
今年も春の訪れを告げる桜を愛でるシーズンがやってきた。毎年この時期になると全国の桜の名所は多くの花見客でにぎわい、最近ではインバウンドも押し寄せる。特に人々をひきつけているのが、新種の桜である。
桜の新種が続々
その筆頭が、神奈川県南足柄市発祥で2000年に品種登録された‘春めき’だ。ナビタイムジャパンの調査によれば、春めきの名所のひとつ「一の堰ハラネ」はインバウンド客が多く、桜人気に押され昨年は、前年比32倍も滞在率がアップしたという。東京に目を転じると、22年9月に新品種と認定された、江戸川区にある区立北小岩小学校の校庭に咲く‘北小岩ざくら’が注目を集めている。
「サクラの種類は野生種と、栽培品種の2つに分類できます。栽培品種は、客観的な血縁関係に基づく野生種と異なり、人が主観的に価値を認めたものに名付けたもので、‘染井吉野’‘河津桜’‘枝垂桜’などが広く知られています」と教えてくれたのが、さくら博士こと、森林総合研究所の勝木俊雄さんだ。
‘春めき’‘北小岩ざくら’は共に栽培品種。前者はカンヒザクラとシナミザクラの交雑種、後者はオオシマザクラ系といわれる。
栽培品種は100種類以上あるが、日本に自生する野生種の新種は極めて少ない。そもそも野生種は17年まで9種しかなく、新種は約100年前に発見・命名されたオオシマザクラ以降途絶えていた。その歴史に新たな1ページを加えたのが、野生種の10種目となったクマノザクラだ。発見者は勝木さんで、18年に、地名にちなんだ学名を発表した。今では春になると多くの観光客が訪れ、その美しさに息をのむ。
「桜は観光や町おこしのシンボルともいわれますが、地元の教育関係者から、『地元に誇れるものが発見されたことで、子供たちに地元の良さを知ってもらうきっかけとなった効果が大きい』と聞いた時はうれしかったですね」(勝木さん)
今年は新種の桜を楽しみながら春の到来を感じてほしい。
【DIMEの読み】
栽培品種は100種類以上といわれ、〝美しくはかない〟風情はインバウンド誘致にも一役買う。土産物などを作るなど、観光の目玉とする自治体も多く今後も全国で新種が増え続けていきそうだ。
〈熊野川流域〉100年ぶりに発見された野生種
クマノザクラ
紀伊半島南部の熊野地方山間部に広く自生しており地元では長くヤマザクラと考えられていた。勝木さんが新種と気づき、調査を経て学名発表に至った。ヤマザクラに比べ樹高が低く淡いピンクの美しい花を咲かせる。早咲きで2月下旬から開花することも。
〈一の堰ハラネ〉インバウンド観光客に人気の桜並木
'春めき'
花はピンクで、ぼんぼりのようにまとまって咲くのが特徴。樹高を低く抑え、桜と一緒に撮影しやすいことも人気の秘密。171本が植栽された狩川沿いの春木径も名所として知られる。
〈区立北小岩小学校〉小学校の校庭で見つかった新品種
'北小岩ざくら'
「えどがわ桜守」として10年以上活動する方が発見した。樹高は約6メートル。中輪の半八重咲きで、淡紅色のつぼみが、開花すると鮮やかな白色の花を咲かせる。同校全校児童による投票で命名された。
〈理化学研究所〉理研が開発した化学の子
理研の加速器「リングサイクロトロン」から発生する重イオンビームを桜の枝に照射し突然変異を誘発させて作り出した。枝から直接できた「仁科蔵王」「仁科乙女」。「仁科春果」「仁科小町」は、枝に咲いた花を自然受粉させた種子からできた。
取材・文/安藤政弘 編集/寺田剛治
※' '(シングルコーテーション)でくくっている名称は、属名、交配名を表わします。