
こないだNHKの『あさイチ』のブロッコリー回に出演してきました。平野レミさんがご一緒で相当楽しかったのですが、その際に初めてブロッコリーの歴史に触れることができました。日本で年間の供給が可能になったのは90年代からなんですってね。確かに私が小学生の頃、そんなに食卓にはなかった記憶です。いつの間にかスタンダードになり、2026年度には指定野菜にまで上り詰めるブロッコリー恐るべし。
そういうえば、昔、エリンギなんてなかったよね
さて、そんなことを考えていると、今では当たり前に手に入るけれど昔はなかったよな、という野菜ってそこそこありますよね。人間の価値観の上書きなんて簡単、忘れてしまいそうなことを掘り返しましょうよ。まずはエリンギ。美味しいですよね、肉厚で香りも良くてキノコであることを忘れるような食感です。
このエリンギが日本で初めて栽培されたのは1993年、しかし人気がなく生産量も少なかったところ2000年のミュージックステーションで桑田佳祐さんが「最近エリンギにハマってます」とマイクの代わりにエリンギを持ってタモリさんの前で紹介、そこから爆発的に売れたという説があります。いとしのエリーならぬ、いとしのエリンギといったところでしょうか。うわ。ですがそもそも美味しいこともあり、今では一般的になりましたね。何事も着火する起爆剤が必要なんだなと思わせてくれるエピソードです。
次、アボカドを考えましょう。ええ、もう野菜じゃない。果物分類ですよね、アボカド。アボカド自体は日本に1970代頃から輸入されはじめたようですが、なんと本格的に流行したのは2010年代とのことです。2020年には1988年の輸入量の約23.6倍っていうんだからえげつない。そして、その原因はなんとヴィクトリアズ・シークレットのエンジェルらしいんです。
念のため説明しますと、ヴィクトリアズ・シークレットはアメリカの女性用下着メーカー。大変にセクシーでランウェイで闊歩するモデルたちはエンジェルと呼ばれ、意識の高い同性たちの憧れの的なわけです。そんなセレブ代表エンジェルたちが「毎日食べているわ」と発信したのがアボカド。そこからサラダブームも相まって、日本でも急速に消費が広がったという話です。確かにカリフォルニアロールやタコスのイメージから一気に変化しましたよね。どうでもいいけどアボカドをスーパーで買うのって結構ガチャだよね。こないだ全然熟れてなくて萎えましたわ。
パセリが行けなかった高みに到達したパクチー
野菜に戻りましょうか。パクチー、嫌いな人も多いですよね。私は大好物です。海外に行くたびに思うんですが、パクチーもしくはコリアンダーって和食以外でほぼ全部使われている気がします。フランス料理も中国料理もインド料理、もちろんタイ料理も。これも本格的にブームになったのが2010年代。確かにパクチー専門店やパクチーサラダといったタイの人たちでさえそんな食べ方しないという料理法まで流行りました。歴史を遡ると平安時代にすでに日本にはあったらしいのですが、1980年代の後半からのアジア飯ブームで少し名を知られ、その後じわりじわりと名を挙げていくわけです。
しかしまあ、こんなに好き嫌いが分かれる食材も珍しいですよね。香りがカメムシみたい、と忌避する人がいる一方、山盛りにしてくれと懇願する人もいる不思議な食材です。永遠の添え物こと、パセリが行けなかった高みに到達した名誉葉物ではないでしょうか。
かくしてしれっとスーパーに並ぶようになった新野菜たちの一方で、消えていったやつらも。「プチトマト」って、実は商品名で2007年に販売終了になったらしいですよ。いやはや野菜界も人間界も諸行無常でございます。そんなことを思いながらケールのスムージーを飲む私です。おいケール、お前いつからいたっけ?
文/ヒャダイン
ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名 前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動。
※「ヒャダインの温故知新アナリティクス」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME5月号に掲載されたものです。