
高校スポーツ界に変化が起きようとしている。
近年、プロスポーツと同様に科学的なアプローチを行うことで結果を出している高校が増えている。
今春、春の甲子園に出場をした滋賀短大附属高校もその一つだ。
全国でも珍しいコンディション管理のプロ導入事例
春夏合わせて今春甲子園初出場を果たした滋賀短大附属高校野球部は、選手たちの「コンディション管理」のスペシャリストを導入している。
野球部顧問の水野先生は話す。
「高校生は毎日部活をしているので、疲れている中で野球をすることが当たり前になってしまっています。
常に支えているから自分のベストコンディションを知らない子がほとんどです。目に見える怪我や変化が現れてはじめてケアに意識を向けるんです。
それではダメだと普段から指導をしていたのですが、みんなの意識を変えるのは非常に難しいものがありました」
そんな中、一つの転機が訪れる。
23年の秋季大会のある試合、滋賀短大附属高校は試合には勝ったものの、試合中に足を攣る選手が複数人出たことがあった。
「そのタイミングで選手たちも、ケア不足を痛感したんです。
同時に、試合を見に来てくれていたアスリートアロマトレーナーの小林さんから『私に手伝えることはないか』とお声がけをいただきました。
これをきっかけに、プロのサポートのもと、野球部のコンディショニング管理に力を入れるようになりました」
小林さんは、同高校で23年度より新設された「スポーツ健康コース」の講師として同校に関わったのをきっかけに、たまたま教え子の試合観戦に来ていたという。
トレーニングの一つとして、コンディション管理やフィジカルケアを導入した結果、24年秋季近畿大会では大阪の名門・履正社高校に4-1で勝利。
準々決勝で天理高校に敗れるものの、選抜高校野球(春の甲子園)の切符を手にした。
「食トレなどに力を入れる高校は多々ありますが、身体のメンテナンスやコンディション管理にプロのサポートをもらいながら本格的に取り組んでいる高校は多くありません。甲子園出場は、こうしたアプローチが身を結んだと感じています」(水野先生)
ベストコンディションを発揮できたという履正社高校戦
子どもたちだからこそ、ケアが一番大事
現在、小林さんは月に1〜2回の頻度で選手たちのフィジカルケアをしている。
「アスリートアロマトレーナーは、アスリートの疲労回復のプロを目的とした民間資格です。怪我の予防やパフォーマンスの維持・向上が役割です。
滋賀短大附属高校に限らず、全国レベルを目指す運動部では練習量が多い一方で、選手たちのケアが圧倒的に足りていません。
その一番の理由は『時間不足』です。
高校生は通学に1時間以上かける子も多くいますし、毎日、授業を受けてテストや受験勉強もしないといけません。そして、毎日、部活をしているわけです。
そのような生活を送っているので自宅でちょっとセルフケアをしただけでは回復が追いついていないんです」
こうした現状に、小林さんは警鐘を鳴らす。
「私の息子も野球部で怪我をした経験があります。短い高校生活の中、大きな怪我をしてしまうと一生後悔することになってしまします。
学校でコンディション管理ができる環境があれば、時間がないという生徒さんの問題も解決できます。滋賀短大附属高校の野球部のみんなも、遠方から来られている子たちも多いですが、月1〜2回、一回あたり30分程度のケアでも確かな効果があります。
さらにパフォーマンス向上という成果につながれば、セルフケアに対する意識も変わるはずです。生徒さんたちに大切なのは、ケアの効果を実感すると言う成功体験なんです。
トレーニングにおいてコンディショニングは欠かせないものという考え方がもっと広がってほしいなとは感じます」
※コンディショニング風景(イメージ)
小林 知子(こばやしともこ)さん
一般社団法人アスリートアロマコンディショニング協会認定アスリートアロマトレーナー
かねてよりアロマセラピストとして活動しており、知識を深めたいと考えていたところ、次男の疲労骨折をきっかけにアスリートアロマコンディショニングを知り、資格を取得。活動をはじめる。これまでにプロアスリートを始めスポーツに励む子どもたちのケアを行ってきた。
取材・文/峯亮佑