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在宅緩和ケア医を追ったドキュメンタリー映画「ハッピー☆エンド」が示す新しい医療の選択肢

2025.04.22

現在公開中の映画『ハッピー☆エンド』は、末期がんとその家族5組に密着した、笑って泣けるドキュメンタリー作品だ。作中には、2018年に亡くなった樹木希林さんの生前の講演時の映像も登場。佐藤浩市さんと室井滋さんがナレーションを務め、作品に味わいと深みを持たせている。

病気と死を扱う作品でありながら、苦しみや悲しみはほとんど描かれない。患者は家族と共に笑い、明るく最期の時を「自分の家」で迎えている。これを実現しているのは、萬田緑平医師の在宅緩和ケア医療だ。死への旅路を、優しく温かい光と共に描いた監督・オオタヴィンさんにお話を伺った。前編では作品の制作背景と、死や医療への思い込みについて、ここでは、撮影背景や監督自身の私生観について伺った。

在宅緩和ケアを追った爆笑号泣の感動ドキュメンタリー映画「ハッピー☆エンド」に込められたオオタヴィン監督の思い

生きることは苦難の連続だ。その中でも、最も苦しく恐ろしいことが、自分が死ぬことではないだろうか。「死ってそんなに怖くないよ」と温かく語りかける映画が、現在公開中...

死を意識するから、生が輝く

映画『ハッピー☆エンド』は、自分の家で死を迎える5人の末期がん患者たちと、在宅緩和ケアを行う医師・萬田緑平先生に密着した作品です。死は怖くないと思うと同時に、家族の大切さもわかりました。

前編では、私が萬田先生の講演会に行って、映画化を決意したことをお話ししました。萬田先生にはご快諾いただきましたが、末期がん患者の方の家の中までカメラが入れるかどうかという不安がありました。

でも、その心配は杞憂でした。萬田先生と患者さんの信頼関係があり、ご本人やご家族が緩和ケアを広めてほしい、記録として残してほしいというご好意をいただくことができたのです。

撮影は、萬田先生の診察と往診に半年ほど密着しました。作品には、5組の家族が登場していますが、実はその3倍以上の家族に取材しています。撮影時に気をつけていたことは、本人と家族の気持ちを優先すること。“見えない一線”を感じとり、その先は踏み込まないようにしていました。それは萬田先生の姿を見ていれば、自ずとわかります。

編集は、撮影させていただいた方の言葉が一人歩きしないように、注意を払いました。患者さんとご家族を第一に考えて制作を行なったのです」(以下「」・オオタヴィンさん)

萬田先生ご自身も、患者ファーストの医療を行っていました。

「まず、驚いたのは、患者さん一人の診療時間が長いことでした。毎回だいたい1時間くらい、長いときは2時間くらいかけていたのです。萬田先生は、相手の話をじっくり聞き、ときにブラックとも言えるジョークを飛ばして、患者さんと一緒に大笑いする。ときには悩みに答え、生活のアドバイスも行なっていました。“立ち上がることが大切です”と、筋トレの指導もしていたんですよ。

あとはご家族の方の相談にも乗っており、“こんなお医者さんが、日本にいるんだ⁉︎”と驚くと同時に、きっと昔のお医者さんはこうだったんだろうな……とも感じたのです」

医療システムが整う1970年代半ばまで、多くの人は自宅で生まれ、死んでいたと聞いたことがあります。

「厚生労働省の『人口動態統計』というデータを見ると、1951(昭和26)年は、82.5%の人が、自宅で亡くなっています。それが経済成長と共に減っていき、1975(昭和50)年には逆転する。そして自宅で死ぬ人は減り続け、2009年には12%になります。

最近まで、約9割の方が病院で亡くなっていましたが、コロナ禍以降、在宅死を選ぶ人がじわじわと増え始めているのです。

それはきっと、コロナで面会謝絶になって、親の死に目にも会えないまま永遠の別れになることについて、疑問を覚える人が増えたこともあるんでしょうね。

それに終活ブームのおかげで、治る見込みがない末期患者への過剰な延命措置も知られるようになり、“在宅看取り”という言葉も知られるようになりました。

とはいえ、繰り返すようですが、私は病院医療を否定しているわけではありませんし、在宅緩和ケアを礼賛するつもりもありません。ただ、入院医療とは別の選択肢があることを知ってほしいと思っています。まだまだ、病院で死ぬものだという思い込みをしている人は多いですから。

『ハッピー☆エンド』は、在宅緩和ケアの“バーチャル体験”ができる映画だとも感じました。でも、全力で診察してくれる萬田先生、世話をしてくれる家族、一緒に生きてくれるペットがいない人にとっては、病院医療の方が合っているとも思いました。

「それでいいんです。それぞれの死のかたちはあります。だって、誰も、死は一生に1度のことであり、そのときみんな初心者なんですから。ただ、“あなたの命は数か月後に終わりますよ”と言われたときに、選択肢はいくつかあったほうがいいと思うんです。

