
聴覚障害は心不全リスクの上昇と関連
聴覚障害は、心臓の健康問題の前兆となる可能性があるようだ。新たな研究で、聴覚障害は心不全リスクの上昇と関連しており、両者の関連には、精神的苦痛が媒介因子として影響している可能性が示唆された。南方医科大学(中国)のXianhui Qin氏らによるこの研究結果は、「Heart」に4月8日掲載された。
Qin氏らは、長期健康研究プロジェクトであるUKバイオバンクのデータを用いて、研究参加時には心不全のなかった16万4,431人(平均年齢56.7歳、女性54.6%)を対象に、聴力と心不全発症との関連を検討した。媒介分析により、社会的孤立、精神的苦痛、および、神経症的傾向の影響についても評価された。参加者の聴力は、雑音下でDigit Triplets Testを用いて測定し、語音聴取閾値(SRT)として定量的に評価された。SRTは、聴力検査で用いられる指標の一種で、語音を50%の確率で間違わずに聞き取れる信号対雑音比(SNR)を示す。補聴器を使用していない参加者の聴力は、正常(SRT<−5.5dB)、不十分(SRT≧−5.5dB、SRT≦−3.5dB)、低い(SRT>−3.5dB)に分類した。
中央値で11.7年に及ぶ追跡期間中に4,449人(2.7%)が心不全を発症していた。解析の結果、SRTが1標準偏差上昇するごとに心不全リスクは5%上昇し(調整ハザード比〔aHR〕1.05、95%信頼区間1.02~1.08)、SRTの上昇に伴い心不全リスクの高まることが明らかになった。また、聴力が正常な参加者と比較した心不全のaHRは、聴力が不十分な人で1.15、聴力が低い参加者で1.28、補聴器を使用している参加者で1.26と、それぞれ有意に高かった。
研究グループは、「補聴器を使用している参加者と聴力が低い参加者の両方で、心不全の発症リスクが同様に有意に増加していたことは注目に値する。これは、補聴器が聴覚機能を改善できる一方で、心不全リスクの一因となる根本的な血管の問題に対処できていない可能性があることを示唆している」との見方を示している。
媒介分析からは、聴力と心不全発症リスクの関連のうち16.9%は精神的苦痛の影響によるものと考えられることが示唆された。社会的孤立と神経症的傾向の媒介効果はそれぞれ3.0%と3.1%だった。研究グループによると、精神的苦痛は「闘争・逃走」反応に関わるホルモン反応を引き起こし、動脈硬化を加速させ、心臓にさらなる負担をかける可能性があるという。
一方で、心臓の健康は、聴力と直接的に関連している可能性も考えられるという。Qin氏らは、「蝸牛には毛細血管が豊富に分布しており、内耳の代謝要求も高いため、これらの部位は局所的な循環器系の問題だけでなく、全身の血管障害に対してより敏感になっている可能性がある。したがって、聴覚障害は血管の健康状態を反映し、心不全を含む心血管疾患の早期かつ敏感な予測因子として機能する可能性がある」との見方を示している。
本研究の結論として研究グループは、「本研究結果は、聴力検査をより広範な心血管リスク評価の枠組みに組み入れることの重要性を浮き彫りにしている。また、聴覚障害がある人に対する心理的介入の強化が、心不全リスクを抑制する鍵となる可能性があることも示唆している」と述べている。(HealthDay News 2025年4月10日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://heart.bmj.com/content/early/2025/04/03/heartjnl-2024-325394
Press Release
https://bmjgroup.com/hearing-loss-linked-to-heightened-heart-failure-risk/
構成/DIME編集部
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