マルチバース(multi-verse)とは、多宇宙のことです。宇宙は英語でユニバース(universe)といいますが、「uni(単一)」を「multi(多数)」に置き換え、私たちが住む宇宙以外の宇宙の存在を表現しています。 宇宙の外には出られないため、私たちはマルチバースに行くことも観測することもできません。 どのような理論でマルチバースが存在するのか、また、メタバースとの違いについてわかりやすく解説します。
目次
マルチバースとは何か?
マルチバースとは、複数の宇宙があるという概念のことです。宇宙と訳される「universe」の「uni(単一)」を「multi(多数)」に置き換えた言葉で、私たちが暮らす銀河系を含む宇宙以外にも宇宙が存在することを指します。
もともと「universe」は、「単一」を表す「uni」と「変える」を表す「verse」がつながった言葉で、「すべてのものを1つに変えられた世界」という意味から宇宙を指すようになったとされています。
しかし、マルチバースの概念が誕生したことで、唯一の存在であった宇宙が数多くある存在の1つに過ぎないことになりました。今までは常識であった考え方や理論もくつがえされ、宇宙や生命に対する考え方も大きく変わってきています。

■ユニバースとの違い
ユニバースは、マルチバースという概念が生まれる前の言葉のため、宇宙は1つしかないという考え方がベースとなった単語です。
単に「宇宙」を指すこともありますが、「銀河」や「万物」「全人類」といった意味で使われることもあります。また、学術的な表現では「領域」や「母集団」の意味でも使用されます。
■メタバースとの違い
メタバースとは、「meta(調節した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせて生まれた言葉です。ユニバースやマルチバースが実在する宇宙を指すのに対し、メタバースはデジタル技術によってつくられた仮想空間を宇宙にたとえているだけのため、実在する宇宙とは関係がありません。
また、メタバースは現実の空間ではないため、ユニバースやマルチバースのように生身の人間は存在できません。メタバース内で活動するときはアバターの形を借り、他のアバターと交流したり、デジタル資産を所有したりします。
メタバースは現実空間ではありませんが、技術として実現可能であり、すでに存在している点も特徴です。VRやARなどの技術を用いれば、生身の人間もメタバースを見ることは可能です。
一方、マルチバースは実在の空間を指す言葉とはいえ、まだ科学的に存在が証明されていません。そのため、マルチバース内で存在することはもちろんのこと、マルチバースを見ることも現在の技術では不可能と考えられています。
マルチバースの存在を示す理論

かつて宇宙が1つしかないという考え方は、至極当然のことでした。私たちが暮らす宇宙が「見える空間」のすべてであるため、別の宇宙の存在を意識する必要はありませんでした。
しかし、現代では、宇宙が1つしかないと考えるよりも複数ある(=マルチバース)と考えるほうが、合理的かつ自然とされています。マルチバースの存在を示す理論はいくつかありますが、主な理論を紹介します。
■泡宇宙論
泡宇宙論とは、宇宙は無数の泡だとする考え方です。泡1つひとつが別個の宇宙を形成し、それぞれ異なる物理法則に従って存在しているとされています。
泡の中に星が存在することもあれば、存在しないこともあり、必ずしも星が集まって宇宙を形成しているわけではありません。また、泡と泡はお互いに関わりのないところで存在しているため、ある泡(宇宙)に暮らす生命体は、別の泡や泡中の存在を直接観測できないと考えられています。
なお、泡宇宙論はインフレーション宇宙論から生まれた概念です。インフレーション宇宙論とは、ビッグバンによって誕生した宇宙が誕生直後に急激に膨張したという理論で、銀河間の距離が徐々に広がっていることや構造といった宇宙が持つ多くの特性を説明できます。
インフレーション宇宙論では今後も宇宙の拡大は続くと予想され、拡大の過程において泡(宇宙)を無限につくり出すとされています。泡ごとに異なる物理法則が成り立つこともあれば、まったく同じ物理法則が成立することもあるかもしれません。泡宇宙論が成立するなら、遠く離れた宇宙で、私たちの暮らす宇宙と類似する生物や文明が存在する可能性もないとはいえないのです。
■多世界解釈(エヴェレット解釈)
多世界解釈とは、量子力学的な観点から複数の宇宙の存在を示した理論です。物理学者のヒュー・エヴェレットにより提唱されたため、エヴェレット解釈とも呼ばれます。
多世界解釈では、量子力学に基づく事象が発生するたびに新たな世界が生まれます。例えば、コインを投げて表が出る世界と裏が出る世界、雨が降りそうなときにレインシューズを履いて出かけた世界と履かなかった世界など、さまざまな事象が異なる世界として同時に誕生するのです。
多世界解釈によれば、人などの存在が何らかの選択をするたびに宇宙が分岐し、異なる選択をした宇宙がパラレルに存在します。人は自分や周囲の選択に基づいて存在するため、自分自身で知覚できる宇宙は自分が存在する宇宙だけで、他の宇宙に暮らしたり、他の宇宙の存在を証明したりはできません。
マルチバースを理解するヒント

