
豚由来腎臓を移植されていた米国人女性から移植腎を摘出
遺伝子編集された豚の腎臓を移植し透析治療が不要になっていた米国人女性が、拒絶反応を来し、移植腎摘出に至ったことが報じられた。移植手術から130日後のことであり、遺伝子編集された豚由来腎臓が人の体内で機能した最長記録となった。
この女性は、米国アラバマ州に住む53歳の女性、Towana Looneyさん。移植術と摘出術を行った米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの発表によると、Looneyさんは現在、透析治療を再開している。
一連の手術の執刀医であるRobert Montgomery氏は、ニューヨークタイムズ紙に対して、「移植腎の摘出は、動物の臓器を人に使用するという『異種移植』の後退を意味するものではない。今回のケースは異種移植による治療を受けた患者の中で、最も長く臓器が機能した。新しい治療法の確立には時間を要する。ホームランを狙って一発で勝負がつくというものではなく、単打や二塁打を着実に積み重ねていく進歩が鍵となる」としている。
Looneyさんは、移植手術の予後に影響を与える可能性のある、ほかの病状を抱えていた。医師たちは、免疫抑制剤の投与量を増やすという積極的な治療を行えば、移植した腎臓を救うことができる可能性も考えたが、結局、Looneyさんと医療チームはそれを断念した。「一番重要なことは安全だった」とMontgomery氏は話す。
一方のLooneyさんも、「2016年以来初めて、透析治療の予定を気にせず、友人や家族と楽しい時間を過ごすことができた。この結果は誰もが望んでいたものではないが、豚の腎臓を移植後の130日間で、多くの知見が蓄積されたと確信している。そして、この経験が腎臓病克服を目指す多くの人々の助けとなり、希望を与えることを願っている」と語っている。
移植腎摘出に至った経緯は、移植後の経過観察で、Looneyさんの血液中のクレアチニンの上昇が認められたことに始まる。クレアチニンは血液中の老廃物で、通常は腎臓の働きによって体外に排泄され、血液中の濃度は一定程度以下に抑えられている。それが上昇しているということは、腎臓に問題が起こり始めている可能性が考えられた。
Looneyさんはいったんアラバマ州の病院に入院した後、ニューヨークへ飛行機で移動。改めて検査が行われ、拒絶反応の兆候が確認されて、結局、4月11日に摘出術が行われた。
移植に用いられた豚由来腎臓を開発したバイオテクノロジー企業であるUnited Therapeutics社は、拒絶反応が起こるまで移植腎は正常に機能していたと述べている。また同社はLooneyさんの勇気をたたえるとともに、豚腎臓移植の臨床試験を本年後半に開始することを公表した。この臨床試験は、当初は6人の患者を対象に開始し、その後50人にまで拡大する予定だという。
現在、米国では55万人以上が腎不全により透析治療に依存しており、約10万人が移植待機リストに登録されている。それに対して、昨年行われた腎移植は2万5,000件足らずだったとニューヨークタイムズ紙は報じている。(HealthDay News 2025年4月15日)
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(参考情報)
The New York Times
https://www.nytimes.com/2025/04/11/health/pig-kidney-transplant-looney.html
構成/DIME編集部
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