
ロボットの遠隔操作による顕微授精で初の赤ちゃんが誕生
世界で初めてロボットの遠隔操作による顕微授精(ICSI)で赤ちゃんが誕生したことを、グアダラハラ大学(メキシコ)のGerardo Mendizabal-Ruiz氏らが報告した。ICSIは体外受精(IVF)の一種であり、卵子の細胞内に1匹の精子を直接注入して受精させる。この研究の詳細は、「Reproductive Biomedicine Online」に4月9日掲載された。
研究グループによると、この赤ちゃんは男の子で、メキシコのグアダラハラ在住の40歳の女性から生まれた。この女性は、以前IVFを試みたが得られた成熟卵は一つだけであり、胚の形成には至らなかった。その後、完全に自動化されたデジタル制御バージョンのICSIにより妊娠し、出産した。この自動化システムが、精子を選択して注入の準備を行い、卵子に注入するまでのプロセスは、グアダラハラから2,300マイル(約3,700km)離れたニューヨークにいる遠隔オペレーターが監視したという。
通常のICSIでは、高い技術を持った技師(胚培養士)が手作業で1匹の精子を卵子に直接注入する。受精が成功して受精卵が得られれば、母体に移植される。このプロセスには緻密性を要する23のステップが含まれており、技師の技量により結果に差が出てくる可能性があると研究グループは述べている。
このプロセスを改善するためにMendizabal-Ruiz氏らは、これらのステップをAI制御または遠隔オペレーターによるデジタル制御のもとで実行する、自動化されたワークステーションを作った。Mendizabal-Ruiz氏は、「AIを用いることで、システムは自律的に精子を選び、精子の尾部中央をレーザーで固定して動きを止め、注入の準備を整える。この迅速かつ精密なプロセスは、人間の能力を超える精度で実行される」と説明している。
今回の研究では、自動化されたICSIシステムによって5個の卵子で受精が試みられた一方、3個の卵子で人間の技師による標準的な方法によるICSIが行われた。卵子は23歳のドナーから提供された。受精には、後に新生児の母となった女性の43歳のパートナーが提供した精子が使われた。
その結果、自動化システムによって精子が注入された5個の卵子のうち4個(80%)が受精に至った。一方、標準的な方法でICSIを行った3個の卵子は全て受精に至った。その後、自動化システムによって得られた最も質の高い胚を女性に移植したところ、妊娠を経て健康な赤ちゃんを出産したという。
この自動化システムを作り、今回の臨床試験の資金提供を行ったConceivable Life Sciences社の胚培養士であるJacques Cohen氏は、「このシステムは、精度や効率性を高め、確実に一貫した結果をもたらすことが期待できる画期的なソリューションだ」とニュースリリースの中で述べている。
なお、研究グループによると自動化システムによる受精に要した時間は卵子1個当たり平均約10分であり、通常の手作業によるICSIと比べてわずかに長かったという。Mendizabal-Ruiz氏は、「自動化されたプロセスがさらに改良されれば、処置に要する時間は大幅に短縮されるだろう」と話している。
研究グループは今後、より多くの症例を対象とした臨床試験でその性能を検証し、システムの有効性を確認する予定である。(HealthDay News 2025年4月11日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(25)00150-6/fulltext
構成/DIME編集部
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