
ふるさと納税の返礼品に悩んでいる人は多いはず。わが家も最初は喜んでブランド牛や海鮮品などを選んでいたが、大量で持て余してしまうし、冷凍すると、いくら上質な肉でも美味しくない。昨年は保護猫に使われるという団体に寄付したが、可愛い猫写真が送られてきただけで、その後どうなっているのかわからない。
せっかく納税したのだから、地方でちゃんと使って欲しいし、納税者自身も楽しめたら最高だろう。今回は一歩進んだふるさと納税の事例を紹介しよう。トラストバンク社が2014年から開催している「ふるさとチョイスAWARD」で大賞にノミネートされた長崎県波佐見町の「町からの招待状」では、ふるさと納税をすると波佐見町で特別なおもてなしを体験できるらしい。どんな招待状で、どうおもてなししてくれるのか、担当した永田亜理沙さんに聞いてみよう。
進化している「ふるさと納税」
最初にふるさと納税に関する「ふるさとチョイスAWARD」を主宰しているトラストバンク社の執行役員宗形深さんに、最近のふるさと納税の傾向などについて聞いてみよう。
――宗形さん、はじめまして、最初にこの「ふるさとチョイスAWARD」について簡単に解説をお願いします。
宗形さん 「ふるさとチョイスAWARD」は、ふるさと納税を通じて活躍している自治体や事業者の方々――いわゆる『ヒト』にスポットライトを当て、優良事例を表彰し紹介するイベントです。
これまでの受賞事例は、どれも自治体職員さんや事業者さんの“まちに対する想い”や“寄付者の皆さんへの感謝”の気持ちが原動力となって生まれているものばかりでした。そういった強い想いが周囲の人を巻き込んでいくことで、結果として特別な事例に育っていくんですよね。
特にここ数年は、高校生など学生を巻き込んだ事例が増えてきていると感じます。ふるさと納税という制度自体、もともとそのまちの税金で育った方々が進学や就職で都市部へ移ってしまうことで、税収の格差が生じるのを是正しようという趣旨で始まりました。ですから、地元の高校生が返礼品の開発に参画したり、ふるさと納税の寄付を活用して起業にチャレンジしたりするというのは、制度の根本意義からみても非常に有意義な活用法だと思っています。
チョイスルーキー部門を受賞した茨城県鹿嶋市の中学生たち。地元の名産を使った商品開発を実施した。
まちを良くする提案に役立つふるさと納税
宗形さん また、ふるさと納税をきっかけに、地域の住民や企業、学生などが一体となって取り組む事例も数多く生まれています。たとえば、地域住民から集めた「まちをよくする提案」に、ふるさと納税の寄付金を活用して実現する仕組みが生まれています。
さらに、ふるさと納税の寄付金を活用して廃線となったバスを復活させ、その運営を地域のみんなで支えている事例もあります。そこには自治体だけでなく、地元企業や住民、学生の方々が一緒になって関わっている。こうした動きは、“ふるさと納税を軸に地域全体が一つにまとまる”という好事例だと思います。
私たちとしては、そうした“人の想い”や“地域の連帯感”が、年々新しいかたちで広がっていくのを肌で感じていますし、そこにこそふるさと納税の大きな価値があると考えています。
――なるほど!ふるさと納税も変化していました。今回この「ふるさとチョイスAWARD」の「チョイス事業者部門」を受賞したのが長崎県波佐見町の永田亜理沙さんで、町から招待状を作って、納税者と町民がつながる仕組みを作った点が評価されました。永田さんに、もう少し詳しい話を伺います。
町から招待状が届く!?長崎県波佐見町の素敵なふるさと納税
――はじめまして、永田さん、受賞おめでとうございます!最初に波佐見町について教えてください。
永田さん 波佐見町は長崎県の中央に位置する人口1万4千人ほどの小さな町です。特産品は日用食器の「波佐見焼(はさみやき)」。町を歩くと窯元の煙突が立ち並んでいて、やきものの産地ならではの風景が広がっていますよ。そして私自身、町のいちばんの魅力だと思うのは「人」ですね!本当に、あたたかい人ばかりで。私は仕事がきっかけで4年前に波佐見町に来たのですが、すぐにこの町が大好きになりました!
そして今回、私たちが取り組んだのは「波佐見町からの招待状」という企画です。私はスチームシップという、ふるさと納税支援に携わる会社で働いているのですが、波佐見町に寄附していただいた方へ「招待状」を届けました。この招待状を持って町に足を運ぶと、約30の加盟店でさまざまな「おもてなし」を受けることができます。町の人のホスピタリティを感じながら、すこし特別な気分で町を巡ることができるんです。
――「波佐見町からの招待状」という企画を考えたきっかけは何ですか?
永田さん この企画を考えた1番のきっかけは、やきもの産業の現状を間近で感じたことでしょうか。原材料やガス代の高騰で、やきものの値段を上げなくてはいけない。そして消費者にとっては食器を買うことが二の次三の次になり、波佐見焼の売上がどんどん減少していく。大好きな町の事業者さんたちが苦労されている姿を見て「なんとかしたい!」と強く思ったんです。
私たちの仕事である「ふるさと納税支援」によって協力できることはないだろうか。寄附者さんに返礼品の魅力だけでなく、町の魅力を感じてもらうには、どうすればいいだろう。そう考えていた時に「私が大好きな『町の人たち』とふれあっていただけたら、絶対に町のファンになってもらえるはず!寄附者さんに招待状を送ろう!」と思いついたんです。
この企画が実際に動き始めたのは2023年の4月頃。町内の交流会に参加した時に、町長や観光課の方々もいらっしゃったので「今の波佐見には、寄附者さんを町に呼ぶ取り組みが必要だと思います!」と想いをぶつけたのが始まりです。「いいね、やってみらんね」とすぐに賛同していただき、それから3か月後には事業者のみなさんに説明会を行いました。そこで私の想いに共感していただいた方々が、加盟店として登録してくださいました。
――実際の招待状ですが、どんなもので、受け取った人はどんな「おもてなし」をしてもらえるのですか?
