが多いため、「うちはそんな金持ちリストには入っていないから大丈夫」とタカを括ってはいないだろうか。
そんな人は、ぜひ以下のグラフを見てほしい。
「警察庁『令和5年の犯罪』第14表、第15表」をもとに旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所が作成
たしかに、闇バイト関連の「強盗」も発生しているが、2023年のデータによると、「侵入窃盗」の認知件数は「強盗」の80倍以上にのぼる。変わらず「空き巣」には注意が必要ということだ。
そこで今回は、旭化成ホームズ LONGLIFE総合研究所 主任研究員で、防犯設備士兼一級建築士の山田恭司さんに留守になりがちな時期の防犯対策についてお話を聞いた。
「防犯面での安心は、いのちを守り、くらしを豊かにするための礎であり、永い人生を支える(=LONGLIFE)ために欠かせない要素になります。最新の犯罪を分析して対策を考え、情報を公開することで、多くの方に心穏やかに暮らしてほしいと考えています」と山田さん。
「我が家には関係ない」と考えている人ほど、今回の記事を最後まで読んでほしい。
空き巣の侵入手段で最も多いのは?
「侵入盗を防ぐには、まず戸締りをしっかりすることが何よりも重要です」と、山田さんは話す。
■空き巣に入られる家の半数が「無締まり」
以下は、一戸建て住宅の場合の侵入盗の手口だ。
「警察庁『令和5年の犯罪』第14表、第15表」をもとにをもとに旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所が作成
「警察庁『 令和5年の犯罪』第18表」(ピッキング・サムターン回しはピッキングと各種サムターン回しの合計/他の項目は単独で抜粋単独で抜粋)をもとに旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所が作成
やはり、侵入盗の60%以上は「空き巣」であり、侵入手段の多くが「無締まり」。つまり、家族全員が外出しているにもかかわらず、窓や扉など、どこかに侵入を許してしまう場所があったということである。
■こんな場所のカギ、締め忘れてない?
「トイレや浴室の窓は通気のため、開けておきたいと思いますが、面格子がついているからといって安心しないでいただきたい」と、山田さんは念を押す。
防犯対策を行うために必要な4つのディフェンス
旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所がまとめた資料より
防犯を考える時は、家とその周辺を、上の図のように4つに分けてバランスよく対策を講じるとよいそうだ。
(1) 狙われない「ソフトディフェンス」
侵入犯に「防犯している家」だと認識させよう!
ちゃんと施錠をすること、シャッターを閉めたり、防犯カメラを設置したりして、「この家は防犯対策をしっかりしていそうだ」と侵入者に思わせることが重要である。
さらに、夜の不在時間が長い場合は、1部屋だけでも照明をつけておくとよい。誰かが家に残っているように感じさせることができるからだ。
1階はシャッターを閉め、2階を点灯しておく。旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所がまとめた資料より
(2) 敷地に入らせない「ゾーンディフェンス」
侵入防止の障がい物を準備しよう
奥に近づけない状態や入ったら怪しいと周囲が感じてくれる状態をつくる。
「敷地の入り口に鍵付きの仕切り戸を設けることで、すんなりと中に入れなくなるので効果があります」
旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所がまとめた資料より
仕切り戸の代替として、「鈴をつけた格子のフェンスや自転車を置くだけでも、侵入防止の効果はあります。鈴がついていれば、フェンスを動かした時に音がして、周囲が異変に気づいてくれるし、侵入盗はそれを嫌がります。さらに、通り道に置かれた自転車は、避けるのに時間がかかり、倒れれば大きな音がするため、有効です」と山田さんは語る。
旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所がまとめた資料より
また、建物側面に人感センサー付き照明を設置しておけば、侵入者は自分の姿を照らされる形になり、「侵入盗」が入りにくくなる。
防犯照明は、威嚇ではなく、みまもりが目的。敷地の奥を明るく、見やすい方向に照らす。旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所がまとめた資料より
(3)家に入らせない「ハードディフェンス」
窓を強化しよう
ここでもまずは施錠が基本。また、窓を強化するなど、開口部の対策も重要になってくる。
「無締まり」に次いで多い侵入手口が「ガラスこじ破り」などの窓ガラスに関するものである。その対策としてポイントになるのは、シャッターを閉めること、シャッターがない窓はガラスに穴を開けるまでにできるだけ時間をかけさせる工夫をすることだ。
一般的なガラス窓は比較的簡単に壊され、割れたガラスの穴から手を入れて鍵を開けられてしまうケースが多いのだそう。
さらに、「網入りガラスは割れにくいと考えている人が多いですが、実は網があっても割った後に手を入れるための穴は簡単に作れてしまう。網入りガラスは防火対策だから防犯対策にはならないんですよ」と山田さんは指摘する。
したがって、ガラス窓には防犯合わせガラスを使用するか、フィルムを貼るといった対策が必要である。
左が網入りガラス、右が防犯ガラス 旭化成ホームズ(株)で実験、山田さんが撮影したもの
ガラスを強化したうえで、扉や窓には鍵を2か所以上取り付けることで、「侵入盗」が家の中に入るまでにかかる時間を稼ぐことができる。
(4) 入られた時の「アラームディフェンス」
「入られたら通報」と頭に入れておこう
最後は、それでも入られた時の対応も覚えておこう。
「どんなに対策をしても、それが100%防げるというものではありません。だからこそ、入られた時のこともちゃんと考えておかなくてはいけません」と山田さん。
入られた時は「誰かに通報すること」が重要になってくる。警備会社の非常時に警備員が駆け付けるプランを取り入れているなら、すぐに警備会社がきてくれるので安心だ。
ただ、それが難しいなら、窓やドアに大きな音が出るアラームをつけて、いち早く異常に気づき、警察に通報することが、命を守るために重要になってくる。
住宅侵入盗は旅行・帰省が多い時期に増えるので要注意!
以下のグラフは2023年の住宅侵入盗の認知件数を各月ごとにまとめたものだ。
2023年 各月の平均認知件数 警察庁 犯罪統計資料 2023年1月~2023年12月の各月の統計をもとに旭化成ホームズ(株)LONGLIFE総合研究所が作成
見ていただけばわかるとおり、旅行や帰省が多い1月、5〜6月、8月、10月の件数がやや多くなっている。
侵入盗の被害は一戸建てが多いとされるが、集合住宅でも発生するため注意が必要だと山田さんは最後に注意を促した。
なにより油断しないことが一番の対策のようだ。
最後に伝えたいこと
最後に筆者の周囲で「侵入盗」に入られた人の話を紹介しておきたい。
筆者の身近にも、「侵入盗」の被害に遭ったという人が何人かいるが、いずれも集合住宅に住んでいた。そして盗まれたものは「スリッパ片方だけ」とか「靴下を一足」とか。「被害なし」という人もいた。
ただ、何より辛かったと話していたのは、警察の調べが終わった後の、後片付けやその後の不安感。しばらくは心配で眠れないと話していたことも忘れられない。
「ちょっと出かけるだけ」でも、「うちには盗まれるものがない」でも。今の時代、絶対に防犯対策は必要なのだ。
取材・文/内山郁恵