選択肢を考えることは、自分の死について考えることと同義です。死を考えると、不思議と生きている時間が輝いてくる。それは、生の延長線上に死というゴールがあるからです。特に都市生活者は、死という“自然”から遠く離れています。ときどき死を考えると、生が充実すると思いますよ」

映画に登場する患者さんは、常に死を意識しているから、生きていることを噛み締め、精一杯生きている。今ある時間や縁に感謝しながら懸命に今を生きているから、人に優しく、言葉も深く、表情が輝いていると感じました。

父は交通事故で即死、母は旅先で亡くなる

死を受け入れながらも、楽しく生きようとする患者さんたち。その力強さを浴びているようにも感じる作品でした。オオタ監督ご自身の死生観もお聞かせください。

「僕の家系は、突然死が多いのです。まず、私の死生観に大きな影響を与えたのは、7歳の時に亡くなった父です。旅行先で交通事故に遭い、即死したのです。

これは子どもにとって、ものすごくショッキングな出来事でした。このとき、“人はいつでも簡単に死んでしまう。だから今を懸命に生きよう”と感じたのです。いつ死ぬかわからないという感覚があるから、家を出る時は、常に部屋を整理整頓してからにしているんです。

その上の世代である、おじいさんもおばあさんも、元気なまま突然死しています。いわゆる“ピンピンコロリ”ってやつです。僕は、ある時点まで、彼らのように長生きして、好きなことをギリギリまで楽しんで、突然死ぬことが理想的だと思っていたんです。

でもこの考えが変わったのは、数年前に母が亡くなったことです。旅先の温泉で急死してしまったんです。お風呂とお酒を楽しんで、翌朝冷たくなっていたと聞きました。僕は父と母の死に目にあえていないんです。

母にとっては苦しむことなく旅立てて幸せだったと思いますが、残された私にとっては、喪失感が大変強い。数分でもいいから、おふくろの目を見て“ありがとう”と言いたかったし、手を握りたかった。

生と死の境界線を考えているときに、出会ったのが、萬田先生です。あの底抜けに明るいキャラクターで、患者さんが最期まで自分らしく生き続けるための医療を続けている。この先生の元で親を看取りたかったという思いも生まれました」

萬田先生は、患者本人だけでなく、家族にも寄り添っていました。映画は家族という存在の尊さも伝えています。この映画を機に、家族の在り方を見直す人もいるかもしれません。

「萬田診療所がある群馬県で取材させていただいた方の、多くの方が三世代もしくは二世代同居でした。

映画に登場する患者さんの多くに、お子さんかお孫さんがいました。在宅緩和ケアだから、自分が死んでいくことを孫子に見せる事で命の尊さを伝えられます。その姿から、たくさんのヒントが得られるはずです。

人間は“2度死ぬ”と言います。1回目の死は、この世から肉体が消滅したとき。2回目の死はその人の存在が忘れられたときです。映画に登場してくださった患者さんは、映画を観た観客の心の中で生き続けるでしょう。

映画をご覧いただいた方が、家族や親しい人と、生き方、逝き方について話をしていただければ嬉しいです。それは、今日を精一杯生きることにつながっていくと思いますよ」

この映画で気づくのは、笑うことの大切さだ。笑いは、恐怖も悲しみも和らげる力がある。目の前の人を笑わせて、元気になってもらうことで、自分も元気になる。

萬田医師は、この循環を生み出し、余命半年といわれた患者が、数年以上存命することも多いという。まずは自ら笑い、いい循環を生み出すこと。これが自分と周囲の環境のウエルビーイングになるのだ。

まほろばスタジオ主宰 映画監督・オオタヴィンさん
https://www.mahoroba-mirai.com/
監督、撮影、編集、デザインなど映像制作のすべてをひとりで兼任する。医食同源・食養生をテーマにしたロングセラー映画『いただきます1』で監督デビュー。自由教育の1年間を追った『夢みる小学校』で日本映画批評家大賞ドキュメンタリー部門を受賞。その後、公立学校にフォーカスした『夢みる校長先生』、 公立学校給食をテーマにした『夢みる給食』で高い評価を得ている。

医師・萬田緑平さん
1964年生まれ。 1991年、群馬大学医学部卒業。1992年4月より、群馬大学附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行なう中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から9年にわたり緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人の看取りに関わる。現在は、自ら開設した「緩和ケア 萬田診療所」の院長を務めながら日々を過ごす。「最期まで精一杯生きる」と題した講演活動は450回を超え述べ5万人が参加。

映画『ハッピー☆エンド』

(C)まほろばスタジオ

2025年4月18日(金)よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
/ 上映時間:85分 / 製作:2025年(日本) / 配給:新日本映画社 https://www.happyend.movie/
コロナ禍で病院の面会が禁止される中、心身の苦痛を緩和し、自宅で自分らしい暮らしを送る在宅緩和ケアという選択肢が注目を浴びた。在宅緩和ケアを専門とする萬田緑平は、住み慣れた家で最期まで家族やペット、趣味に生きることを選択した患者に寄り添う。
出演:萬田緑平、樹木希林ほか。ナレーション:佐藤浩市、室井滋。

撮影/五十嵐美弥(小学館) 取材・文/前川亜紀

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