
リバーサルフィルムと呼ばれるものをご存知だろうか。現像済みの写真フィルムといえば、セピア色のネガを連想する人が大多数のはずだが、カラーリバーサルフィルムは現像した段階で既に色がついている。
ネガフィルムよりも強い発色、「見たまま」の立体感、そして臨場感に恵まれ、見た者を圧倒するのがリバーサルフィルムで撮った画の特徴だ。しかしその反面、リバーサルフィルムは失敗が許されない。現像段階で明暗を補正することができず、撮影当時のカメラの設定が全てという代物だ。
そうしたこともあり、リバーサルフィルムは昔から「上級者向けフィルム」と言われている。その上、この4月からリバーサルフィルムはさらなる価格高騰に見舞われたのだ。
発狂したかのような物価高
4月1日のことである。
「澤田さん、大変だよ! またまた価格改定だ!」
筆者がいつも通っている写真屋の主人が、叫ぶように声を上げた。
「いつもは1ヶ月前とか、必ずしばらくの間を置いてアナウンスしてたんだけど……今回は富士フイルムが急に値上げしてきてさ。今まで3,000円ちょっとで売ってたブローニーのVelvia50、これからは5,000円台だ!」
ちょっ、ちょっと待てオヤジ! 何なんだよその狂ったような値上がり幅はっ!?
それからすぐ、筆者はスマホでプレスリリースをチェック。すると、オヤジの言葉通りの内容のリリースが確かにあった。
お客さま各位
平素は富士フイルム製品をご愛顧賜り、厚く御礼申し上げます。
富士フイルムイメージングシステムズ株式会社(本社︓東京都品川区、代表取締役社⻑︓松本 考司)は、レンズ付きフィルム「写ルンです」の包装仕様を変更いたしますので、ご案内申し上げます。
また、写真フィルムにつきまして部材・原材料価格、輸送コストの高騰が進む中、⽣産効率の向上や経費節減等を⾏い、コスト吸収に努めてまいりましたが、企業努⼒のみで吸収することが困難であるため、「写ルンです」を含む写真フィルムの一部の製品について価格改定を実施いたします。事情をご賢察の上、何卒ご容赦賜りますようお願い申し上げます。
今後とも、富士フイルム製品に変わらぬご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
これによると、リバーサルフィルムの135と120は約31~52%の価格改定即ち値上げだそうだ。
そんなわけで、ただでさえ高価だったリバーサルフィルムは35mm、ブローニー問わずすっかり「高級品」になってしまった。
はっきりとした発色で、あたかも現代のデジカメで撮影したかのような画も撮ることができるリバーサルフィルム。筆者はネガフィルムよりもこちらのほうが大好きなのだが……。6×6カメラでは12枚しか撮れないブローニーフィルム1本が、米を5kg買っても釣りが戻ってくるような値段になってしまった。
こうなったら、今後はダイヤモンドを奥歯で嚙み砕くような気持ちで1枚1枚大事に撮影しよう。
大阪御堂筋を撮影
さて、ここは大阪。
静岡県民の筆者は、大阪よりも東京へ行く機会のほうが圧倒的に多い。だからこそ、あまり足を運ばない街は撮影する価値がある。
幸いにも、この日は晴天。Agfa Isolette Vを手に、御堂筋沿いを撮影する。
筆者のIsolette Vは、なぜか3m以上の焦点距離にレンズを回すことができず、それ故に広い野外での撮影にはあまり向いていない。しかし、12枚に1枚(つまりブローニーフィルム1本につき1枚)は「おっ!?」というような画が撮れる不思議なカメラでもある。
そんな相棒を連れて、御堂筋を散歩してみた。
撮影日は、大阪万博開幕直前の頃合い。したがって、御堂筋も万博の垂れ幕があちこちに見受けられた。
リバーサルフィルムでプロ並みの写真を撮るための第一歩、それは「持っているカメラの特製を把握すること」である。
そのためには、予めカラーネガフィルムかモノクロフィルムでの撮影を重ね、「このカメラはこういう写り方をするんだな。ならば、晴天の時は少し工夫して設定をこうする」というような思案を繰り広げる必要がある。筆者のIsolette Vの場合、露出計が示す数字よりも気持ち暗めになるよう絞りとシャッター速度を調整する。
日差しがカンカンに照っていれば、暗めの設定を微塵も匂わせない写真を撮影することができる。運とタイミング次第では、光と影でダイナミックな立体感が構築された画を物にすることも可能だ。
リバーサルフィルムは「難しいフィルム」ではない
Isolette Vは、二重露光防止装置がついていない「昔のカメラ」である。
時たまフィルムを巻き上げてないことを忘れて2回目のシャッターを切ってしまうことがあるが、一方で二重露光は必ずしも悪いアクシデントではない。わざと二重露光を行う撮影法もある。
リバーサルフィルムが「現像段階で補正の利かないフィルム」であることは間違いない。が、だからといって極端に身構える必要もないと筆者は考える。
筆者の感覚でコツを書けば、「明るくなり過ぎないことに注意する」ということか。暗くなり過ぎるのは、もちろん限度はあるが明るくなり過ぎるよりもまだ許容できる。そもそもの発色が良いから、暗い中にもどこかに鮮やかな色が写っていればそれが心地良いアクセントになる可能性が高いからだ。
とはいうものの、フィルム写真は世界人口の数だけ「撮り方」が存在する道楽。
目玉が飛び出るほど価格が高騰してしまったリバーサルフィルムだが、それでもなけなしの小遣いをはたいて撮影する価値はまだまだある。
【参考】
「写ルンです」包装仕様変更および写真フィルム一部製品の国内価格改定のお知らせ-富士フイルム
文/澤田真一
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