
和菓子屋さんに桜餅が並ぶと「もうすぐ春だ」と心が弾む。
さて、「桜餅」というとどのような和菓子を想像するだろうか?ピンク色で桜の葉に包まれている…というところまでは皆さん共通かもしれない。
しかし、その形はクレープ状だろうか?それともお団子型だろうか?
実は、桜餅には関西風と関東風の2種類がある。今回はそのふたつの違いについて調べてみた。
関東風と関西風の桜餅
桜餅は、関東風の「桜餅」と関西風の「道明寺」として親しまれているものがある。
関東風の桜餅は、小麦粉を水で溶いて薄く焼いたクレープ状の生地にこし餡を包んだものだ。発祥場所にちなんで「長命寺」と呼ばれることもある。
関西風の道明寺は、生地に道明寺粉(もち米を蒸して乾燥させ粗挽きしたもの)を用いる。関西風桜餅とも呼ばれ、つぶつぶした食感の生地が特徴的で、こし餡、または粒餡を包んだものだ。
日本あんこ協会による桜餅日本地図を見ると、地域によってどちらが主流なのか一見できる。
第一回全国桜餅一斉調査の結果(日本あんこ協会より引用)
秋田出身の筆者は、東京に来るまでは“桜餅”と言えば関東風のものという認識であった。東京に暮らし始めてから「桜餅に色味も販売時期もよく似た『道明寺』というのはなんだろう?」と疑問に思っていたものだ。
つぶつぶ食感が魅力の道明寺
鶴屋吉信 本店
関西風桜餅の道明寺を販売する、享和3年(西暦1803年)創業の京都西陣の京菓子司「鶴屋吉信」営業企画室の八重尾 祥子氏に話を聞いた。(以下「」内、八重尾氏)
「関東風の桜餅は「焼皮(やきがわ)」と呼ばれる生地で餡を巻いたものが主流ですが、関西風の桜餅は「道明寺粉(どうみょうじこ)」を使用しています。餅米を蒸していったん乾燥させ、荒くくだいたものです。これを再度蒸して生地を作り、餡を包んで仕上げます。桜の葉で包んで仕上げることは同じですが、生地により独特の食感の違いが楽しめます」
鶴屋吉信の「桜餅」
「鶴屋吉信」の「桜餅」は、機械ではなく手包みでていねいにこしあんを包んで桜の葉を巻くことで、道明寺のつぶつぶとした食感を残しているという。
「桜の葉は『大島桜』の葉を使用し、ミョウバン等の添加物を使用せず塩のみで漬けたものを使用しています」
一般的に桜の葉の色を良くするためにミョウバンが添加されることが多いのだが、鶴屋吉信では無添加のものを使用しているとのこと。
大島桜の葉は大きめで柔らかく香りが高いため、桜餅によく使用される一般的なものなんだとか。鶴屋吉信では純国産「静岡県 伊豆松崎産」のものを100%使用しているという。
創業以来ずっと道明寺を販売してきたのだろうか?
「記録に残っている範囲では、関東風の桜餅を販売したことは無いようです。50年前の写真にも、関西風の桜餅が記録されております」
桜餅日本地図の通り、京都では関西風が根強いことがうかがえる。
薄い皮にこし餡を包んだ関東風桜餅
銀座あけぼの
昭和23年創業の「銀座あけぼの」は銀座で育った菓子屋である。記録の範囲では創業以来ずっと関東風の桜餅を販売しているという。広報担当の山崎裕司氏に商品「さくらもち」について聞いた。(以下「」内、山崎氏)
「銀座あけぼのらしく他にはない桜餅にしたかったことから、一般的な2つ折りの皮に比べて手間のかかる『ふくさ包み』で仕上げています」
ふんわりしっとりとした優しい食感を目指し、生地には白玉粉を加えているとのこと。
銀座あけぼのの「さくらもち」
「中のこしあんは北海道小豆の風味を生かし、なめらかで上品にたき上げた自家製のこしあんです。桜の香りをより楽しんでいただきたく、小田原で摘みとった八分咲きの八重桜と、伊豆半島産のしっとりしなやかな桜葉を塩漬けして使っています」
ちょこんと乗った八分咲きの八重桜がなんとも可愛らしい。
最も売上が多いのは「ひなまつり」
桜餅は桜が咲く前から売っている印象がある。販売時期を聞いたところ、道明寺を販売している「鶴屋吉信」は毎年「立春」から4月前半まで、関東風の「銀座あけぼの」は毎年1月初旬から4月の中旬までだという。
調べたところ、他の和菓子屋さんの多くも似たような販売時期だった。桜の開花より先に桜餅を見かける、ということが多かった理由がわかった。
桜餅というと桜の開花のシーズンに売れ行きが上がるものだろうと思っていたが、最も売上が多いのは意外にも「ひなまつり」だという。
「3/1~3/3頃にかけては特に関東地方での売上が非常に高く、販売期間を通してダントツの売れ行きとなっています。桜餅の発祥にはひなまつりにまつわる由来はございませんが、桜色でかわいらしく、季節感があることから好まれる傾向にあると推測しております」(八重尾氏)
「ひなまつり当日にお買い上げくださるお客様が最も多いです。その年当日の天候にもよりますが、例年3万~4万個は当日販売させていただいております」(山崎氏)
確かにピンク色で可愛らしい見た目は「ひなまつり」と相性が良さそうだ。
今年の桜餅の販売は関西風、関東風共に終わってしまったところが多いが、次回は自分の地域で販売しているのはどちらのタイプかチェックしてみるのはいかがだろうか?
可能であれば食べ比べしてみると、それぞれのおいしさを再発見できるかもしれない。
取材協力
京菓匠 鶴屋吉信
HP:https://www.tsuruyayoshinobu.jp/
株式会社曙「銀座あけぼの」
HP:https://www.ginza-akebono.co.jp/
日本あんこ協会
HP:https://anko.love/
文/まなたろう