宇宙の存在や成り立ちについて思考する宇宙論に馴染みのない方にとっては、マルチバースのイメージをつかみにくいかもしれません。少なくとも次のポイントを押さえておくと、宇宙論やマルチバースへの理解を深めやすくなります。
- 異なる宇宙へは移動できない
- 異なる物理法則が成立する可能性がある
- 検証できないことが多宇宙の存在を否定しない
いずれのポイントも、マルチバースを実感として理解するためのヒントになります。各ポイントについて見ていきましょう。
■異なる宇宙へは移動できない
民間人も宇宙に旅行できる時代になりましたが、どこまでも行けるというわけではありません。現時点では、成層圏を出て国際宇宙ステーション(ISS)に滞在したり地球を周回したりする程度で、さらに遠くへ移動できるようになったとしても、私たちが暮らす宇宙以外の場所への移動は不可能とされています。
また、マルチバースそのものは概念としては存在していますが、まだ存在自体が解明されたわけではありません。私たちが暮らす銀河系を含む宇宙以外に宇宙が存在しない可能性もあり、移動はもとより、存在を完璧に証明する理論もありません。
■異なる物理法則が成立する可能性がある
私たちが暮らす地球では、地球における物理法則が成立しています。高いところから低いところに物質が落下し、濃度が異なる物質を混ぜると均一化する方向に分子が移動します。
しかし、地球で成り立つ物理法則は、他の宇宙でも成立するとは限りません。高いところから低いところに物質が落下しない宇宙、濃度が異なる物質がお互いに混ざらない宇宙が存在する可能性があります。
同一宇宙内でも、同じ物理法則が成り立つとは限りません。例えば、地球で成立する法則はいずれも地球内でのみ実証されているため、他の星では成り立たない可能性もあります。理論的には同一宇宙では同一法則が成り立つものとして考えますが、宇宙は広く、すべての場所で法則成立を確認することは不可能なため、あくまでも「仮定」の域を出ません。
なお、物理法則以外についても同様です。細胞分裂や引力による落下といった地球では当然のこととされている事柄も、他の星や宇宙では起こり得るとは断言できません。細胞が分裂せずに個体が成長する世界、生命体を構成する細胞そのものが存在しない世界も想定されます。
■検証できないことが多宇宙の存在を否定しない
私たちが生活する宇宙は1つであり、現時点では他の宇宙への移動はできません。しかし、実際に存在を確認できないからといって、他の宇宙が存在しないことの証拠にはなりません。私たちには見えない場所や検証できない理論で、異なる宇宙が存在する可能性はあります。
例えば、目隠しされた状態で、今までに一度も立ち入ったことがないビルの一室に案内されたとしましょう。隣に部屋があるのか、階上階下に部屋があるのかは、察知することはできても確証はできません。
また、そもそも自分のいる部屋以外に部屋があるかどうかもわかりません。ビルの図面があればわかる可能性はありますが、図面が正確である証拠はなく、図面自体が存在しないケースもあります。
宇宙も同様です。現在の科学では自分がいる宇宙から抜け出せないため、別の宇宙があるのかどうかはわかりません。また、別宇宙が存在するという理論あるいは存在しないという理論も、その理論が成立するのは自分がいる宇宙の法則に従っている場合のみのため、別宇宙の存在・非存在を証明する証拠にはならないのです。
マルチバースが生み出す新たな可能性

マルチバースの存在を推測できるものの、存在自体を証明できません。しかし、宇宙が1つではないという考え方は、人類が暮らすこの世界に少なからぬ影響を及ぼします。例えば、次のような事柄がマルチバースを肯定することで誕生・発展することがあります。
- パラレルワールドの世界観
- 高度なセキュリティ基準
- 資産を守る技術の発展
それぞれの可能性について見ていきましょう。
■パラレルワールドの世界観
この世界はさまざまな選択により成立しています。「運動靴を履いて会社に出かける」「会社帰りにコーヒーショップに寄る」といった個人的な選択もあれば、「A国との国交を断絶する」「関税率を上げる」といった国際社会が大きく動く選択もあります。
しかし、どのような選択も、多少なりとも世界を変える点では同じです。例えば、会社帰りにコーヒーショップに寄ったことで運命の相手に出会い、別の場所で働くようになり……と少なくない人々の生活に影響を及ぼす変化が生じることがあります。
現実世界では自分の生活以外の生活を体験できませんが、創作の世界なら他の生活も経験できます。ある選択をした世界としなかった世界が同時並行的に存在するパラレルワールドを創作すれば、エンターテインメントが空間的だけでなく時間的にも広がりを増し、さらに面白いものになるでしょう。
■高度なセキュリティ基準
マルチバースが存在するかもしれないという考え方は、私たちに緊張感を与えます。現在の科学では実証できないことや解明できないことであっても、その存在を否定されるわけではないため、絶対的な安全は存在しないことになります。
例えば、「理論的に侵入不可能」とされるセキュリティシステムであっても、その理論が成り立たない世界では侵入が可能なだけでなく、容易に情報を取り出したり書き換えたりできるかもしれません。現状のセキュリティシステムに安住するのではなく、多方面からの脅威に対して強化するためにも、マルチバースの考え方は有用です。
また、近年はメタバースの活用が活発化しています。仮想空間に用いたデータを共有する際にも、高度なセキュリティ基準が必要です。想定されうる脅威だけでなく想定されない脅威も視野に入れ、セキュリティ基準を強化していくことが求められます。
■資産を守る技術の発展
私たちが理解している事柄がすべてではなく、常識とされる物理法則も成り立たない世界があるというマルチバースの概念は、メタバース内でのセキュリティ対策にも活かされるようになってきました。
また、メタバース内だけでなく現実社会においても、セキュリティ強化は必須です。理解を超えた方向から大切な資産に損害が与えられたり、資産そのものを奪われたりするリスクも想定されます。マルチバースの概念を活用し、資産を守る技術を発展させていくことが必要です。
マルチバースについての理解を深めよう

マルチバースは複数の宇宙があるという概念です。私たちが暮らす宇宙以外にも宇宙が存在することは、泡宇宙論や多世界解釈などの多くの理論から真なのではないかと考えられています。
また、マルチバースの概念を理解することで、私たちの生活も変わります。エンターテインメントがより複雑かつ面白いものになったり、セキュリティの基準や技術が向上したりするかもしれません。
構成/林 泉







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