
コーエーテクモホールディングスが勢いづいています。
3月21日に発売した「ユミアのアトリエ」が1週間で出荷本数30万本を突破。シリーズ最速での到達となりました。1月17日に販売した「真・三國無双 ORIGINS」は1ヶ月ほどで100万本を突破していました。
コーエーテクモは2月に新経営体制を発表したばかり。経営の再スタートに追い風が吹いています。
開発するゲームの質が従来のものとは一変
「ユミアのアトリエ」は高品質なグラフィックと魅力的なキャラクターが人気のアトリエシリーズの最新作。このゲームは入手したアイテムを調合しながら物語を進めるところに特徴があります。しかし、最新作ではアクション性を高め、これまでの作品とは一線を画すゲーム性を持たせました。
従来のシリーズのファンからは違和感を指摘する声が一部あるものの、SNSではアクションシーンの動画が多数投稿される結果となり、このゲームを盛り上げる一因にもなっていました。シリーズ最速30万本突破という結果が伴っていることからも、方向性としては間違っていなかったと言えるでしょう。
既定路線の見直し、というのは近年のコーエーテクモの一つのテーマになっている印象を受けます。1月17日に発売した「真・三國無双 ORIGINS」もそうでした。
三國無双はコーエーテクモの主力タイトルの一つですが、新シリーズの発売を重ねるごとにマンネリ化が進み、業績へのインパクトも少なくなっていました。
前作の「真・三國無双8」はマンネリ打破を掲げて開発を進め、オープンワールドを採用したものの、不評に終わります。ゲーム空間を広げ過ぎた一方でコンテンツ不足が目立ち、密度が失われてユーザー体験が置き去りにされてしまったのです。空間を広げることが目的化してしまったかのような印象を受けました。
最新作は「ORIGINS」と銘打っている通り、もともとこのシリーズが目指していたタクティカルアクションというコンセプトに原点回帰しました。キャラクターの数を絞り込んでストーリー性を重視。戦闘シーンも濃密で、密度が失われた前作の問題点をすべて払拭したかのような作り込みを行っているのです。
Nintendo Switch2向けの新作タイトル3つを発表
コーエーテクモは7期連続の増収を達成するなど、業績は堅調に推移しています。ただし、足元ではやや弱含んでいました。
2024年3月期は期初に2割もの増収を見込んでいたものの、売上高は7.9%増に留まりました。大型タイトル「Rise of the Ronin」や、モバイルゲーム「信長の野望 出陣」などの期待の高いタイトルをリリースしましたが、売上計画を達成することができなかったのです。
想定する売上に届かなかったため、営業利益を3割近く落とす結果となりました。
2025年3月期は6.4%の増収を予想しています。しかし、第3四半期累計期間においては14.0%もの減収で通過していました。
「真・三國無双 ORIGINS」と「ユミアのアトリエ」がヒットしたことにより、潮目が大きく変わろうとしています。
コーエーテクモの通期決算発表予定日は4月30日。それを前にして株価が反応しています。トランプ関税の突然の相場変動により、4月7日に一時1926円をつけたものの、4月10日には2282円まで上昇。年初来高値をつけました。市場の期待感は高まっています。
今期(2026年3月期)にも期待ができます。忍者アクションゲーム「NINJA GAIDEN 4」のリリースを秋に控えているのです。13年ぶりにプロジェクトが再始動するもの。開発はこのシリーズを手がけてきたTeam NINJAと、「ベヨネッタ」などの名作アクションゲームを手がけたプラチナゲームズが手を組みました。
コーエーテクモは、6月5日に発売が決まったNintendo Switch2向けソフトをリリースすることを、早くも発表しています。2025年冬に発売される新作「ゼルダ無双 封印戦記」は、「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の世界観を承継したシリーズ最新作。それに加え、「信長の野望・新生 with パワーアップキット Complete Edition」や、2023年2月に発売した「WILD HEARTS」のNintendo Switch2版も発売します。
アメリカの突然の高関税でソフトメーカーにも影響が…
コーエーテクモは2025年6月から新たな経営体制に移行する予定です。
襟川陽一社長は会長となり、新社長には鯉沼久史氏が就任します。鯉沼氏はコーエーテクモが光栄だった時代に入社し、戦国無双シリーズなどの人気作の開発を支えた人物で、襟川陽一氏からの信頼が厚いことで知られています。襟川氏が74歳で、鯉沼氏は53歳。年齢も若く、新体制のかじ取りを担う人物として相応しいようにも見えます。
ゲーム業界はトランプ関税の影響で見通しが悪くなってきました。コーエーテクモのようなソフト開発がメインの会社への直接的なインパクトは低いものの、任天堂やソニーなどのゲーム機を開発する会社はアメリカへの輸出品に関税が課されることにもなり、影響は大きいでしょう。
日本に対する24%という高関税は10%に引き下げられました。しかし、中国製品には125%の相互関税が課され、これに発動済みの追加関税が加わると、累計の関税率は145%にもなるのです。任天堂もソニーも中国に製造拠点を持っており、中国で製造したものに対しては関税の影響で価格が2倍以上になることを意味します。
仮に両社が販売するゲーム機がアメリカで不調ともなると、間接的にソフトの開発メーカーは影響を受けることになります。
この難局を新体制のコーエーテクモがいかにして乗り切るのか。今期の注目ポイントの一つとなるでしょう。
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文/不破聡