永田さん 波佐見焼の小物をもらえたり、やきものの工場見学ができたり。また絶景の棚田を見ながら地元産のお茶を淹れてもらえるなど「おもてなし」は波佐見町民のあたたかさが伝わるような内容になっています。
そしてこの招待状は、町の人たちにとって寄附者さんの目印になります。「波佐見町にふるさと納税してくれた方だ!」とひと目で分かるので、会話が生まれるきっかけになりました。今まで返礼品のやり取りでしか繋がっていなかった寄附者さんと町の人たちが顔を合わせる。そして言葉を交わす。それはお互いにとって特別な体験になったはずです。
――実際に招待状を使った人は今まで何人いて、どんなおもてなしが喜ばれていましたか?いただいた感想の中で永田さんが嬉しかった内容があれば教えてください。
永田さん 現時点で200人以上の方が波佐見町を訪れてくださいました。それぞれの加盟店のおもてなしを、みなさん気に入っていただけたと思います。同時に町の人とふれあえたとか、会話がはずんだとか、そのような「体験」にも喜びを感じてもらえたのではないでしょうか。
私がいちばん印象に残っているのは、町の一大イベント「波佐見陶器まつり」に関東地方から足を運んでくださったご夫婦。私たちスチームシップが出店しているふるさと納税ブースに、招待状を持ってきて声をかけてくださったんです。「この招待状を送ってきたのはアナタたち?こんな素敵なものを受け取ったら、もう来るしかないじゃない!」と。私はこの言葉が本当にうれしかった。私たちの想いが届いて、寄附者さんの行動につながったと実感できました。
――町と人を繋ぐ素晴らしい企画ですが、一番苦労した点はどこですか?
永田さん 波佐見町は駅も空港もなく、正直アクセスしにくい場所にあります。その点はハードルになると感じていました。
しかし私たちの予想を超える、多くの寄附者さんが足を運んでくださいました。おそらく招待状だけを送っても、このような結果にはならなかったでしょう。この企画が成功したのは、私たちが制作している「ふるさとBOOK Like」の存在があってこそだと思います。この冊子はスチームシップが波佐見町の支援に携わってから7年間、毎年寄附者さんにお送りしているもので、寄附金の使途のご報告はもちろん、町に足を運んでみたくなるような情報をぎゅっと詰め込んでいるんです。この本に招待状を挟み込んでお届けしたからこそ、たくさんの寄附者さんが町を訪れてくださった。それは間違いないと思います。
――見えないけれど重要な仕掛けがあったのですね!今回、「チョイス事業者部門」を受賞されて、何か変化がありましたか?
永田さん 町の中の目に見えた変化というのは、まだまだこれからだと思います。ただ今回の受賞によって波佐見町のことを知った方も多いでしょうし「波佐見町にふるさと納税してみよう」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。もし、みなさんの中で波佐見町に対するイメージの変化があれば、私はうれしいです。
――永田さんは自治体職員ではなく、スチームシップの社員ですが、一般企業として自治体と協力していく難しさについて、どのように感じていますか?
永田さん 正直なところ、私たちは自治体の方と円滑にコミュニケーションをとっているので、そこまで難しいと感じたことはありません。それに自治体さんと私たち、お互いに得意分野があると思っています。
自治体さんは公平性を重視されますが、私たちはフラットな目線でプロモーションすることができる。一方で、町全体を巻き込んだ取り組みというのは私たちだけでは難しい。やはり自治体さんの協力が必要です。
今回の企画においても、波佐見町役場の方の理解と支援があってこそ実現できました。お互いの強みを活かしながら二人三脚で取り組んでいく。その点を私は意識していますし、波佐見町とスチームシップは、とても良いパートナーシップを築けていると思います。
――自治体とのコミュニケーションが重要だったのですね。さらに今後の取り組みについて、計画や予定があればご紹介ください。
永田さん この招待状企画をもっと広めていきたい。もっとたくさんの人を波佐見町に呼びたい。それが私の夢です。現在おもてなし加盟店は、ふるさと納税返礼品の提供事業者だけなんですよ。だから今後は、そうではない町の人たちと寄附者さんが交流できる仕組みをつくりたいですね。
何度も言いますが、私は波佐見町の「人」が大好きなんです。寄附者のみなさんに会ってほしい人が、町にはたくさんいます。あたたかくて、ちょっと世話焼きで、もてなし好きな波佐見町民。この町の人たちの魅力をもっと多くの人に知っていただけるよう、今後もチャレンジしていきます。そして絶対に夢を実現させます!
――ありがとうございました!
「ふるさとチョイスAWARD」2024では永田さんが受賞したチョイス事業者部門の他、未来につながるまちづくり部門やチョイス自治体職員部門、チョイスルーキー部門など全部で4部門での受賞自治体が決定している。どれも新しいふるさと納税の取り組みだ。これからの選択肢として参考にしてみて。
参考URL
「ふるさとチョイスAWARD」はここ
文/柿川鮎子