
大惨事はがんの診断数を減少させる
自然災害やパンデミックなどの大惨事は、がんによる死者数の増加につながるかもしれない。新たな研究で、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアが2週間間隔でプエルトリコを襲った際に、同国での大腸がんの診断数が減少していたことが明らかになった。
このような診断数の低下は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生直後にも認められたという。プエルトリコ大学総合がんセンターのTonatiuh Suárez-Ramos氏らによるこの研究結果は、「Cancer」に4月14日掲載された。
米国領プエルトリコでは、2017年9月初旬に超大型ハリケーン・イルマが島の北を通過したわずか2週間後に、カテゴリー5の最強ハリケーン・マリアが上陸し、甚大な被害を出した。当時、稼働していた病院はほとんどなく、高い貧困率などが原因ですでに制限されていた医療へのアクセスがさらに悪化した。さらに2020年にはCOVID-19パンデミックが発生した。政府が実施した厳格なロックダウン政策は、感染の抑制には効果的だったが、医療サービスの利用低下につながった。
Suárez-Ramos氏らは、このような大規模イベント発生による医療システムの混乱により、プエルトリコで2番目に多いがんである大腸がんの検診へのアクセスが制限され、それががんの早期発見の妨げとなった可能性があるのではないかと考えた。それを調べるために同氏らは、プエルトリコ中央がん登録簿の2012年1月1日から2021年12月31日までのデータを入手し、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアおよびCOVID-19パンデミックの発生直後および発生期間中に大腸がんの診断数がどのように変化したかを調査した。
その結果、2つのハリケーンがプエルトリコを襲った2017年9月の大腸がんの診断数は82件だったことが明らかになった。ハリケーンがなかった場合に想定された診断数は161.4件であり、統計モデルにより、ハリケーンによる即時の影響として診断数が28.3件減少したと推定された(17.5%の減少に相当)。
一方、パンデミック発生に伴うロックダウン後(2020年4月)の大腸がん診断数は50件であった。ロックダウンがなかった場合に想定された診断数は162.5件であり、統計モデルにより、ロックダウンにより診断数は即時的に39.4件減少したと推定された(24.2%の減少に相当)。
2021年12月の研究終了時点でも、早期大腸がんの診断数と50~75歳での診断数は、想定される診断数に達していなかった。また、末期大腸がんの診断数と、50歳未満および76歳以上の診断数は、想定される診断数を上回っていた。
論文の筆頭著者であるSuárez-Ramos氏は、「これらの調査結果は、ハリケーンの襲来やパンデミックの発生により医療へのアクセスが制限されたことが原因でがんの発見が遅れ、患者の健康状態が悪化した可能性があることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。研究グループは、このようなスクリーニング検査の混乱により、「将来的には、大腸がんが進行してから検出される患者が増え、生存率が低下する可能性がある」と危惧を示している。
米国地質調査所によると、気候変動による気温上昇により、より激しい嵐や壊滅的な山火事の発生が増え、海面上昇も進んでいるという。論文の上席著者であるプエルトリコ大学のKaren Ortiz-Ortiz氏は、「医療制度はこうした災害下でも人々が必要ながんの検査を受けられる方法を見つけておく必要がある。われわれの最終的な目標は、危機的状況下でも医療システムの回復力とアクセス性を高めること、また、人々がより長くより健康的な生活を送れるように支援することだ」とニュースリリースの中で語っている。(HealthDay News 2025年4月14日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.35793
Press Release
https://newsroom.wiley.com/press-releases/press-release-details/2025/Do-disasters-delay-early-cancer-diagnoses/default.aspx
構成/DIME編集部
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