
アメリカの財政や金融政策等のニュースで登場する機会も多い連邦準備制度理事会。アメリカの中央銀行制度である連邦準備制度(FRS=Federal Reserve System)の最高意思決定機関であり、7人の理事(議長1人、副議長1人を含む)から構成され、FRB(=Federal Reserve Board)と呼ばれている。
機能的には通貨の発行や金融政策の実施など、日本の日本銀行に相当するものだが、このところ目立っているのが、トランプ大統領のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長への批判だ。
この状況に関して三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から分析リポートが届いているので、概要をお伝えする。
トランプ大統領のパウエルFRB議長への批判が続き、4月21日の米国市場は「米国売り」が再燃
トランプ米大統領のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長に対する批判が続いている。トランプ氏は4月21日、SNSへの投稿でパウエル氏を「判断が遅すぎる男」、「大きな敗者」とし、「今すぐ政策金利を引き下げない限り、経済は減速するかもしれない」と利下げを要求した。
なお、トランプ氏は先週4月17日にもパウエル氏を「一刻も早く解任すべきだ」とSNSに投稿している。
大統領からFRB議長への利下げ圧力が続くなか(図表1)、4月21日の米国市場では、FRBの独立性が損なわれるとの強い警戒が広がった。
この日は、ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数がそろって2%超下落し、安全資産とされる米国債も長期債を中心に軒並み下落(利回りは上昇)、米ドルは対主要通貨でほぼ全面安となるなど、再び「米国売り」の様相が強まった。
■法律上、大統領が議長を解任する正当な理由の定義はないが、過去の判例が独立性の基盤に
前述のとおり、トランプ氏がパウエル氏を解任すべきと投稿したことで、市場では大統領がFRB議長を解任できるのかという疑問の声があがっており、本稿ではそれについて検証する。
まず、米連邦準備制度法(Federal Reserve Act)をみると、議長を含むFRBの理事は、「正当な理由(for cause)」によって大統領に解任されなければ、前任者の任期満了から14年間の任期を務めると定めている。
歴史的に、正当な理由としては、「不正行為」や「能力の欠如」が該当し、「金融政策についての意見の相違」は該当しないと解釈されてきたが、米連邦準備制度法には、正当な理由についての明確な定義はない。
ただ、大統領には理由なく独立機関の高官を解任する権限はないとした1935年の米連邦最高裁判所の判例があり、FRBの独立性は長きにわたり、この判例が基盤となってきた。
■現在行なわれている最高裁での訴訟の行方に注目、結果次第ではFRBの独立性に影響することも
なお、現在、米連邦最高裁判所では、トランプ氏が2つの独立機関(全米労働関係委員会とメリットシステム保護委員会)の高官を解任した件で、訴訟が行なわれている。
解任された高官は復職を求めており、前述の1935年の判例に違反しているか否かが争点となっている。そのため、この訴訟の結果次第では、FRBの独立性が揺らぐ事態にもなりかねず、当面は注視していく必要があると思われる。
トランプ氏がパウエル氏を解任できるかについて、ポイントをまとめると図表2のとおりになる。
米相互関税の発動によって市場の不安が高まっているなか、大統領がFRBに利下げ圧力をかけ続ければ、市場はさらに強く米国売りで反応する恐れがある。
現時点で市場を安定させるには、各国政府が米国との貿易交渉を進め、FRBが圧力に屈せず政策を運営していくことが期待される。
構成/清水眞希