
春の息吹と共にようやく寒い冬から解放される時季。そして今年の夏フェスのラインアップに胸が鳴り出す季節……! フジロックやサマソニはすでに出演アーティストの一部を発表していますが、どこのフェスに参戦しようか、迷っている人は多いんじゃないでしょうか。
赤字続きや存続の危機が囁かれるケースも
広大な会場で音楽の生演奏を楽しむだけではなく、カルチャーの発信やビジネスの開拓の場としても多種多様なコミュニティを包摂できるのもフェスの魅力のひとつ。「フェスって、パリピな若者の文化でしょ?」と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。確かにアメリカやヨーロッパのフェスの統計を見ると参加者の年齢は18〜35歳の層が大半を占めていますが、40〜60代の層が約3割という人気イベントも少なくありません。中年になってもバリバリ現役の人気アーティストたちがヘッドライナーを務めるなど、世代を超えた多くの人にとって最も楽しみな風物詩なのです。
しかし、数年前から各地のフェスに暗雲が立ち込めている様子。パンデミックの危機を乗り越えて無事に復活したと思いきや、昨今の世界情勢の影響でご多分に漏れずチケット価格が高騰しており、売り上げが低迷しているのです。50年以上の歴史を誇る『グラストンベリー・フェスティバル』やカウンターカルチャーの代名詞『バーニングマン』など、世界的に有名なフェスでさえ赤字続きや存続の危機が囁かれ、開催中止という苦渋の決断を強いられるケースも増えています。去年UKでは60以上のフェスがキャンセルされ、米国の公共放送局NPRが「音楽フェスは死んだ」と宣言する事態に。
さらに気候変動の影響で健康や安全へのリスクが年々高まっていることから、脱水症状や熱中症だけでなく、突然の山火事や豪雨など自然災害に見舞われる覚悟も今まで以上に必要となります。去年オーストラリアでは、山火事警報と熱波のダブルパンチで現場が大混乱となり、主催者の準備不足が命の危険を招いたと批判されたフェスもありました。
あらゆる困難を抱える世界のフェス事情ですが、その一方で、お金を払えば誰でも楽しめるような商業的フェスとは一味違う、小規模で実験的なフェスも根強い人気です。数百人から数千人と規模は小さいですが、「客」ではなく「共同体」の意識で参加する人達によって支えられているローカルフェスも世界各地で健在です。特にヨーロッパでは芸術文化活動を推奨するとして、国から減税措置や助成金を受けるフェスも多いのだとか。
欧米諸国のフェス業界が苦戦を続ける一方で、経済成長に伴う中流階級の拡大もあっていま最も音楽ツーリズム市場として成長が見込まれる地域が東南アジアです。
タイの『ワンダーフルーツ』やシンガポール『ズークアウト』など、毎年大勢の参加者が国内外から集まっています。地元経済への貢献も期待されるので、アジア各地でフェスを中心とした音楽ツーリズムが勢いを増す予感です。フェス初心者の方もベテランの方も、夏フェス、安全に楽しく盛り上がっていきましょう!
スケールが桁違い!海外フェスティバル
シークレット・ソルスティス
白夜で有名なアイスランドの首都・レイキャビクで開催。5200年前にできた洞窟のステージもある。過去には1億円超のVIPチケットも。
コーチェラ
2000年代に成長を遂げた世界最大の音楽フェス『コーチェラ』はカリフォルニア州の砂漠地帯で2週にわたり行なわれる。動員数はなんと60万人以上!
グラストンベリー・フェスティバル
英国の『グラストンベリー・フェスティバル』ではフードエリアに高さ20mの風車やソーラーパネルを設置し、300台の冷蔵庫のために自家発電。
文/キニマンス塚本ニキ
世界は行きたいフェスであふれている!
キニマンス塚本ニキ
東京都生まれ、ニュージーランド育ち。英語通訳・翻訳や執筆のほか、ラジオパーソナリティやコメンテーターとして活躍中。近著に『世界をちょっとよくするために知っておきたい英語100』(Gakken)がある。
撮影/干川 修 ヘアメイク/高部友見 編集/寺田剛治 写真/REX/アフロ